15 俺たちは、生きていく
「おっりゃ!」
魔力を纏わせた足で、死霊を蹴飛ばした。けれどすぐに次が来る。手持ちの投擲用ナイフを投げて、順番に殺した。
「……ほんと、どんだけ来るんだ」
対策なしにギリスの砂漠へは行くな。そう言ってた師匠の言葉通り、ここの死霊は普通じゃない。馬鹿みたいに頑丈すぎる。エルフの魔除けがなかったら、とっくに衰弱死してたかもしれない。
(なんか、ずっと助けられてるな)
俺が、彼らを支えなくてはいけないのに。
自分の未熟さを突き付けられてしまう。
「ハハ、師匠にぶっ殺されるかも」
「……フロード、大丈夫か?」
「あれ、ノウェルは?」
こちらにやって来たアーチャーが、俺の背中を撫でた。
「死霊は、近くにいるだけで生者を衰弱させる。魔除けに魔力を纏わせてるようだが、体力は大丈夫か?」
「ああ、まだ戦える」
汗を拭って、邪竜がいる方を見る。
「……はっ?」
ありえない光景が広がっていた。邪竜が、白い文字のようなものに囲まれて、まったく抵抗してないのだ。
「なん、えっ?」
邪竜の前にいるノウェルが、手を動かす。
すると、宙に浮かんでる文字が揺らいで邪竜が項垂れた。
「彼なら今、呪いを反転させてる。邪竜を、聖竜にできないかを試してる最中だ。俺たちは、死霊を蹴散らすぞ」
アーチャーに肩を叩かれて、俺は考えることをやめた。
たまに忘れてしまうが、ノウェルは大賢者と呼ばれる魔術師だ。魔物との戦闘よりも、あらゆる知識を使って新たな魔術を生み出すのが彼の得意分野。
本当なら、工房に引きこもるタイプの魔術師なんだ。
「……はは、俺は、役に立ってるのか?」
ノウェルの実力であれば、この死霊たちもまとめて排除できるのでは? そう思ってしまう俺に、アーチャーが言った。
「フロード。俺たちがいるから、ノウェルは安心して彼女を救うことができる。彼は、頑張り屋だが。それでもできないことがある。こいつらを倒せるのは、俺たちだけだ」
黒い影を矢のように飛ばして、死霊たちを消滅させる。
そしてアーチャーは、ノウェルを見た。
「もし、守ってくれる仲間がいなかったら。彼は結界を張って、文字通り命を削ってあの少女を助けたはずだ」
黄昏色の瞳が、こちらを向く。
まったく表情を動かさない男が、微笑みを浮かべた。
「君がいてくれて、本当によかった。ありがとう。そして歓迎する。ようこそ、『虚ろなるもの』へ」
『……ねぇ、なんで? どうして、助けるの?』
魔術を組み上げ、少女の呪いを反転させていると。大人しくなった竜の目から、涙がこぼれた。ウェルナの意識が、出てきたようだ。でもまだ安心できない。初めての試みだからな。
慎重に呪いへと干渉しなければいけない。
「別に、お前のためじゃない。……ただ俺が、見たくないだけだ。もう誰にも、こんなの魔術で、苦しんでほしくない」
魂は、なによりも不自由で、自由なもの。
こんな呪いなんかに、縛られていいものじゃない。
魔力そのものに形を与えて、ゆっくりとウェルナの魂に干渉する。黒くこびり付いた呪いを剥がして、その欠片を浄化した。ここまでの呪いは、本当に初めてだ。少しでも力を弱めておかないと、反転による反動で彼女が死んでしまう。
かなりの緻密な作業に、汗が止まらない。
同時にやっていかなくてはいけない魔術の多さに、脳みそが爆散しそうだ。死ぬかもしれない。俺の頭が、爆発する。
――エンヴィ、ブチ切れるかな。
そんな死に方で、自動転生を行ったら。
(……いや、まだ死ねない)
血だらけになってたナージャが、脳裏に浮かんだ。もしここで倒れたら、誰がエルフの都市を守るんだ。まだかつての自分に戻れてないけど、それでも必死にできることをやる。
魔術師は、己の魂を知覚することで万物に干渉する。魂こそが最大の力であり、世界は意志によって形を変えるのだ。
「ウェルナ。願え。生きたいと」
唇を噛み締め、なんとか冷静さを保つ。
俺に、できないことなんてない。どれだけ頭が無理だと言っても、魂はやれると叫んでる。
さあ、クソガキの未来を、切り開け。
文字となった魔力が、眩い光を放った。複数の魔術を、同時に制御するためのメモ書きみたいなものだったが。
――発想はよかった。でも、改良しないといけないな。
ぐらりと、体が傾く。
「ノウェル」
誰かが、俺の体に手を回した。アーチャーだ。
「……成功したんだな」
「ああ。聖竜の、雛になったがな」
反転による反動。呪いになったことによる後遺症。
いろいろと不自由があると思うが、なんとか命を繋げれた。
「……よかった」
アーチャーの腕の中で、意識が落ちる。
まだやることが山積みなのに、目の前が真っ暗になった。




