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化け物みたいな俺の無口なきみへの恋模様  作者: 十土川三


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EP14「反省」

「街道が通れない……か」


 雑貨店を出たあと、俺と彼女は高速馬車を借りようと村の端に向かっていた。


 街道が通れない場合、整備されていない道を高速馬車で行くことになるが、そうなると時間がかかってしまう。


 モンスターやギルドの人間に遭遇しないように立ち回る必要もあり、出来れば避けたい選択肢であった。

 徒歩で行くよりかは何倍も速いだろうが、どのくらいでラズアールに到着できるかは運次第だろう。


 …………山賊をどうにか出来ないだろうか?


 困っている村人がいるのもあって、何とかしてやりたいが…………。


「そういえば、色々商品を見て回ってたけど、欲しいものとかなかったか?」


 彼女は俺の質問に返事をしなかった。

 その代わりに買ったばかりの外套を見せつけるかのようにその場でクルリと回る。


 「似合う?」とその表情が聞いてきた。


「…………」


 質問に答えない彼女に、俺は気を遣われて誤魔化されたと感じてしまい、言葉が出なかった。


 店で商品棚を見ていた時、彼女は目を輝かせて色々な物を手に取り、楽しそうにしていた。


 欲しい物があったが俺に金がないことを知って、気を遣わせないようにと外套を見せてきたのだろうか。


 …………やっぱり、道中で金を稼ぎながら行くか?


 モンスターを狩って素材や装備品を売ることになるが…………いや、その場合ギルドの人間と接触する可能性が高くなってしまう。


 場所によっては縄張り意識も強いため、トラブルになりやすく危険も大きい。

 名声や面子(めんつ)を重んじる彼らは自分たちの庭に部外者が入ることを極端に嫌っている。


 万が一、俺の正体がバレたらその時点でこの旅は終わりだ。


 それでは本末転倒である。


 チラリと彼女の方を見る。


「?」


「悪い、何でもない」


 無言のまま、俺を見返してくる彼女に対して申し訳なさが込み上げてくる。


 仕方がないこととは言え、金がないことで窮屈な思いを何度もさせるのは嫌だし、俺が縮こまって彼女に気を遣わせるのも嫌だった。


 情けない。


 もっと他に旅がしやすい方法を考えてから出るべきだったか?

 金を工面してからもっと余裕を持って来るのが正解だったのか……。


 「欲しいものとかなかったか?」などと軽率に聞くべきではなかった。


「…………はあ」


「…………」


 すると不意に彼女が服の裾を掴んでくる。


「どうした?」


「…………」


 無言のまま俺を見上げるその顔には、怒りの表情が滲んでいた。簡易黒板を取り出して文字を書く。


『私は怒ってる』


「…………」


 …………やっぱり欲しい物とかあったのか?


