時効です
「白波がこうなったのって、オイラのせいだよね……」
クロのマイルームに押し掛けてきた宝が、座布団を抱え、部屋の隅にうずくまってため息をつく。
ちなみに二階である。
「いきなり押しかけてきて、なんなんだよ……」
のんびりと一人で過ごしていたクロはため息をつく
元々最初に宝の存在に気がついたのがクロだったせいなのか、宝は何か凹むことがあると、クロのところに来ることが多い。
「だって、おいらまだルーム無いんだもん。誰かのとこに入れてもらうしかないだろ」
「白波のとこがあるだろ。逆に俺やアオ、銀河は白波のあっちのルームには入れないんだぞ。宝はあっちもこっちも両方いけるじゃないか」
贅沢だと言ったクロに、宝はジトっとした目を向ける。
「白波のことで凹んでるのに、白波のルームに行けるわけないだろ!」
もっともなことを言ってるような宝だが……。
「だからって、俺んとこに来るのもどうなんだ?」
「知らないよっ!」
「てか、本気で白波に悪いって思ってるんなら、本人にそう言って謝ればいいだろうが」
「千年も前のオイラのおマヌケを今さら謝ってどうすんだよ!」
千年前の宝のおマヌケ――。
人である現白波と座敷童の現宝との名を入れ替え、存在を抹消される島の運命から、人の子である現白波を座敷童――人外とし、その存在を護ろうとした。
が、そのときの現白波には実は名がなく、現宝が名であると思い込んでいた『宝』と言うのは、仮初の呼び名でしかなかった……。
ゆえに、現宝…そのときの白波であった座敷童の術は中途半端に失敗し、白波の名は今の白波のものとなったが、人の名を継ぎ、人となった島と共に消えるはずだった座敷童――現宝の存在は消えることは無く、ただ塵となって世に散らばることとなった……。
そして術が中途半端にかかったため、白波の名は確かに名無しの人の子に継がれはしたが、その身は人の身のまま残された……。
「勝手に思い込んで術を掛けた宝も確かにおマヌケだけどさ……」
「……ぐぅぅ……」
クロにも『おマヌケ』と口に出されて、宝はぐぐっと息をつめる。
「そこで、面白がって白波を確保しちゃったスズメもどうかと俺は思うよ?」
「それは!それは……いいんだ……」
気弱気な表情を宝は浮かべる。
「なんでさ。本来なら、白波は存在を否定された島と一緒に消えるはずだった。それがたまたま肩入れしすぎた座敷童の術によって残ることになった……。でも残ったけどさ、スズメがその時変に興味を持たなきゃ、人としてその時に命を終えることも出来たんだ」
それが人としての正しい道だったんじゃないかと、クロは言った。
そうしていたら、今みたいに千年生きて、その間に人外と触れ合い続けたことで、己の身が人なのかそうでないのか悩むなんてことなどなかっただろうし。
神様に甘やかされ過ぎた……っと、この先人として生きていけるか……なんて変な悩みを持つことも無かったはずだ。
「普通に輪廻の輪に乗り、今頃穏やかに何回目かの生を生きてたかもしんないぞ?」
そして座敷童として新たに生まれ直した白波と出会う運命があったかもしれない……。
「まぁ、『かも』だけどさ」
クロは肩をすくめて言う。
「それは、イヤだ!オイラは今の、あの時のあのままの白波がイイんだ。だから、無理してあのときオイラは術を……。失敗したけどさ……」
「わかってる」
「おマヌケで、やっちゃいけないことしたって、わかってる……」
「うん」
しょんぼりした宝の頭をクロはぽんぽんとなでた。
「まぁ、今さら千年も前のこと言ったって仕方ないよ」
「……うん」
「で、術を失敗したことは後悔してるんだろうけど、掛けたこと自体は後悔してないんだろ?」
クロの言葉に宝は頷く。
「でもきっと白波は失敗したことを喜んでるよ」
クロの言葉に宝は顔を上げる。
「だって、術が失敗したおかげで、大好きな座敷童と再会できる可能性が残って、実際会えただろう?」
ニヤッと笑ってそう言ったクロに、ちょっと困惑顔をした宝は頷く。
「あと、俺も良かったって思ってる」
「え?」
「だって、宝が術を失敗して白波が残って、それをスズメが面白がった結果が、ここなんだからさ」
そのどれか一つが欠けていたら、座敷童としての力を維持できなくなっていた自分はあの時どうなっていたか……。
自分だけでなく、他の仲間たちだって――。
「そっか……そうだね!」
クロの言葉に宝は自分のしたことが、悪いことばかりではなかったと気を取り直した。
「それにさ……」
「うん」
「千年も経ってんだ、もう時効だろ」
クロはそう言うと、宝の抱えていた座布団を取り上げ、それを宝の頭にぽいっと乗せて揶揄うのだった。
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