珊瑚も海藻も生き物です
「タツノオトシゴか……」
「海の神様のお一人なのかな?」
「海の生物の形をとると言うことはそう言うことであろう」
クロ、アオ、銀河の座敷童三人が己たちの考えを出し合い、うんうんと頷き合っている。
「海の中に界を創り、そこを己の場としておる神の一柱だ」
スズメが言う。
「海の中かぁ……。じゃあ界の住人は、魚とかクラゲとかが主なのかな?」
「だろーなー。クジラだとデカすぎるし、あれは魚じゃないし……。あ、イルカとかなら有りか?」
「いいねー、イルカ!オイラ乗ってみたいなー」
「あと、マンボウとかノンビリしてて面白そう。きっと見てて飽きないと思う!」
「エイは?ひらひらしてて奇麗だぞ」
宝も混じって口々に、他所の神の界の予想を言い合う座敷童たち。
「エイかぁ……良いかも!」
「サメは……」
「それは無いであろう」
アオの言葉を銀河が即座に却下する。
「だよねー」
「もしタツノオトシゴの姿をとる神が食われたら、大変なことになるぞ?」
「それ、笑えねー……」
「怖いこと言うなよぉ……」
勝手な想像で恐々となる座敷童たちにスズメが言う。
「好きに想像しておるところを悪いが、あっちの世界にそういったものは一切おらぬぞ」
「え?」
のんびりとお茶を飲みながら言うスズメに座敷童たちの視線が集まる。
「んじゃあ、せっかく界が創られてるのに空き家ってことなのか?」
もったいない!とアオが言うが――。
「あっちの界は珊瑚が主な生物となっておった。あとは海藻だ」
非常に美しい界であったとスズメが言った。
「え、海藻と珊瑚だけ?魚とかタコとかウツボとかカニとか無し?」
「確かに珊瑚は美しいが、生き物の気配が無いというのは、寂しい世界ではないだろうか?」
「なにを言う。珊瑚も海藻も生き物であるぞ」
「そう言われればそうかもだけど……」
海の中の珊瑚、海藻とくれば、そこに遊ぶ色とりどりの魚が居たほうがしっくりくる……と思う座敷童たち。
「本当に、そなたら座敷童は人の感覚寄りであるな……。別に魚などおらぬとも、あちらの主がタツノオトシゴであるのだから、それで良いとは思わぬか?」
神が自分の為に創った界なのだから――。
「そう言われれば、そうかもだけど……」
「俺らの知ってる神様は、だいたいそこに色々な生き物集ってるから……。なんか寂しくないのかなーとか思っちゃうかな……」
「そうだな」
「ふーん……」
クロ達の言葉を聞いて少し首を傾げる宝。
「クロの知ってる神様って、どんな神様?」
「え?俺が生まれたお山の神様だよ」
お山には色々な生き物が住んでいるし、クロの前身である山童も多くいた。
「それはクロのいう神様の創った界じゃないんじゃないか?」
「ん?」
お山はお山に住まう神様が創った界――と言うわけではない。
「それはそうか……」
「あー」
宝の指摘にクロは「うーん……」と腕組みをする。
「そう言われると……。思えば……山の神様には、そのタツノオトシゴの神様やスズメみたいな体もないしなー」
「体がない……」
「うん。あえて言えば、あのお山自体が神様なんだけど、それってあのお山に住む熊や猪なんかの生き物や、木々草花とかすべてひっくるめてなんだよなぁ……」
「概念というものであろう」
「だね。具体的にこれってものがない」
クロの言葉に銀河も追随する。
「それで言うとワシもそうだ。ワシがワシとして意識を持った時、確かに神の存在を感じてはおったが、それを具体的にどれと言うことはできんな……」
「そっか……。つまり神様って色々なんだね」
スズメやタツノオトシゴのように身を持った神様もいるし、クロや銀河の知る概念――意識体のような神様もいる……そう宝は理解した。
「てかさぁ……宝はその神様に会えたんだろ?いいなぁ……」
羨ましそうにアオが言う。
「そう?」
「だってオレ、スズメ以外の神様に会ったことねーもん」
クロはお山の神様、銀河は本体が川のほとりにあったころに川の神様に会っているらしい。
「会ったといっても、スズメや件のタツノオトシゴの神のようにその身に形があったわけではないがな……」
「それが普通のことだ」
神に会ったことがあることの方がごく稀なことだとスズメは言う。
「ふふ……僕なんかはその御前にあってすら、お姿を見ることがかないませんでしたけどね……」
ずっと黙って座敷童たちのやり取りを聞いていた白波が口を開く。
「気配とかもわからず?」
「ええ、一切なにも……」
苦笑いで答える白波。
「人の身で神の気配を察するなど、相手の神によっては不敬となることもあるぞ」
「怖いって!」
アオが叫ぶが……。
「そなたらは人外、人ではない」
怖がる必要は無いとスズメは言った。
「まぁ、先の神であれば、そのうち会う機会もあるであろう」
「え、なんで?」
首を傾げるアオにスズメが爆弾発言をする。
「そのうちこちらにも来たいと言うておったのでな」
「は?聞いておりませんが?」
「言い忘れておった」
びっくりして声を上げた白波に、スズメがしれっと答える。
「白波の菓子が気に入ったので、また欲しいそうだ」
「え…え?あちらの神様は菓子の味がわからないって……」
「味はわからずとも気に入っておったと言ったであろうが」
「は?」
「だがあやつ、今のところ手土産になるものが何も無いとか言うのでな……。なにかよい物を見つけてから来い――と、言うておいた」
「え?」
「当然であろう?」
今回は宝の欠片を譲ってもらう立場だったので、白波のルームを使いこちらから出向いたが、菓子が食べたいと向こうから来たい――と言うのなら出向く必要はないし、手土産の一つくらいは欲しい――というスズメ。
「なに言ってるんですか、スズメ!神様ですよ!手土産なんて……そんなもの無くたって……!」
手土産などなくても、菓子ぐらい神様に供します!と叫ぶように言う白波だが――。
「向こうが持ってくると言っておるのだ。受け取ればよい。こっちも神であるぞ」
「なったばかりの新米じゃないですかー!」
「神は神であるぞ」
「そうですけどー!」
「まぁ、いつ来るかわからぬ相手だ。普段どおりに日々過ごし、やって来たら、そのとき出来るもてなしをすれば良い」
スズメは呑気にそう言うのであった。
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