『あなたは私に気を遣い過ぎている。あなたが落ち込むことなんて何もない』


「うっ!?」


 …………バレてる。


『あなたは優しい。私は知っている』


「…………」


『私に不満はない。一人で抱え込まないで』


「…………悪い」


 彼女は俺が悩んでいることを理解した上ではっきりと言ってきた。


 情けないな……。


『すぐ謝らないで』


「ああ………………」


『気を遣わない。考えてばかりもよくない』


「はい………………」


『落ち込むことがあったら言う。私が慰める』


「うん………………えっ?」


 彼女は黒板を仕舞うと、俺の背中――もとい背嚢に手を置いて「ポンポン」と叩いて慰めてくれた。


「…………」


「(ポンポンッ)」


 村の中、周囲に人がいないとは言え、遠くにはいる。


 この姿を見られるのは少々恥ずかしかった。


「…………ありがとう。もう大丈夫だから」


「(エッヘンっ)」


 胸を張って誇らしくする彼女に俺は「救われてるな」と改めて感謝する。


 すると彼女はまた外套を見せつけるようにその場でクルリと回った。


 その顔は「似合う?」と聞いてくる。


 褒めてほしいのか。


「似合う…………というか美人だから何を着ても綺麗だな。元から可愛いいんだからそれ以上褒めようがないぞ」


 着飾った言葉や気の利いた言葉を言ってやりたいが、そんな語彙など俺にはあるはずもなかった。


 思ったことをそのまま口にしつつ、前を向いて歩き出す。


 立ち止まっていても仕方がない。切り替えよう。


「街道が通れないなら、他の方法も考えないといけないかもしれない。取り合えず他の人から話を――――」


 言ってて彼女が付いてこないことに気づく。


 後ろを振り向くと顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くす彼女の姿が見えた。


「なんだ、照れてるのか? 褒めてほしそうだから思ったこと言っただけなんだけど…………あんまり褒められ慣れてないんだな」


 褒めてほしいという顔をしつつ、いざ褒めて上げたらこれである。


 その一連の動きが微笑ましいと思った。

 何故だか頬が緩み、自然と笑みが零れてしまう。


「ははは、お前そんな顔をするんだな。顔真っ赤だぞ?」


「!!!」


 俺が笑うと恥ずかしいのか、彼女は俯いたまま走って近づいてきた――――




 と思ったら、思いっきり俺の胸に飛び込んできた。


「おっと」


 体重をかなり預けて倒れ込むようにきたが、足に力を込めて受け止める。

 胸に顔を埋めてくるが、その耳は赤いままであった。


「なんだよ? 照れてるからって誤魔化そうとしてんのか?」


「(ブンブンッ)」


 顔を埋めつつ、首を振って否定する。

 結構頑固である。

 行動の一つ一つに愛嬌があり、今の彼女は犬や猫など愛玩動物そのものであった。


「褒めてやるのはいいけど、取り合えず移動しよう。変に注目されてそうだ」


 遠目に周囲を探ると、村人たちがこちらを見ているようだった。

 そちらに視線を移すと、気まずかったのか、向こうから顔を逸らしていく。


「これからはあんまり考え過ぎないようにするよ。ありがとう、本当に」


 彼女が顔を上げられるまで待って、俺たちは再び歩き出すのだった。




 ーーー




「……………………すまない。俺が急いで山を出たばかりに、こんな、悪いことが重なるなんて」


「(ポンポンッ、ナデナデッ)」


 俺は体育座りで座り込んでいた。

 彼女は俺の背中を撫でて必死に慰めようとしてくれている。

 村の外れであったため、他人(ひと)から見られることはないが、他人には見せられない情けない姿であった。

 

 けれど、予定が全て狂ったのだ。

 頭を抱えざる負えない状況である。


 高速馬車を借りようとしたら、全て出払っていて貸し出せる馬車はないと言われてしまった。


 街道を山賊が荒らしているせいで、本来なら戻ってくるはずの馬車が別の村で足止めを食らっているらしい。

 魔法アイテムで高速化した高速馬車でなければ、短期間でラズアールになど行けるはずがなかった。


「徒歩なら二週間以上……いや、もしかしたら三週間近くかかるかもしれない」


 ただでさえ、正体がバレるリスクを背負っているというのに……。


 どうする? 一度家に帰るか?


 俺が出発を急いだのは、俺自身が常に殺されるリスクがあるというだけで、明確にすぐ襲われるという根拠は現状のところ何もない。

 予定が全て狂った以上、戻るのも選択肢としては悪くないはずである。


「…………」


「(ポンポンッ、ナデナデッ)」


 彼女は今も寄り添って俺を慰め続けてくれていた。


「ありがとう。ちょっと相談していいか?」


「? (コクコクッ)」


 彼女が慰める手を止める。


「本当なら馬車を借りて街道沿いに行く予定だったけど、現状、街道が通れないうえに高速馬車も借りることが出来なくなった」


 どちらも最短でラズアールに向かうために必要な要素であったが、その両方が潰れてしまった。


「このまま進んでも危険が増えるばかりで現状厳しいと思う。問題が諸々解決するのを待って改めてラズアールに行こうと思うけど…………お前はどうしたい?」


「…………」


 悩んでいるのか彼女はすぐに返事をせず、うんうんと唸っていた。


 少々意外だった。

 彼女なら即決して山に帰ると言うと思ったからだ。


 気になることでもあるのか?

