↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣も魔法も苦手です。そんな俺は銃で魔法をぶっ放す。  作者: まろじろう
第1章「落ちこぼれは異端と走る」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/14

第9話「準備」

「じゃあ、まず撃って」


「おう」


――バンッ!


弾丸が的に当たる。


「次、右!」


「おう!」


カッツが地面を蹴る。


一気に加速。


右へ切り返し――身体の軸が整う。


「今!」


――バンッ!


命中。


「左!」


「おう!」


走る。


切り返す。


撃つ。


――バンッ!


また当たる。


「よし!」


カッツが笑った。


ヒロは手元の紙に記録する。


「止まった状態より、やっぱり方向転換した瞬間の方が当たる」


「俺、動いてる方が射撃うまいんだな」


「変な話だけどね」


「才能だ」


「普通に撃つ方は平均だけど」


「それ言うの禁止!」


ヒロが笑う。


冒険者登録から数日。


二人はまだ、ホーンラビットの依頼を受けていなかった。


理由は簡単。


ヒロが許可しないからだ。


「なあ」


カッツが銃型杖を下ろす。


「そろそろ行けるだろ?」


「まだ」


「今日全部当たってる」


「射撃だけならね」


「じゃあ何が駄目?」


ヒロが紙をめくる。


そこには、ここ数日の記録がびっしりと書き込まれていた。


射撃数。


命中数。


脚力強化の使用時間。


食事量。


休憩時間。


「……何それ」


「カッツの記録」


「そんなに書いてたの?」


「必要だから」


「細か……」


「誰のためにやってると思ってるんだよ」


「俺」


「分かってるなら文句言うな!」


ヒロは紙を指差す。


「問題は魔力」


「まだ腹減る?」


「減る」


「それは仕方ないだろ」


「そうじゃない」


ヒロが首を振った。


「カッツは、自分があとどれくらい動けるか分かってない」


「分かるぞ」


「本当に?」


「腹減ったら減ってる」


「遅いんだよ!」


ヒロの声が試射場に響いた。


「魔力と体力は近い。魔力が減れば身体能力も落ちる」


「うん」


「特にカッツは脚力強化と銃型杖を同時に使う」


ヒロはカッツの脚を見る。


「高速で動いてる途中に魔力が切れたら?」


「止まる」


「どうやって?」


「……」


カッツが黙った。


「壁?」


「ぶつかる前提にするな!」


「じゃあ地面転がる」


「もっと駄目だよ!」


ヒロはため息をつく。


「巣穴は試射場じゃない」


「分かってる」


「壁もある。岩もある。魔物もいる。それに、急激に魔力を使い切ったら気絶する可能性だってある」


「気絶?」


「そう」


「それは困るな」


「やっと分かった?」


「撃てない」


「死ぬ方を心配して!」


カッツが笑った。


「じゃあどうする?」


「それを今からやる」


ヒロが何かを投げた。


カッツが受け取る。


小さな袋。


「干し肉?」


「そう」


「食っていい?」


「まだ」


「なんで持たせた?」


「練習」


「何の?」


「食べる練習」


「……」


カッツがヒロを見る。


「俺、十八だぞ?」


「知ってる」


「一人で飯食える」


「知ってる!」


ヒロが頭を抱えた。


「そういう意味じゃない!」


◇


「行くよ」


「おう!」


カッツが構える。


今日は、いつもと少し違う。


腰には小さな袋。


中には干し肉。


銃型杖には通常弾のカートリッジ。


「右!」


走る。


方向転換。


――バンッ!


「左!」


走る。


方向転換。


――バンッ!


