お店をしたい
「えー?なーにーこれー?」
白波のルームに紅の声が響いた。
紅の目は濡縁がわに向けられて、まん丸く見開かれている――。
その視線の先にあるのは、いつも見慣れた障子ではなく白いレースのカーテンで、その前では難しい顔をしてカーテンを見ている白波と、その足元で胡坐をかいてそこに亀を乗せている宝……。
ちなみに宝は面白そうな顔をしながら、亀を撫でていた。
「ああ、紅……いらっしゃい」
ゆっくりと振り向いた白波が、穏やかな笑顔で紅に声を掛ける。
「う、う…ん」
いつもと同じ様子の白波にホッとしつつも、首を傾げる紅。
「なにーしてるのー?」
「実験?」
紅を真似するように首を傾げながら返事をするのは宝だ。
「実験ー?事件じゃーなくてー?」
「事件?」
「こーれはー、じーけんーってー言ってー良いとーおーもうーっ!」
白いカーテンを指さし言う紅。
「事件って……」
苦笑いする白波。
「だってーぜーんぜん!似合わなくてー変すぎーだもーん!」
事件と言っていいほどの似合わなさだと言い切る紅。
「紋付きー袴にー、ヒーラヒラーのーレースつけたみたいー」
「え……」
紋付き袴にヒラヒラレース……しかもそれを丁髷頭のお侍で想像してしまって、ちょっとぞわっとする白波――。
「ははは……そこまで言われますか……。でも、そうですね。これって、まったくこの部屋に合ってませんよねぇ……」
頷くしかない……。
「緑花がー来る前にー片付けたーほうがーいいよー。あとで来るーって、風の子がー言ってたー」
紅が言う。
座敷童におけるおしゃれ番長的立ち位置にいる緑花がこの様子を目にしたら、びっくりすると同時にブチ切れる可能性があると指摘する。
「緑花はーキレイなーものがー好きーだからー」
「これはキレイじゃないってことか?」
「宝はー、これーキレイとー思うー?」
「え?いやぁ……ないな!」
紅に問われて宝は勢いよく否定する。
「うーん……。このレースのカーテン自体は柄が細部まで編まれていて、とても美しいと思うのですが……」
白波は言うが……。
「カーテンはーとーってもーキレイー。濡れ縁もーすっごーく素敵ー!でも、変ー!とーっても変だよー!」
紅は両腕をバッテンにしてダメ出しをする。
どちらもそれぞれ良いが、一緒になるとまったく合わない。
「気持ち悪ーい!」
完全否定である。
「……外しますね……」
宝に手伝ってもらい、そそくさとカーテンを片付ける白波だった……。
「なんでーこんなー変なことーしてたのー?」
カーテンが外され、いつもの様子に戻った囲炉裏部屋――。
白波がせっせと畳むレースのカーテンを指さして紅は聞いた。
白波はカーテンを畳む手を止めないままに返事をする。
「お店をしてみたいなって思いまして……。試しに、喫茶店に良くあると言うカーテンをスズメに準備してもらったんです」
「お店ー?」
きょとんと紅は白波を見返す。
「はい。お店をすれば、もっとたくさんの精霊や妖精、もしかしたらこの前のような神様にも、僕の作るお菓子を食べてもらったり、お茶を飲んでもらったりできるんじゃないかって思って……」
「で、ここで白波の言うようなお店が出来るかどうか、ちょっとカーテン張って実験してたんだ」
「えー?」
紅は盛大に首を傾げる。
「レースのーカーテン張っただけじゃー、お店になんないよー?」
「ええ、まぁ…雰囲気というか……」
当然な紅の指摘に宙を見上げて誤魔化す感じの白波――。
「白波ってばお店をしたい気持ちはあるけど、だからって何したらいいかわかんないんだよ。で、とりあえずレースのカーテン張ってイメージ掴もうとしたって感じ?」
そう言ってオイラも良くわからんし!と笑う宝――。
「……うん、二人ともー変だねー」
変と言うか間違っていると、元喫茶店の座敷童であった紅はあきれ顔をした。
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