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婚活イベントではなく、慰労の席でございます

閻婆惜でございます。

本日は、食客歓迎の小宴についてご報告いたします。

慰労の席です。

断じて婚活イベントではございません。

なお、私は婚活イベントに参加したことはございません。

広告と同僚の愚痴で知っているだけです。

秦明様と黄信様は、まだ配属前。

花宝燕様との件も、もちろん正式決定ではございません。

まずは食事。

その次に会話。

婚姻内示は、まだ出しません。

聞き取りが終わった日の夕方、晁蓋様が小さな席を設けた。

大きな宴ではない。

酒も少ない。

歌もない。

女たちを並べるような席でもない。

名目は、食客を迎えるための慰労である。

名目は――

私は膳の数を確認しながら、内心でため息をついた。

これは、婚活イベントである。

もちろん、私は出たことがない。

広告と同僚の愚痴で知っているだけである。

「条件は悪くないのに会話が続かない」

とか、

「食事が微妙だった」

とか、

「司会が段取り下手だった」

とか、聞いている時は他人事だった。

まさか宋代の梁山泊で、その知識を使うことになるとは思わなかった。

ただし、絶対にそう呼んではいけない。

ここは慰労の席。

顔合わせではない。

まして婚活イベントではない。

表向きは、あくまで食客歓迎の小宴である。

「奥方、王英は呼ばんでよいのか?」

晁蓋様が確認する。

「不要でございます」

「即答だな」

「はい」

「理由は?」

「余計な話題を増やさないためです」

「呼ばぬ理由ではないのか?」

「呼ばぬ理由でございます」

晁蓋様が笑った。

宋江様は苦笑している。

花栄様は緊張した顔だった。

秦明様は、席に着いても腕を組んだまま動かない。

黄信様は、その隣で静かに座っている。

膳は出した。

水も出した。

酒は薄く、少なめにしてある。

深酒をさせる気はない。

悲しみと怒りに酒を入れると、だいたいろくなことにならない。

これは時代を問わない。

しばらくして、花宝燕様が入ってきた。

派手な装いではなかった。

逃げてきたばかりなのだから当然である。

それでも、髪は整えられていた。

衣も乱れていない。

花栄様が、わずかに立ち上がりかける。

私は目で止めた。

ここで兄が過保護に出ると、話がややこしくなる。

兄の妹としてではなく、花宝燕様本人として座っていただく必要がある。

花宝燕様は、晁蓋様に礼をし、宋江様にも頭を下げた。

そして、秦明様の方へ向き直る。

「秦明様」

秦明様の肩がわずかに動いた。

「花栄が妹、花宝燕と申します。このたびは、兄ともどもお騒がせいたしました」

秦明様はしばらく黙っていた。

「俺に礼を言う筋はない」

「はい」

花宝燕様は、静かに答えた。

「礼を言いに参っただけではございません。名を告げに参りました」

秦明様の眉が動く。

「名を?」

「はい……兄の妹、ではなく、花宝燕としてでございます」

花栄様が息を呑んだ。

分かる。

妹君が強い。

大変よろしい。

婚活イベントとしては、かなり優秀な自己紹介である。

もちろん、これは慰労の席である。

秦明様は小さな声で言った。

「俺は、家の者を弔ったばかりだ」

「存じております」

「妻を迎える話など、聞く気はない」

「それも、存じております」

場が張り詰めた。

宋江様が口を開きかける。

私は肘でそっと止めた。

今出てはいけない。

絶対に出てはいけない。

花宝燕様は、顔を伏せなかった。

「私は、亡くなられた方の代わりになるつもりはございません」

秦明様の目が、初めて正面から花宝燕様を見た。

「代わりではないと?」

「はい……代わりになど、なれません。なってよいものでもございません」

誰も口を挟まなかった。

花宝燕様は続ける。

「ただ、私もまた、誰かの都合だけで嫁ぐ者にはなりたくございません。秦明様が今すぐ何かを決める必要はございません。私も、今すぐ決めていただきたいわけではございません」