「もう一回!」


加速。


射撃。


加速。


射撃。


それを繰り返す。


やがて――


「カッツ!」


「何!?」


「食べて!」


「今!?」


「今!」


カッツが走りながら腰の袋へ手を伸ばす。


「うおっ」


身体がブレた。


「止まっていい!」


「先に言え!」


カッツが速度を落とす。


袋を開き、干し肉を取り出して口へ放り込む。


「固っ!」


「保存食なんだから仕方ないだろ!」


噛む。


咀嚼する。


少しずつ、身体へ魔素が取り込まれていく。


だが――


「……あれ?」


「どう?」


「別に元気にならねえ」


「当たり前」


「なんで?」


「食べれば一瞬で全部魔力になると思ってたの?」


「違うの?」


「違うよ!」


ヒロが説明する。


「食べ物に含まれた魔素は、消化することで少しずつ魔力に変換される」


「じゃあ今食った意味ないじゃん」


「ある」


ヒロが指を立てる。


「噛んでる時点でも少しは吸収される」


「少し?」


「少し」


「どれくらい?」


「それを調べてる」


「俺で?」


「カッツで」


「実験台じゃん!」


「実戦で倒れるよりいいだろ!」


「それはそう!」


カッツは干し肉を噛みながら、また銃型杖を構える。


「じゃあ続き」


「待って」


「何?」


「今の感覚覚えて」


ヒロが紙へ書く。


「食べた直後にどれくらい戻った感じがする?」


カッツは考える。


「……ちょっと」


「どれくらい?」


「ちょっと」


「だからどれくらい!?」


「ちょっとはちょっとだろ!」


「数字で!」


「分かんねえよ!」


ヒロは頭を抱えた。


「こういうところなんだよ……」


「何が?」


「カッツと銃型杖の相性が悪いところ!」


「でも撃つ方は相性いいぞ」


「そこだけ異常にいいから困ってるんだよ!」


二人の声が、試射場に響いた。


◇


その日の夕方。


ヒロは作業台に装備を並べていた。


「これが水」


「おう」


「食料」


「おう」


「医療用品」


「おう」


「魔石灯」


「おう」


「工具」


「おう」


「予備のカートリッジ」


「おう」


「銃型杖」


「おう」


カッツが腕を組む。


「多いな」


「前にも説明しただろ」


「聞くのと見るのじゃ違う」


ヒロはため息をつく。


これを普通なら背負う。


重量にも容量にも限界がある。


でも――


「……」


ヒロが右手を出す。


空間が歪んだ。


直径三十センチほどの黒い入口。


――アイテムボックス。


カッツの目が輝く。


「何回見てもすげえな」


「声小さくして」


「誰もいねえじゃん」


「癖にしないと外でやるだろ」


「なるほど」


「そこは素直なんだ……」


ヒロは水を入れる。


消える。


食料。


医療用品。


工具。


カートリッジ。


次々と異空間へ収納されていく。


カッツが覗き込む。


「中見えないの?」


「見えない」


「どうやって取り出す?」


「入れた物は分かる」


「なんで?」


「感覚」


「便利だな」


「説明できないものもあるんだよ」


最後にヒロは細長い予備装備を入れた。


入口は小さい。


だが、細長い物なら角度を合わせることで収納できる。


「これで」


ヒロが空間を閉じる。


「荷物は問題ない」


「じゃあ行けるな」


「まだ」


「まだ!?」


カッツが頭を抱えた。


「あと何!?」


「弾」


「あるじゃん」


カッツがカートリッジを指す。


「通常弾」


「何本?」


「いっぱい」


「数えて」


「……」


カッツが黙る。


ヒロが睨んだ。


「何本?」


「ヒロが知ってる」


「カッツ!」


「分かった! 数える!」


一本。


二本。


三本。


四本。


「四本」


「一つ六発」


「二十四発」


「ホーンラビットを一匹倒すのに何発必要?」


「一発」


「本当に?」


「……たぶん」


「そこ」


ヒロが指差す。


「そこが分からない」


カッツもカートリッジを見る。


試射場で撃ったのは的だ。


木だ。


魔物じゃない。


「ホーンラビットの皮膚」


ヒロが言う。


「骨」


「角」


「動き」


「急所」


そしてカッツを見る。


「僕たちは何も知らない」


カッツが少しだけ真面目な顔になる。


「じゃあ調べる?」


「そう」


ヒロが頷いた。


「ギルドで」


◇


ギルド。


二人は資料室にいた。


「ホーンラビット……」


ヒロが資料を読む。


「体長は大体六十センチ前後」


「でかいウサギだな」


「額に角」


「名前のまんま」


「主な攻撃は突進」


「避ければいい」


「簡単に言うな」


ヒロがページをめくる。


「脚力が高い。直線速度が速い」


カッツが笑った。


「俺とどっちが速い?」


「競争しに行くんじゃないよ」


「ちょっと気になる」


「僕はならない」


さらに読む。


「単体ならE級でも比較的危険度は低い」


「ほら」


「でも複数で出る場合もある」


「……何匹?」


「巣穴による」


「それ困るな」


「だからカートリッジを多めに持つ」


カッツが頷く。


少しずつ。


二人で情報を集める。


カッツが聞く。


ヒロが読む。


ヒロが考える。


そしてカッツが、


「じゃあ、こうすれば?」


と思いついたことを口にする。


正しいかどうかは分からない。


それでも二人で、一つずつ答えを作っていく。


やがてヒロが資料を閉じた。


「……よし」


「よし?」


「行けると思う」


カッツの目が輝く。


「マジ?」


「ただし」


「また条件?」


「当然」


ヒロが指を立てる。


「深追いしない」


「分かった」


「危ないと思ったら逃げる」


「分かった」


「僕が止まれって言ったら止まる」


「分かった」


「残弾を数える」


「分かった」


「食べる」


「任せろ」


「そこだけ返事いいな」


カッツが笑った。


「じゃあ」


二人は資料室を出て、依頼掲示板へ向かう。


一番下。


E級。


何日も前から見ていた紙。


《ホーンラビットの巣穴》


カッツが依頼票へ手を伸ばす。


今度はヒロも止めない。


紙を剥がす。


「ヒロ」


「何?」


カッツが依頼票を見せる。


「これで一個目だな」


「まだ攻略してない」


「するだろ?」


「……」


ヒロは少しだけ笑った。


「そうだね」


二人で受付へ向かう。


正式に依頼を受領する。


これで逃げても、失敗しても、記録に残る。


そして主モンスターを倒せば――


二人にとって、最初の攻略になる。


ギルドを出る。


カッツの腰には銃型杖。


ヒロの右手には、誰にも知られてはいけないアイテムボックス。


「明日」


ヒロが言う。


「ホーンラビットの巣穴へ行く」


カッツが笑った。


「やっとだな」


試射場ではない。


的でもない。


次に撃つのは――


生きている魔物。


二人にとって初めての実戦が、


始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。