EP17「作戦会議」
山賊がここまで暴れ散らかしている理由は不明であったが、集められる情報は大方集められた気がした。
襲撃から逃げ延びた人は、既に村を離れてここにはいないらしい。
というのも、その人は街道を使わず獣道を行くことで山賊の襲撃を回避しようとしたそうだ。
ただ山賊には遭わずとも、モンスターには遭うことになるため、どの道危険なことには変わりない。
獣道は腕の立つ人間にしか選べない危険なルートなうえ、馬車も使えず時間もかかるそうだ。
最悪の場合、俺たちもそのルートで行けるが、時間をかけての旅は出来れば避けたかった。
「…………ここでいいか。ちょっと座ろう」
「(コクコクッ)」
村長の家を離れたあと、村から離れた場所で俺は彼女と二人、木陰に座って少し休憩する。
村長の家を出たあと、彼女が心配した様子で俺を見てきたが、雑誌の内容は歩きながら話す内容でもないため「少し村から離れよう」と言ってここまで来たのだった。
「この雑誌に俺の名前が載っていた。討伐モンスターってだけじゃなくて、指名手配犯としても認知されているらしい」
そう言って雑誌を渡し、該当のページを教えると彼女は食い入るように読み始めた。
読み終えると顔を上げ、雑誌を掲げて破く素振りをしたので慌てて止めに入る。
やめてくれ。
「そんなに怒るなよ。心配してくれるのは嬉しいけど……」
「(ギロリっ)」
一瞬俺を睨むように見てきたが、すぐに表情を戻して大人しくなる。
『理不尽』
「そうだな。けど、仕方ない。俺はモンスターで、騙していたと言われたらその通りだとしか言えないからな」
雑誌を取り上げて背嚢にしまう。
「ところでさっきから村の人たちと話していたけど、誰もきみのことを知らないみたいだ。目撃情報もないってことは、きみはこの村を介さずに山に来たのかもな」
「(コクコクッ)」
どうやってこの娘が山に来たのか、その手がかりを得られるかと期待していたが、どうやら単純な話ではないようである。
人目を避けてあの山に来たのだろうか?
「まあ、きみのことは『守り傘』に調べてもらうから一旦脇に置いておこう。問題は山賊だ」
現状判っていることは、山賊の出没地点と背格好、襲撃による被害状況だ。
場所は街道沿いにある森の中。
全員が似たような服装で色は黒に近い青色の見た目で統一されているらしい。まるで組織立って活動していると宣伝しているかのようである。
襲撃時の人数は少なくとも、六、七人はいるらしく、山賊全体で何人いるかは不明のままだ。
荷馬車を襲い、積み荷を奪って人まで殺しているらしい。
攫う人間もいるとのことだが、村長の口振りから美人を狙っているのだろうか。
人を殺しているのが事実なら、俺も遠慮する必要はない。
口封じも兼ねて皆殺しにさせてもらうだけだ。
「山賊が全部で何人いるか、どこを拠点に活動しているか。最低限この二つは知りたいが、これ以上の手がかりは恐らく村では手に入らないと思う」
『どうやって調べるの?』
「村の人が判らない以上、直接山賊の人間に聞くしかない」
俺は彼女を伴って、山賊が現れるという森を目指して街道へと向かった。
ーーー
攫われた人たちは助け出さないといけない。
だがそれは、俺の行動を阻害する要因の一つでもある。
どうするか…………?
俺と彼女は街道を森に向かって歩きつつ、人質がいた場合の対処方法を考えていた。
人質がいたら、俺の姿を晒すわけにはいかない。
どうやって助ければいい?
人質に俺の正体がバレないようにしつつ、山賊を殲滅するにはどうするのが最善だ?
…………人質のいない場所で山賊を殺していくしかない。
「…………ゲリラ戦だな。目立たず堅実に数を削っていくしかない」
「…………?」
俺の言葉に彼女が不思議そうに首を傾げる。
「ああ、ごめん。独り言言ってた。どうすればいいか考えていたんだ」
「(コクコクッ)」
彼女は頷くだけで、何も聞いてはこなかった。
そうだ。一応…………
「予備の仮面と笛を渡しておく。これから山賊と戦うことになるから、俺だけじゃなくてきみも正体を隠しておいたほうがいい。笛は万が一、攫われそうになったときに使ってくれ。最優先で助けるよ」
彼女を攫わせるなど、絶対にさせるものかと心で誓いつつ、非常時を想定して彼女に仮面と笛を手渡した。
「山賊から情報収集するために、わざと敵の襲撃を受ける。これから怖い目にも遭うだろうけど、取り乱さずに俺の指示に従って欲しい」
「(コクリッ)」
力強い目で彼女が頷く。
俺の我が儘に付き合ってもらうんだ。
必ずこの娘を守り抜こう。
気持ちを切り替えて作戦を反芻する。
やることはシンプルだ。
徒歩で街道を歩きつつ、山賊の襲撃を待つ。
襲ってきた山賊を捕まえて情報を吐き出させる。
これだけだ。
言葉にすると簡単だが、言うは易く行うは難しである。
想定外のことが起きた場合、彼女の身を優先して行動するつもりだが、それでもリスクは大きい。
なにせ敵を一人も逃さず、確実に捕らえていかなければならないのだ。
情報を引き出すための生き残りは最低二人いれば十分なので、あとは逃がさずに殺すだけである。
襲撃時の敵の数を誤認しないよう、索敵は常に意識しないといけない。
「森の中に入ったら、常に俺の後ろに立っていてほしい。敵が攻撃してきても近くにいてくれれば守れるから」
彼女は頷くと俺の腕を掴んで抱き着いてきた。
「抱き着き禁止。俺が動けなくなる」
「(ガーンッ)」
彼女はショックを受けたように落ち込み、渋々と俺から離れる。
見ていて可哀想になるが、仕方がない。大事なことだ。
「我慢してくれ。終わったあとなら、いくらでも抱き着いて――」
…………。
…………。
…………。
何を言っているんだ俺は?
言ってて何故だか恥ずかしくなってくる。
彼女が抱き着いてくるのは今に始まったことではないのに、どうしてか顔が熱くなってきた。
ちょっと待て、おかしいぞ俺。
彼女が俺の顔を覗き込もうとしてきたので、咄嗟に背を向ける。
恥ずかしい。
彼女の顔をまともに見ることが出来なかった。
「…………っ!」
「…………?」
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、彼女は正面から抱き着いてきた。
ちょっ――
「待て待て待て! 駄目! 我慢しろ! いいからすぐにやめなさい!」
慌てて彼女の腕を掴んで離れさせる。
何故だか敬語になってしまった。
何を緊張しているんだ俺は!?
「くっついていたら、俺が動けなくなる! 俺の後ろで俺の邪魔をしないようにしてくれ。いいな?」
「(コクコクッ)」
任せろと胸を叩いて頷く彼女。
頼むぞ、本当に。
気が気でないやり取りをしつつ、再び歩き始めると、いよいよ目的地となる森が見えてきたのだった。




