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ほどき師はもつれの糸をすくいとる  作者: 稿 累華
四章:秋月の奏聞

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弐拾一、日雇いの勤め

 御者の男から話を聞いてすぐ、ソノラは飛び出すようにして、央ノ宮へ向かった。なにも考えず、無我夢中だった。砂埃が上がるなか、城に登る門へ辿り着く。

 兵が、両脇を守っていた。声をかけても、通してもらえないのを悟り、ソノラは踵を返す。うろうろと通いの門をさまよっていたところで、声をかけられた。


「あれ、君……?」


 男の声に、ソノラは見上げた。記憶を辿って、昨日出会ったタカラと結びついて、ソノラは声を上げる。


「──ヒジャルさん、ですか?」


「以前はありがとう。君に声をかけてもらえてよかった」


 〈もつれ〉のほどけた男──ヒジャルは、照れ臭そうに笑った。


 たいしたことはしていない。

 タカラに言ったようにヒジャルの礼へも恐縮したが、ヒジャルの腹に、もう〈もつれ〉が見えないのを確認すると、ソノラは、ほっと息をついた。


 それから、ふと思いつく。

 ヒジャルに、にじり寄った。


「こんなことをすみません。──王宮に入る伝手(つて)をご存知ではありませんか?」


 王宮に入ることができれば、ミハヤたちの様子を知ることができるかもしれない。


「……どうかしたのか?」


 ヒジャルが、ソノラの様子に声色を変える。


「急いでいるんです。困っていて……」


 ソノラは、ミハヤが捕まったいきさつをヒジャルに説明した。

 ヒジャルはしばし悩みを見せてから、簡潔に言う。


「伝手は、ある」


 ソノラは、ぱっと顔を上げた。


「ついてきてくれ。ちょうど、奏聞の列で汚れた宮を掃除する日雇いを募っている」





 ソノラは、宮殿に知り合いのいるヒジャルの伝手で、その日だけの下働きの仕事に潜らせてもらった。ヒジャルは、〈明けの国〉の武官で、王宮への出入りを許される証を持つ立場で、捕まったミハヤと里長がどこに連れて行かれたのか、また保釈されるのか探ってきてくれるとのことだった。

 今日は非番であったとのことだったが、好意に甘えさせてもらうことにした。


「上役に聞いてみよう。なにか知っているかもしれない」

「休みの日にすみません。タカラさんにもお礼を」

「タカラを知っているのか?」


 ヒジャルは、驚いたように目を丸くして、それから思い出した顔をした。


「そうか、オリで……」

「昨日も少し、お世話になることがあって」


 まさか、あなたの件で礼を言われたとは言えない。もちろん、餅をたらふくご馳走になったことも。

 昨日の別れ際、タカラに少しそっけなく帰ってしまったことを、ソノラは申し訳なく感じていた。また縁があるとは思っていなかったが、もし顔を合わせることがあれば、きちんと礼を尽くそうと思う。


「タカラは、実直な男だ。もし、不当に君の親が捕まったことを知れば、助力してくれるだろう」

「少し、わかります」


 ソノラは、タカラの腹にそそぐ、天から伸びる真っ直ぐな糸を思い出した。


「お力添えを、ありがとうございます」


 しっかりと頭を下げた。

 ミハヤにしつけられたあり方のひとつだ。


 ソノラは、ヒジャルと別れると、日雇いの仕事についた。下働きの元気のよさは、里長の屋敷と同じだった。


「あっちをやっておくれ!」


 支給された衣に着替えると、ソノラはすぐに里での働きを思い出した。体が慣れた動きをはじめる。

 箒を持って、落ち葉を掃いていく。途中の四阿(あずまや)の塵や埃を払い、汚れを濯(すす)ぐ。

 ソノラは働き者で、目的を忘れて夢中になるままに動いた。もとから働いている者たちが舌を巻き、「あっちもお願い」と頼りにされるほどだった。


 あれよあれよと仕事を受けているあいだに、気づけば、ソノラは、宮中で道に迷っていた。


(どうしよう)


 きょろきょろする。石段をいくつかのぼった。階段をくだれば、もとの掃除場に戻れるだろうか。勤めはきちんと果たしたかった。


 そうして道を急いで進んでいると、切り立った岩の曲がり角で、真正面から人とぶつかった。酒気がする。

 顔をあげれば、体つきのしっかりとした男だった。背はそこそこの、顔はまあまあの男だ。ただし、あまりにも酒臭い。



「なんだ、お前は! しれ者めが!」



 ──まさか、その人物が、〈暮れ〉の皇子ヨルカであるとは、ソノラは思わなかった。



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