エピローグ
「うん、過労だね。しばらくは絶対安静だよ」
声が出せないほど弱ってた俺は、アーチャーに看病されながら窓の外を見た。今日も、エルフたちは元気に生きていた。
「さて、じゃあボクは行くよ。フロードが向こうで待ってる」
「……すまない、エンヴィ。転移を使わせて」
「別にいいよ。エルフの都市なら、ノウェルもゆっくり休める。あとのことはボクに任せて、ちゃんと休んだよ、二人とも」
にこりと笑って、エンヴィは転移した。
「……ノウェル。散歩、するか?」
覗き込んできてアーチャーに、俺は頷いた。
アーチャーに抱き抱えられて、エルフの都市を歩く。通りすがるみんなが微笑ましげに見て来るので、少し恥ずかしかった。
ウェルナを救ったあと、俺は五日ほど眠り続けたらしい。
最初はあの国の王都で休んでたのだが、魔力の戻りが遅いため、エルフの都市に移動したそうだ。
『邪竜から聖竜になったウェルナは、今の君みたいに声を出せない状態だ。おそらく、後遺症だろうね。聖竜の雛になった彼女は、キース王子の使い魔として、彼の旅に同行するらしいよ』
なんでも、世界を見たいらしい。
ベディという騎士と共に、彼らは旅立った。
冒険者としての旅だから、いずれはどこかの国で会えるだろう。
――その時の、キースの魂が楽しみだ。
きっと、立派な人間になって。英雄王の理想を継ぐ。
そんな確信を、俺は持っていた。
『……ああ、そうだ。一応、君にも伝えておくね。ウェルナが聖竜になった時、国が二つ滅んだ。一つは大量に発生した魔物が原因だ。でも、もう一つの方は。おそらく、呪詛返しだ』
たぶん、ウェルナを呪いにした魔術師がそこにいたんだ、と。
酷く真剣な顔で、エンヴィが言っていた。ウェルナが代償として払ったのは声と、成体。体はいずれ大人になると思うが、それだけですんだとなると。
――誰かが、肩代わりした可能性が出てくる。
でもまあ、俺としてはいい結果だ。
多くの犠牲者が出てしまったが、これでエルフたちへの危機はなくなった。ウェルナを邪竜の巫女にした魔術師。そいつが、エルフたちを殺した黒幕だったんだ。
『すっごい偶然だけど。あの時、宿屋で拾った結晶が灰になったんだ。呪いは、一度生物になってしまうとなにも残さない。けど、卵の殻は残るんだよね。そしてこれは、作った魔術師が死ぬと』
『……輝きをなくして、灰になる』
『正解。さすがアーチャー。よく覚えてるね』
『結晶が灰になるんだ。忘れるには衝撃的すぎる』
『だね。まあ、これでエルフたちの平和は確約された。君としてはまだ不安かもしれないから、しばらくはここで休養して』
後始末はぜーんぶ、ボクがやるからさ。
にこにこと笑ってたエンヴィを思い出して、目を閉じる。
「……君のせいじゃない」
「?」
閉じた目を開けると、アーチャーが不安そうに見てた。
「呪詛返しは君のせいじゃない。国の滅びを背負う必要はない」
「……」
分かってる。そう口にするも、声が出ない。
だから思わず、苦笑してしまった。
アーチャーは気付いてるんだ。
俺が、余計なものを背負ってしまったことに。
(……本当に、あなたは優しい)
その優しさが、心の傷に染みてしまう。
大丈夫だと包み込んで来るから、こんなにも安心できる。
俺は、六十年前よりも弱体化してる。
それでも。こんな俺を、支えてくれるんだな。
☆☆☆
「……大丈夫か?」
「うん。なんとか、生きてるよ?」
疑問形か。これはヤバいな。フロードに支えられてるエンヴィに、リンゴをあげる。ナージャたちからの見舞い品だ。
「主は、ちゃんと声が出るようになったんだな。よかった」
「お前たちのおかげだ。後始末、本当にありがとう」
「……お礼を言われるほどのことはやってねぇよ。全部、エンヴィと冒険者たちがやっちまったからな」
そのせいで俺は暇だった、と愚痴るフロードに。
エンヴィは、嬉しそうな顔をした。
「でもそのおかげで、新しいナイフを買えたんでしょ?」
「……そうだけどよ。死霊相手に刃こぼれは、なんか情けない」
「そりゃあまあ、ギリスの使い魔だからね」
クスクスとご機嫌なエンヴィは、見事に復活したようだ。
残ったリンゴは俺が食べるとしよう。
元々、俺への見舞い品だからな。
「それで、これからどうするんだい? エルフの都市に住む?」
「いや、冒険がしたい。六十年でどれだけ変わったかを、知りたいんだ。でもまずは、ここに工房を作る。そしていつでもエルフの都市に戻れるよう、工房の床に転移魔術を刻みたい。別行動してる場合を考えて、それぞれに転移できる魔道具を作るが。これは戻るためのものだから。転移したら、またここからの再出発になる」
みんなで旅をする。それの許可はもらってる。
冒険者『虚ろなるもの』として、俺たちは世界を巡るんだ。
――いろいろと変わってしまった今を、知るために。
「俺は、別に構わない。君と一緒にいられるのなら」
「エルフの都市は、どこの国よりも安全だからな。俺も賛成だ、主。またこの前みたいなことが起きたら、すぐに移動できる」
「そうだね、ボクも賛成だよ」
――なら、まずは。工房を作ろうか。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
第二章は、書き終わり次第、また毎日投稿をしていきます。




