同じ。……かな?
「どうですか?」
黒文字を口元に運んだ宝の顔を不安そうに見つめながら白波が聞く。
「うん。美味いよー」
いつも通りの呑気な口調が返って、白波はほっと息を吐く。
そして自分も手にしていた黒い漆塗りの皿に目を落とすと、そこに乗っているケーキを一口分黒文字で切って口に運んだ。
「そうですね……。良かった美味しい……」
ふうっと深く息を吐いた。
そんな白波に宝は少し呆れた目を向けた。
「味見してんだろ?」
「しましたよ。何度も味見して、これなら美味しいと思ったんですが……」
白波は自分の手元に目を落とし、言葉を切ると少し苦笑を浮かべる。
「ですが?」
コテンと首を傾げ、宝は白波の言葉を促した。
「元のあるお菓子なので……」
「ん?いつも作ってくれているお菓子だって、元々は人の世にあったものを、白波が学んで作ってくれているものだろう?」
「そうです……。そうですが、そのほとんどは今まで何度も作って作り慣れたものですから、でもこれは……」
初めて作るお菓子なのだと白波は言った。
「んーと……そう言われればそうかな。でも、白波の作ったもんだし、すっげえ美味いし、いつも通りちゃんと力も感じるよ」
「それなんですよね……」
「それ?」
首を傾げる宝に白波は頷く。
「僕が気持ちを込めて作れば、座敷童や精霊たち……人外の方たちの力になる何かがお菓子に宿ります。それだけで、皆さん美味しいっておっしゃって下さるから。僕の作るお菓子が本当に美味しいかどうかって……」
白波としてはお菓子として本当に美味しく出来ているのかどうかが最近不安だと言う。
「それでスズメに頼んで、喫茶店で良く出されていると言う、ケーキの作り方の本を手に入れてきてもらったんです」
そう言って白波は自分の脇に置かれた本に目を落とす。
イチゴの乗った白いケーキの写真が載ったそれ――お菓子のレシピ本だ。
「本に載っている通りに作りはしましたけど……本当にこれで合っているのかなっと……」
かなり不安そうな顔になっている。
そんな白波に宝は少し呆れた顔を向けた。
「美味いんだから、それでいいんだよ」
「元のモノはもっと美味しいかもしれませんよ?」
「ないない!」
不安げに言う白波の言葉を宝は顔の前で手を振って否定する。
「オイラ達座敷童にとって、白波が作る菓子より美味い物なんてないよ」
「だから、ちゃんと作れたらもっと美味しいかもってことで……」
「オイラも他の座敷童たちも、その元ってのを知らないから良いんだよ」
「あ……」
座敷童たちがちゃんと食べれる何かを作れるのは白波のみ。白波の作るものだけが彼らのとってのお菓子だ。
「まぁ、人の世にいると御供えとかってくれたりするみたいだけどねー。クロとか銀河は色々備えてもらってたって言ってたし。けどそれって、実際にここでしてるみたいに食ってるわけじゃないから。オイラはそう言うのなかったし……。てか、お菓子とか無かったよな?」
宝はへらりっと白波に笑いかけた。
宝と白波がこうなる前――人と座敷童として人の世に居た時代にはお菓子なんてものが無かった。
「そう言えば、そうでしたね……」
白波は困ったように笑った。
「お菓子って、いつごろから出来たんでしょうねぇ……」
「さぁ?けど甘い物なんて、ホントについ最近じゃね?」
「ですね……」
ふっと息をついて、白波は華やかな写真の載っているレシピ本の表紙をそっと撫でた。
「早く喫茶店がしたくて、少し焦り過ぎました」
「ん?これって、喫茶店に出そうと思ったお菓子なんだ?」
囲炉裏部屋で出すんじゃないのか……と、残念そうな顔をする宝。
「あ……。もちろん上手に作れるようになったら、囲炉裏部屋で皆さんにもお出ししますよ。ただ、お店をするなら何か特別なものがあった方が良いかなと思っただけで……」
「もう十分、美味いよ」
「そ、そうですか……」
少し照れたように俯く白波。
そんな白波を見て、少し困った様子で宝は軽く頬を指で掻きながら言った。
「あのさ……」
「はい」
「白波、喫茶店って言ってるけど……」
「はい」
「茶屋にしたらどうかな?って、オイラ達話してたんだけど……」
一人で色々盛り上がっているところ、悪いけど……と言う感じでそう口にする宝。
「はい?茶屋?」
「そう峠の茶屋とか、団子茶屋とか……。このケーキみたいのじゃ無くて、団子や饅頭、餅をお茶と出してくれる店」
「なる…ほど……」
一瞬虚を突かれたという顔になって白波はぽわっとした表情になる。
「なんで喫茶店になったのかわかんないけどさ……」
囲炉裏部屋を喫茶店にするのは、無理があると話す宝。
「それは……」
少し言い淀んだあと、白波は宝に打ち明けるように話す。
「……いつか宝と僕が人の世に出て行くことになっても、もし喫茶店みたいに色んな人が集まるお店をしていたら、他の座敷童の方や、精霊たちも来てくれるんじゃないかなって思って……」
たとえ見えなくても、人外たちが集ってくれる場所を作れたら――そう思ったのだと……。
それが喫茶店なったのは、紅が昔喫茶店についていたことが頭にあったからだ。
「そういやぁ、お店系についてたのって紅だけだっけ……」
なぜ喫茶店をしたいということになったのか、理由を知って宝は納得する。
「じゃあ、茶店でいいんでない?」
「そうですか?」
どうやらまだピンと来ていないらしい白波は首を傾げる。
「だって同じだもん」
「え?」
「どっちもお茶とお菓子を出して、来た人にほっとしてもらう店だもん。同じだよ!」
言い切る宝。
雰囲気とか、提供するお菓子やお茶……そう言ったものは色々違うが――。
「一緒、一緒!同じだって!」
「そ、そうですね……」
「それにどうしてもケーキ出したいなら、茶屋でだってケーキ出せばいいんだよ」
「え?」
「イチゴの代わりに、桑の実とかサルナシ乗っければ良いんだよ。それで和風!」
「ええぇぇぇ?」
それはなんだか違うんでは?と思う白波だが……。
「あ、蛇イチゴって手もあるぞ!」
自信満々に言い切る宝なのだった。
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