EP19「尋問」
「尋問する間、向こうに置いた五人が動き出さないか見ておいて欲しい。近付く必要も俺から離れる必要もない。ただそこで見ているだけでいいから」
「(コクリッ)」
彼女には気絶した五人の監視を頼み、俺はリーダー格の男の尋問をすることにした。
さっきまで俺にくっついていた彼女だが、少し経つと落ち着いたのか、すぐに離れて今はケロッとしている。
平気な振りをしているだけか…………?
先ほどまで服の裾を全然離そうとしなかった。
けれど、今は血塗れの男たちを見ても怖がる様子もない。
いつも通りに見えた。
仮面を被っているせいで表情が見えないな。
無理をしている可能性もあるため、尋問は手早く終わらせようと男のほうに向き直る。
相手はしおらしくその場に座り込み、俺を窺うように見上げてきた。
「質問するから正確に答えろ。時間を稼いで仲間が来るのを待つようだったり、嘘を吐いたと俺が思った時点で死ぬと理解しろ」
淡々と脅すように言うと相手は慌てて居住まいを正す。
「ま、待ってくれ。アンタは人間じゃなくてモンスターなのか?」
紫色の腕を一瞥してリーダー格の男は言う。
人間か、人型のモンスターか判断できず、聞かずにはいられなかったようだ。
「どっちでもいいだろ? 質問する前に勝手な発言をしたから、まずは右足をもらう」
言って相手の右足首を掴んで握り潰す。
先ほどから握りつぶしてばかりで手が血塗れであった。
「ああああっ!?」
「生かすためにわざと足を狙ったんだ。死にたくなかったらとっとと素直に言え」
足を押さえて男はジタバタとその場でもがくが、俺の声が聞こえていたのか、すぐに視線をこちらに移した。
「言う! 言うから助けてくれ!?」
「お前たち山賊は全部で何人いる?」
「三十人くらいだ!」
痛みが激しいのだろう。
声には怒気が混じっていた。
「正確に言えと言っただろ? まだ左足が残っている」
「二十七人だ! 増えたり減ったりしなきゃ二十七!」
やけくそ気味なのだろう。
涙目で叫ぶその姿は憐れではあったが、同情はしない。
「お前たちの拠点はどこだ? 山賊なら山の中か?」
「ここから東に行けば洞窟がある。そっちのほうだ」
指を指して方角を示す。
視線を移すと街道から離れた場所にあるようだった。
山賊は二十七人で場所は東の洞窟。
欲しい情報は揃った。
もう始末しても良かったが、気になることが頭に浮かんだためもう少し質問を続ける。
「攫った人たちはどうした? 無事なのか?」
「あ、ああ。奴隷商に売りつけるからって、お頭の指示で捕まえた奴は全員生かしているよ」
「お頭?」
「ゲーリッヒさんだ。『大熊』のゲーリッヒ」
『大熊』…………二つ名持ちか。
知らない名前であったが、二つ名を名乗るということは腕が立つのだろう。
稀に二つ名を自称する見掛け倒しの奴もいるが…………。
「聞いたことがない。本物かそれ?」
相手は顔色を変えた。
「あ、あんた……『大熊旅団』のGM、『大熊』のゲーリッヒを知らないのか?」
「知らん」
素直に答えると相手はマジマジと俺を見てきた。
そんな目で見るな、腹が立つ。
…………ん? ちょっと待て?
「『大熊旅団』は解散したギルドだったはず……お前たち元ギルドの人間か?」
「『大熊旅団』は解散なんかしてねえ! 今は休業しているだけだ」
男が大声を上げる。
プライドを傷つけたのか、歯を食い縛って睨んできた。
なるほど、村長の言っていたことは当たっていたらしい。
荷馬車を襲っている山賊は全員『大熊旅団』のギルドメンバーで間違いないようだった。
「その山賊ギルドがどうしてこんな好き勝手している? ここは『鏡面穿つ一矢』の縄張りなんだろ?」
俺の言葉に男は鼻で笑った。
「『鏡面穿つ一矢』は金さえ渡せばダンマリだ。役人と同じでよ」
「!?」
男の話しを聞くと『大熊旅団』は荷馬車を襲撃し、奪った物資の一部を『鏡面穿つ一矢』と憲兵に横流ししているそうだ。
見返りとして、どちらからも目溢ししてもらっているという。
だからコイツらは放置されているのか…………!