 

「…………少し早いけど、昼時だ。魚でも釣って焼こう。腹を満たしてからゆっくり考えればいいよ」


「(コクコクッ)」


 ここにいても仕方がないと立ち上がり、移動する。

 取り合えず腹ごしらえをするために俺たちは川へと向かった。




 ーーー




 魚を獲って火を起こし塩をかける。

 簡易的な焚き火を作り、串を刺した魚をセットした。

 魚が焼けるのを待つ間、俺と彼女は並んでその場に座り込む。


「…………」


「…………」


 山賊のことが気になって考える。


 そもそも何で山賊なんかが現れたんだ?

 しかも村を直接襲わずに、街道の馬車だけを狙うなんて…………。

 ここらを縄張りに活動しているギルドの奴らはどうして倒しに行かない? 


 商売敵…………邪魔者じゃないのか?


 考えても仕方ないが、疑問は尽きることがなく、山に引き籠っていたせいで世情にも疎くなっている。


 定期的に村人と交友して世間話でもしておけば良かっただろうか?


 いや仮にそれをしていたなら、三年もあの山で生きていくことなど出来なかっただろう。


「……そろそろいいな。ほれ、熱いから気を付けろ」


「(ガブリッ)」


 彼女に焼き魚を手渡すと勢いよくかぶりついた…………が、熱いのか、少女は慌てて口を離した。

 その姿を見ただけで笑みが零れる。

 困った状況ではあるが、心が凪(な)いだように癒やされた。


「はははっ。いい食いっぷりだな。腹減ってたのか?」


「(コクコクッ)」


 美味しそうに焼き魚を口に詰め込む姿は齧歯類のようで愛嬌があった。


「…………」


「(モグモグ)」


 彼女が食べる姿を見ながら、改めてラズアール行きについて考える。

 話し合った上で最終決定するつもりだが、俺の答えは既に決まっていた。


 一度山に戻って状況が改善してから改めて出発したい。


 やはり現状では移動時のリスクが高過ぎると言わざる負えなかった。

 高速馬車なしで街道を通らず、獣道を行くとなると、無傷でラズアールに向かうのは至難の業である。


 もし急ぐのであれば、山賊を俺の手で始末するのも選択肢の一つかもしれない。

 退治出来たら街道が通れるようになり、高速馬車も借りられるようになって良いこと尽くめである。

 全て丸く収まるうえ、困っている人の助けにもなるので、本来であればそうしたいが…………。


 そう思いつつも、その場で軽く首を振る。


 やっぱり駄目だ。それは出来ない。


 目立つ行動は命取りになる。


 正体がバレればその時点で全てが終わってしまうのだ。

 やはり隠密に行動し、可能な限り戦闘を避けねばならない。


 悔しいが、諦めるのが得策だ。


 そう考えていると彼女は食べ終わったようで、指に付いた塩をペロペロと舐めていた。

 

 二本目を取って彼女に手渡す。


「…………さっき俺は山に帰ろうと言ったけど、お前はどう思った? 何か気になることでもあったか?」


「…………」


 彼女は逡巡してから焼き魚を置く。

 黒板で文字を書き始めた。


『あなたがそうするなら私は従う』


「そっか…………判った」


 結局、山に帰って状況が好転するのを待つことになった。


 それが最善だ。


 何とかしてやりたいが…………気持ちがあっても、俺に出来ることなど何もないのだ。


 仕方がない。


 仕方がないんだ。


 言い聞かせるようにその言葉を繰り返す。

 俺は燃えている焚き火の揺らめきをただ眺めることしか出来なかった。




「似合う…………というか美人だから何を着ても綺麗だな。元から可愛いいんだからそれ以上褒めようがないぞ」


このセリフを下記にするか迷いました。


皆さんはどちらが好みですか?


「似合う…………というか美人だから何を着ても綺麗だろ? 元から可愛いいんだから更に可愛くなったとしか言いようがないぞ」

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