表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この感情に名前をつけるならば  作者: 二条 光
4/4

 春がやってきた。

 つるんでいた松浪は実家の寺を継ぐために関西の仏教系の高校に行った。

 中畑とは卒業する前に別れることになった。原因はオレにヤリ友がいることがバレたから。

 バレた理由がウケる。明美から性病を伝染されて中畑に伝染したから。

 当然、明美とも別れた。

 病院に行く金を出してくれたのはアニキ。

 オレが明美とヤッていたことを知っていたのは松浪くらいなもので、それまでの紳士的という評価は一転学年中にオレの破廉恥な性活が知れ渡ってしまった。

 オトコどもからはハタチのオンナとヤレるなんてなかなかすげぇじゃん的な目で見られることはあっても、正直、女子からはヤリチンだとか最低だとかとにかく総スカンを食らった。

 そんな時も相変わらずオレと変わらない態度で接してくれたのは女子ではアイツだけ。アイツだけが唯一そうだった。


 あの日、世界は変わらなかった。結局、オレは壊すことが出来なかった。


「なに考えてんのよ!?」


 にじり寄るオレに激しい口調で睨みつけるアイツ。


 今までだって何度も激しい喧嘩をした。負けず嫌いのアイツはどんな時もたとえ分が悪くても、こんな風にオレに激しく向かってきたっけ。

 何がこんなふうにさせるのか、オレのカラダは震え、冷や汗がタラタラと出てくる。身体的な症状によってやけに冷静になってきた。

 けれど、今更引っ込みがつかない。

 このまま壊してしまおう。決意すると、アイツに跨った。


「やめて……」


 ガクガクと震えながら、か細い声で抵抗するアイツの瞳から涙が零れ落ちる。


 あ……。


 それを見て、オレはあの時のことを思い出した。

 確か、あれはオレたちがまだ4つの頃。アイツがすごくかわいがっていたインコを、オレがカゴから出して逃がしてしまった。

 まさかいなくなるなんて思わなかったのに。ほんの冗談のつもりだったのに。

 あの時、激しくアイツが泣いて、それを知ったマサくんがオレに怒って、今度はアニキが怒り出して。結果、アニキ同士が喧嘩になってしまった。

 その時、オレたちは懸命に2人をとめておさまったんだったかな。

 アニキはオレのために親友のマサくんと喧嘩してくれたんだった。小さい頃からマサくんはデカくて、アニキはチビだったから、絶対に力じゃかなわないのに。

 オレのために喧嘩してくれたよな。

 その時、アイツのことを泣かすことはしないでおこうって思ったよな。コイツを泣かすことは、オレにとってなによりもつらいことだったはず。


「バ~カ、冗談だよ!」


 そう言ってゲラゲラ笑いながらアイツの上からおりてベッドに腰掛けた。


「は!?マジなんなの、もうっ!」

「冗談に決まってるだろ。なに本気しちゃってんの」

「だって!!」


 アイツは激しくオレの背中をたたく。手から安堵が伝わってくるようだった。


「わざわざお前とヤルほど困ってねぇし」

「私も慎吾とヤリたくねぇし」


 オレが鼻で笑って言うと、負けじとアイツも言い返す。そして、オレたちは顔を見合わせて笑った。

 そう、オレたちはこんな関係なのだ。これがきっとオレたちにはベストな関係なのだ。



 高校に入ってからアイツはバイトを始めて、その金でスマホを買った。

 アドレスを交換したりしたけど、一度もメールやlineをしたことがない。通話もめったにしないけど、するとしたら家の電話。

 っていうか。なんかあるんだったら会えばすむしってことで。

 そう、オレたちはこんな関係なのだ。



 そして、時間は流れ、良くも悪くも人の心も移ろうことを思い知った高2の秋。


「は?」

「だから、アンタんちにあんまり行かないの」


 最近、アイツがウチに近寄らなくなったから、何気なくきいてみたらアニキと別れたらしい。

 しかも、アニキに他に好きなコができたのが理由らしい。


「なんで、慎吾が悲しそうな顔するん」


 そう言ってアイツは笑った。


 アイツのカレシがアニキだったことは、一番ムカつくことであり、一番嬉しいことだったのかもしれない。

 アニキだったら、一番近くでアイツの幸せを見ることができるから。アニキのことは相変わらずどこか煙たくて、そして、誰よりも慕っているから。

 だから、アニキだったら、っていう気持ちがあったんだ。

 オレはきっと家族以外の人間でアイツの幸せを一番願っている。だけど、一方で誰よりもアイツが幸せになることがくやしくてさみしいと思っているような気がしてならない。


 なぁ。かおり。

 この先、お前もオレも色んな恋愛をするだろう。遠く離れて暮らすことになるかもしれない。

 だけど、お前のことを哀しませる男はオレは許さないからな。


 なぁ、かおり。

 この感情に果たして名前なんてあるんだろうか。

読了ありがとうございました。


こちらの作品に出てくるかおりが主人公として登場する『この街で君と出逢った』も現在連載中ですので、そちらもお付き合いいただけると大変嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