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虚ろなるもの  作者: 葉海ふーと
第一章 邪竜の巫女
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エピローグ

「うん、過労だね。しばらくは絶対安静だよ」

 声が出せないほど弱ってた俺は、アーチャーに看病されながら窓の外を見た。今日も、エルフたちは元気に生きていた。

「さて、じゃあボクは行くよ。フロードが向こうで待ってる」

「……すまない、エンヴィ。転移を使わせて」

「別にいいよ。エルフの都市なら、ノウェルもゆっくり休める。あとのことはボクに任せて、ちゃんと休んだよ、二人とも」

 にこりと笑って、エンヴィは転移した。

「……ノウェル。散歩、するか?」

 覗き込んできてアーチャーに、俺は頷いた。


 アーチャーに抱き抱えられて、エルフの都市を歩く。通りすがるみんなが微笑ましげに見て来るので、少し恥ずかしかった。

 ウェルナを救ったあと、俺は五日ほど眠り続けたらしい。

 最初はあの国の王都で休んでたのだが、魔力の戻りが遅いため、エルフの都市に移動したそうだ。


『邪竜から聖竜になったウェルナは、今の君みたいに声を出せない状態だ。おそらく、後遺症だろうね。聖竜の雛になった彼女は、キース王子の使い魔として、彼の旅に同行するらしいよ』


 なんでも、世界を見たいらしい。


 ベディという騎士と共に、彼らは旅立った。

 冒険者としての旅だから、いずれはどこかの国で会えるだろう。

 ――その時の、キースの魂が楽しみだ。

 きっと、立派な人間になって。英雄王の理想を継ぐ。

 そんな確信を、俺は持っていた。

『……ああ、そうだ。一応、君にも伝えておくね。ウェルナが聖竜になった時、国が二つ滅んだ。一つは大量に発生した魔物が原因だ。でも、もう一つの方は。おそらく、呪詛返しだ』

 たぶん、ウェルナを呪いにした魔術師がそこにいたんだ、と。

 酷く真剣な顔で、エンヴィが言っていた。ウェルナが代償として払ったのは声と、成体。体はいずれ大人になると思うが、それだけですんだとなると。

 ――誰かが、肩代わりした可能性が出てくる。


 でもまあ、俺としてはいい結果だ。

 多くの犠牲者が出てしまったが、これでエルフたちへの危機はなくなった。ウェルナを邪竜の巫女にした魔術師。そいつが、エルフたちを殺した黒幕だったんだ。

『すっごい偶然だけど。あの時、宿屋で拾った結晶が灰になったんだ。呪いは、一度生物になってしまうとなにも残さない。けど、卵の殻は残るんだよね。そしてこれは、作った魔術師が死ぬと』

『……輝きをなくして、灰になる』

『正解。さすがアーチャー。よく覚えてるね』

『結晶が灰になるんだ。忘れるには衝撃的すぎる』

『だね。まあ、これでエルフたちの平和は確約された。君としてはまだ不安かもしれないから、しばらくはここで休養して』

 後始末はぜーんぶ、ボクがやるからさ。


 にこにこと笑ってたエンヴィを思い出して、目を閉じる。


「……君のせいじゃない」

「?」

 閉じた目を開けると、アーチャーが不安そうに見てた。

「呪詛返しは君のせいじゃない。国の滅びを背負う必要はない」

「……」

 分かってる。そう口にするも、声が出ない。

 だから思わず、苦笑してしまった。

 アーチャーは気付いてるんだ。

 俺が、余計なものを背負ってしまったことに。


(……本当に、あなたは優しい)


 その優しさが、心の傷に染みてしまう。

 大丈夫だと包み込んで来るから、こんなにも安心できる。

 俺は、六十年前よりも弱体化してる。

 それでも。こんな俺を、支えてくれるんだな。



☆☆☆



「……大丈夫か?」

「うん。なんとか、生きてるよ?」

 疑問形か。これはヤバいな。フロードに支えられてるエンヴィに、リンゴをあげる。ナージャたちからの見舞い品だ。

「主は、ちゃんと声が出るようになったんだな。よかった」

「お前たちのおかげだ。後始末、本当にありがとう」

「……お礼を言われるほどのことはやってねぇよ。全部、エンヴィと冒険者たちがやっちまったからな」

 そのせいで俺は暇だった、と愚痴るフロードに。

 エンヴィは、嬉しそうな顔をした。

「でもそのおかげで、新しいナイフを買えたんでしょ?」

「……そうだけどよ。死霊相手に刃こぼれは、なんか情けない」

「そりゃあまあ、ギリスの使い魔だからね」

 クスクスとご機嫌なエンヴィは、見事に復活したようだ。

 残ったリンゴは俺が食べるとしよう。

 元々、俺への見舞い品だからな。

「それで、これからどうするんだい? エルフの都市に住む?」

「いや、冒険がしたい。六十年でどれだけ変わったかを、知りたいんだ。でもまずは、ここに工房を作る。そしていつでもエルフの都市に戻れるよう、工房の床に転移魔術を刻みたい。別行動してる場合を考えて、それぞれに転移できる魔道具を作るが。これは戻るためのものだから。転移したら、またここからの再出発になる」


 みんなで旅をする。それの許可はもらってる。

 冒険者『虚ろなるもの』として、俺たちは世界を巡るんだ。

 ――いろいろと変わってしまった今を、知るために。


「俺は、別に構わない。君と一緒にいられるのなら」

「エルフの都市は、どこの国よりも安全だからな。俺も賛成だ、主。またこの前みたいなことが起きたら、すぐに移動できる」

「そうだね、ボクも賛成だよ」


 ――なら、まずは。工房を作ろうか。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

第二章は、書き終わり次第、また毎日投稿をしていきます。

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