話を聞くだけで怒りが湧いてくる。
ウッチャ村の人たちは苦しんでいるのに、それを放置して山賊に対処しない理由がこれだ。
だから三週間近く経っても憲兵は何もしない。
賄賂を貰い、知らんぷりである。
腐ってやがる、ふざけんじゃねえぞ。
「その汚職憲兵は誰だ? そいつの名前を教えろ」
「し、知らない。ベアマックスで会う奴は決まってダブリンだ。それ以外の奴らは誰も知らない」
ダブリンというギルドメンバーが『鏡面穿つ一矢』と憲兵に対する橋渡し役のようだ。
「何で汚職なんかする? 憲兵からすれば、ギルドを見せしめに取り締まる絶好の機会だろ? 執政官も気づいてないのか?」
「そんなの俺が知るわけないだろう!」
男はそんなこと聞くな、と喚く。
これ以上叩いても、埃は出そうになかった。
腸が煮えくり返る気持ちだが、今は我慢する。
先に山賊だ。
「…………『大熊』のゲーリッヒ。そいつの特徴を教えろ」
「髭面で鉤爪を持った大柄な男だ。他に鉤爪を持っている奴はいないから一目で判る」
肉体強化を主体とした近接戦闘をするらしく、魔法は使えないらしい。
「どうしてこんな場所で山賊なんかをやっている? ラズアールにいたんだろ?」
「ここらは大手ギルドの目も届かない田舎だ。俺たち流れ者にとっては、色々とやりやすいんだよ」
男は身の上話として、ここに至るまでの事情を話し始めた。
ゲーリッヒという男は顔が広いらしく、職にあぶれた連中を集めてギルドを立ち上げた。
しかし、派閥争いなどによる競争激化に伴いギルドは衰退し、婦女暴行事件がきっかけになって最終的にラズアールから去ることとなった。
その流れでこの場所まで落ちぶれたと彼は言う。
「俺たちだってやりたくてやってわけじゃねえ。生きるためだ。なあ、頼むよ? 許してくれよ」
懇願する口調で男は話すが、そんな言葉に付き合うつもりはなかった。
その後、いくつか情報を聞き終え、俺は彼女のほうを見る。
気絶した男たちを監視していたが、彼女は俺の視線に気づいたのか、こちらを見た。
早く終わらせてやろう。
「なあ、俺たちはどうなるんだ?」
俺が彼女のほうへ視線を移したことで仲間の五人組を一瞥したと勘違いしたらしく、男はわなわなと震えていた。
お前たちが殺したり、襲撃した人たちも同じ気持ちだっただろうに。
俺は男の言葉を無視して、思ったことを口にする。
「世の中には色々な人がいる。ギルドも組織ごとに違った考えを持つ」
『大熊旅団』の方針は、民間人を襲って物資を奪い、人を攫うか殺してもいいらしい。
「…………俺は死んだら地獄に落ちる。間違いない。お前たちはどうだ? 自分の胸に聞いてみろ。お前の行いは人々に堂々と胸を張って言えるものなのか?」
男は聞くや否や、顔を歪めてすすり泣く。
もう遅い。
武器を持って戦うことは悪ではない。
生きるために戦うことは必要だ。
けれど、歩んだ道が血に染まるなら覚悟を決めないといけない。
死ぬのは怖い。
気持ちは判る。
俺もそうだ。
けど、だからといって目を逸らしては盲目になるだけだ。
自分が歩んだ道には、自分の足跡が残る。
どれだけ否定しても見ないようにしても、その事実は影のように纏わりついて人から離れることはないのだから。
気絶した五人からも情報を聞き出し、齟齬がないことを確認すると敵の剣を奪って一人一人の首を切り落としていく。
殺す際に「先に行ってくれ、俺も後から行くから」と胸に秘めつつ、俺は山賊たちを冥土に送るのだった。