これは強い。

とても強い。

私は膳の端を見つめた。

顔に出すと、花栄様あたりが気づく。

秦明様は、しばらく花宝燕様を見ていた。

怒りは消えていない。

悲しみも消えない。

けれど、目の色が少しだけ変わった。

「お前は、俺を哀れんでいるのか」

「いいえ」

「ならば、何だ」

「知っておきたいだけでございます。兄が助けたいと願った方が、どのような方なのかを」

秦明様は答えなかった。

その代わり、膳に置かれた椀へ手を伸ばした。

初めてだった。

昨日から、秦明様はろくに食べていない。

その人が、自分で椀を取った。

晁蓋様が何も言わずに見ている。

黄信様も、ほんの少しだけ目を伏せた。

花栄様は泣きそうな顔になっていたが、こらえていた。

こらえられるなら良い。

宋江様は、まだ謝りたそうだった。

本当に謝りたい人である。

気持ちは分かる。

だが、謝罪にも順番がある。

謝れば自分が楽になる場面で謝ってはいけない。

秦明様は、食事を少し口に入れた。

噛み、飲み込む。

それだけのことが、この場では大きかった。

「晁蓋殿」

秦明様が低く言った。

「何だ」

「食客のまま世話になるのは、性に合わぬ」

呉用様の扇が止まった。

来た――

だが、急がない。

秦明様は続けた。

「青州には戻らぬ。戻れぬのではない。戻らぬ」

声が静かだった。

昨日のような荒ぶる声ではない。

自分で選ぶ声だった。

「梁山泊に名を置く」

宋江様が顔を上げた。

花栄様も目を見開く。

呉用様の目に、また計算が走る。

私は先に言った。

「役目と出陣は、後日でございます」

秦明様がこちらを見る。

「また保留か」

「はい、正式入山と即時配属は別です」

「面倒な女だ」

「よく言われます」

「本当か」

「言われる前に黙らせてきました」

秦明様が、ほんの少しだけ笑った。

本当に少しだけである。

だが、確かに笑った。

晁蓋様が大きく頷いた。

「よかろう。秦明殿、梁山泊はその名を受ける。だが、すぐ戦へ出よとは言わぬ。まずは休め」

「恩に着る」

「黄信殿はどうする」

黄信様が頭を下げる。

「秦明殿が名を置くなら、私も同じくお願いいたします。証人として残るだけでは、いずれ半端になりましょう」

「分かった」

晁蓋様は二人を見た。

「では、秦明殿、黄信殿。今日より梁山泊に名を置く。ただし、役目は後日改めて決める」

「承知した」

秦明様が言った。

黄信様も続けて頭を下げる。

宋江様が深く息を吐いた。

安心したのだろう。

だが、まだ終わっていない。

秦明様は宋江様へ向き直った。

「宋江殿」

「はい」

「許したわけではない」

「分かっております」

「だが、ここに残る。青州を許さぬためにもな」

「……はい」

宋江様は、ただ頭を下げた。

今回は、それでよい。

謝罪の言葉より、受け止める姿勢が必要な時もある。

私は頭の中で処理を更新する。

秦明様、黄信様。

食客扱いから正式入山へ変更。

ただし、役目、序列、出陣命令は保留。

花宝燕様との件は、顔合わせ済み。

婚姻決定ではない。

婚姻内示でもない。

本人同士の会話が成立した段階である。

よし――

婚活イベントではない。

これは慰労の席である。

ただし、慰労の席としては、かなり成果があった。

花宝燕様は、静かに膳へ目を落としている。

秦明様は、もう一口だけ食べた。

それだけで十分だった。

保留は、永遠に逃げるための言葉ではない。

決めるために、時間を置くことだ。

決める時が来たなら、決める。

まずは名を置く。

婚姻は、まだ先。

配属も、まだ先。

本日の婚活イベント――

ではなく、慰労の席は、以上でございます。

本件、閻婆惜よりご報告いたします。

本日の慰労の席は、無事終了いたしました。

秦明様と黄信様は、梁山泊に名を置くことになりました。

ただし、役目と出陣命令は後日でございます。

花宝燕様との顔合わせも済みました。

婚姻決定ではございません。

婚姻内示でもございません。

まずは会話が成立した、という段階です。

なお、本件は婚活イベントではございません。

慰労の席でございます。

王英様は最後まで呼んでおりません。

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