EP23.1「閑話 潜む影」???視点
文字数少ないです。
彼がいなくなってから、私はへたり込んだまま動けなかった。
山賊が暮らしていた天幕と、そこにある洞窟。
その中心に私はいた。
目の前には彼が倒した山賊の死体が放置されていた。
酸っぱくて臭い匂いが漂って、嗅いでいると吐き気を催しそうになる。
約束を破り、彼を助けようと草むらから飛び出して笛を吹いた。
囮になるつもりで出てきたのだ。
彼ではなく、私を狙うようにと。
彼に死んでほしくない一心でただひたすらに吹いた。
気分が悪いのは、息継ぎもせず、ただ長く吹くことだけを考えたからだ。
空気がなくて、胸が苦しい。
足りない分を身体が求めて息を吸う。
けど、私がへたり込む理由はそれだけじゃない。
彼がいなくなってしまったからだ。
行かないで。
何度そう思ったことか。
彼が私から離れたくて行ってしまったわけではないと知っている。
彼の正体を知った山賊を倒すためだ。
それは私と彼が一緒にいるために必要なことだと理解できる。
けど、頭では判っていても、この気持ちだけは抑えきれなかった。
彼を一人にしてはいけない。
私だけは最後まで一緒にいなければならない。
取り返しのつかないことを起こさないために、私は彼と一緒にいないといけない。
そう思えば思うほど、涙が零れそうになる。
これが彼との最期になって欲しくない。
そんなことないはずなのに、そう思ってしまう。
「…………」
声は出ないのに、しゃくり上げそうになる。
涙はポロポロと流れ、ちっぽけな自分が嫌になる。
どうして一緒に行かなかったのか?
私が弱いせいだ。
彼は私を守ろうと必死に戦ってくれている。
私を邪魔だなんて彼はちっとも思っていない。
寧ろ、私に対する気遣いが異常なくらいだ。
だからこそ、それは駄目だと言ったのに…………。
…………。
…………。
…………。
…………行かないで。
一緒にいて。
でも私は彼の足を引っ張っている。
重荷になっている。
でも彼はそんなこと言わない。
それは彼が優しいからだ。
優しいから、困っている人のために山賊を倒そうとする。
優しいから、彼は私と一緒にいてくれる。
甘えているだけでは駄目だ。
彼と一緒にいたいなら、私自身が強くならないといけない。
だからこそ、泣いてばかりはよくない、と自身に言い聞かせる。
でも涙は止まらなかった。
彼を信用してないの?
このまま自分の前からいなくなると本気で思っているの?
違う。
ならどうしてこんなに悲しい気持ちになるの?
判らない。
どうしてこんな風に思ってしまうのか…………。
彼が好きで好きでたまらない。
死んでほしくない。
生きてほしい。
彼は死なないと言っても、私の気持ちは変わらない。
行かないで。
死なないで。
生きて。
そんなふうに考えていると、誰かが洞窟の中から歩いてきた。
誰だろう?
「…………誰?」と声が聞こえてくる。
綺麗な女性の人だった。
金髪のセミロングにそばかすが特徴的な美人な人。
手足が長く、おっとりとした雰囲気を漂わせる。
急いで服を着たのか、胸元が少しはだけて見えた。
彼女は私を見て不思議そうにするが、周囲の状況が目に入ったのか、驚いたように口元に手を当てる。
「これは…………あなたが倒したの?」
「(ブンブンッ)」
彼女の言葉に首を振る。
私じゃない。彼がやった。
「あなたは誰? どうしてこんなことに…………」
彼女はそこまで言って言葉を止めた。
何かを見て目を見開いたようだった。
彼女の視線を辿ると自分の後ろ。
振り向くと、森の中に複数のモンスターがいて、こちらを覗いていた。
それらは灰色の狼のような姿を持ち、赤い爪と牙が特徴的である。
更に見ると、奥からひと際大きい身体を持つモンスターが現れた。
「あらあら。アイツがいなくなったと思ったら、活きの良い獲物が二匹もいるわねぇ」
巨大なモンスターは私たちを見るなり、不気味な笑みを浮かべて舌舐めずりをした。
明日以降、二日に一回のペースで投稿予定です。
よろしくお願いします。




