ちょっと欲ばり?
「こん…にちは……」
襖をすっと開けて、白波ルームの囲炉裏部屋に入ってきたのは黄魚。
「はーい!こんにちは黄魚。来たわね」
暖かい囲炉裏の横で、膝に亀を乗せてご機嫌の様子で黄魚を出迎えたのは緑花――。
その緑花を見て黄魚は首を傾げる。
「あ…れ、白波…は?」
「母屋の方へ行ってるわ。あ、お菓子なら、ちゃんと預かってるわよ」
「そう……」
少しつまらなそうな顔をした黄魚だったが、緑花の出してくれたお菓子を見て顔をほころばせる。
「美味、しそう……」
「ええ、私は先に頂いたけど、美味しかったわよ~。コケモモケーキ大福」
「え?」
黒文字を菓子――大福に突き刺そうとしていた黄魚の手が止まる。
「コ、ケモモ…ケーキ……?ケーキ?」
手元に渡された皿に載っている真っ白な大福にしげしげとした目を向ける。
コケモモはとりあえず良い。
以前にも白波はイチゴ大福など、果物の入った大福を作ってくれている。
だが……。
「ケーキ?」
「ええ、そう。外側だけ見ると普通の大福だけど、中身はケーキよ。コケモモのジャムと生クリームだけじゃなくて、スポンジも入ってるの。アンコは無し。甘酸っぱくて美味しいわ」
「へえ……」
つまりはコケモモのケーキが大福の皮で包まれているということのようだ。
「和洋折衷……?」
そう言って黒文字で大福を一口分切り取り、黄魚はそれを口に運ぶ。
まず甘酸っぱいジャムとコクのある滑らかで甘いクリームが舌にあたり、そこに口当たりの違うしっとりしたスポンジが絡んでくる――。噛めば和の優しい甘味を持つ大福の皮の味と、そのモチっとした食感も感じて――。
「んふ……ふ、美味しい!面白…い」
思わずといった感じで黄魚の笑いが漏れる。
「ねー!美味しいわよねぇ!私は特に皮が気に入ったの」
こくっとしたクリームに、大福の皮のモチモチ感が良い感じで絡んでくるのが特に気に入ったと言う緑花。
「あたい、スポン…ジが、ほんわかして…るのが好き」
黄魚はスポンジの持つふわっとした感触が気に入ったと言う。
当然ながら味も香りも良い。
「うんうん、スポンジも良いわ。否定しないわよ」
黄魚にお茶を出してやりながら緑花が言う。
ちなみにお茶は、白波が出かける前に保温ポットに入れ、緑花に託していったものだ。
「……白波、長くいないの?」
緑花がお茶を出してくれたことで、黄魚は白波が長時間留守をするつもりなのかと判断したが……。
「んー、わからないって言ってたそうよ」
「ど…して?」
「どのくらいあるかわからないからですって」
緑花の返事に黄魚は首をお傾げる。
「ど…の、くらいって…なにが……?」
「蛇イチゴよ」
「蛇、イチゴ……」
「ええ」
「そっか……出来る…時期、だったね……」
白波は蛇イチゴ狩りに行ったと言う。
それはそれとして……
「そんなに、たくさん…食べる、かな……?」
いつ帰って来るかわからないほど、白波が蛇イチゴを欲しがるとは黄魚には思えなかったが……。
「こういうのを蛇イチゴでも作りたいんだと思うわ」
「蛇イチゴ…大、福」
空になった皿を見つめる黄魚。
「…そう…蛇、イチゴで…も美味しい、と思う……」
「私もそう思うわ。でね、クロが良いところを知ってるって言って、白波をお山に連れて行ったんですって。さっきまで宝がいて教えてくれたの」
「そう…なんだ…」
頷いて、ゆっくり湯飲みを傾けお茶を飲む黄魚。
「白波ってば、本気で茶店だか茶屋をする気みたいだわ……」
「うん」
「どうやらそのために、目新しいお菓子を作ろうとしてるらしいのよ」
ほうっと頬に手をあて、少し眉をよせ言う緑花。
その様子に黄魚は首を傾げて問う。
「緑花、反対?」
「反対じゃないわ。でも、わざわざ新しいお菓子を必死になって考えなきゃいけない…ってことも無いと思うのよねぇ」
せっかく来たのに、白波に会えないのが不満なのだと緑花は肩をすくめた。
座敷童たちは白波の作るお菓子が大好きで大好物だが、それと同時に白波のことも好きなのだ。
美味しいお菓子だけ置いてあっても……それはそれで嬉しいのだが、やはり白波が共にいて欲しいと思う。
「そだね…でも、白波、多分…新しいの、作りたい…だけじゃない……」
「え?」
「きっとあっちの…界のもの、取り入れて、作ろうとしてる…力、籠って、る…から……。あっちに…行けない子の、ため……たぶん、だけど……」
とつとつと言った黄魚の言葉に、緑花は「ああ……」頷く。
「そっか…そういえばそうね……」
母屋のあるあちらの界は、そこにある空気、水、土……すべてのモノに良の気が宿る。
つまりそこで実る物にも当然宿る。
そしてクロが案内するとなれば、当然あちらの里山だろう……あの界でも、特に力の集まりやすい場と言うのが何か所あり、お山はその集まりやすい場の一つだ。
「だとしたら……」
少し考えて、緑花はつぶやく。
「きっと白波、桶いっぱいくらい採ってくるわね……」
帰ってくるまでちょっと時間がかかりそう……そう言って、緑花はそっと二つ目のコケモモケーキ大福を、自分と黄魚の為に用意するのだった。
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