ほかの神様
母屋の囲炉裏部屋――。
「案ずるより産むがやすしとは、きっとこういったことなんでしょうね……」
ほうっと息を吐いて、湯飲みを両手でもった白波がつぶやく。
その顔は心底安堵した雰囲気で、横に居た宝はからから笑う。
「大げさだなー白波は」
「だって神様ですよ。緊張しますよ!」
「毎日ずーっと、千年もスズメと暮らしてきてるくせに!」
「スズメと他の神様とは違いますよ」
「スズメだって神様は神様なんだけどなー」
「もちろんわかっています。でも……」
ふうっ…と白波は息を吐く。
「宝に話そうかどうか迷っていたんですが……」
言いにくそうに白波が口を開く。
「ん、何?」
「先ほどいらっしゃっていた神様のお姿、僕には見えなかったんです……」
「え?」
白波の告白に宝は目を丸くする。
「え、でも、お饅頭出してたし、お茶もちゃんと置いてたよね?」
「お姿は見えませんでしたけど、そこに居らっしゃるのはわかりましたから……」
「えーっ!?」
お顔(姿すべてだが…)が見えないので、自分の出した菓子が気に入ってもらえたのか全く分からなかったと白波は言った。
「怖かったですよ……」
「あー、うーん……」
ふうっとため息をついて湯飲みを傾ける白波を見ながら、宝は少し考えてから言った。
「……多分、なんだけど……」
「はい」
「白波、向こうの神様の姿見えたところで、わかんなかったと思う」
「え、どうして?」
「だってタツノオトシゴだったから」
「はい?」
「白波、タツノオトシゴの表情なんてわからないでしょう?」
「え……」
宝曰く、件の神様の姿は普通に海にいるタツノオトシゴと全く同じだったそうだ。
「大きさとか、色とか全部一緒だったよ。スズメはパッと見て『あれ?こんな奇麗な鳥いないよなー』『なんか神々しいなー』ってわかるけど、そういうの全然なかったんだ」
「そ、そうなんですね……」
「うん。でもすっごい優しい神様だったよ。オイラが欠片のお礼言ったら、あの欠片、神様自身がオイラに戻してくれたし、もしまた見かけたらオイラに戻してくれるって約束してくれたんだ!」
「それは凄い!」
神様との約束なら破られることはない。
もし本当に神様が見つけることがあれば確実に宝に戻してくれるだろう。
相手は神様――探す手が何千何万にも増え、その長さも伸びたと同義だ。
「しかも、神様から宝に戻してくれたなんて……光栄ですね」
「うん。光栄ってか、あの神様の力もほんの少しだけど、分けてくれたみたい」
ご機嫌で宝は白波に告げる。
「え、それって……」
「スズメは大丈夫って言ってた」
スズメの世話になりながら、他の神の力を取り入れることを危惧しかけた白波に、宝は先んじて大丈夫だと告げる。
「それよりちょっと怖いよなー」
「え、何がです?」
「だってあの神様、見た目が全く普通のタツノオトシゴと一緒で見分けつかないからさぁ。もし海の中で会って真横にいても、神様だってわかんないんだぞ?」
「………そう言われれば、そうですね……」
もし海の中にいて、普通に横に漂っていられたら……。
「僕は座敷童たちのように気配とかわかりませんし、きっと気づけませんね」
「オイラだって気配消されたわかんないよ。オイラ、海辺にみんなで行けるようになったら、みんなで遊ぼう!とか思ってたんだぞ。あの姿で海の中に居られたら、うっかり跳ね飛ばしちゃったりとか、蹴とばしちゃったりとか……ありえる……」
神と気がつかず、うっかり不敬な真似をしてしまう可能性がある――。
「そ、それは……」
ちょっとどころか、もの凄く怖いと白波はゾッとする。
「たとえ相手が神であってもなくとも、不敬とされることをせねば良いことだ」
「スズメ!」
「そなたたちが対するモノに対して、誠意と敬意を常に持っておれば、知らずにうっかり……程度のことであれば祟りは起きぬ」
いつの間にか戻って来ていたスズメが、そういうものだと言う。
「まぁ、先方の機嫌が悪ければ知らぬがな」
「……」
神のみぞ知ることだと、スズメは少し意地悪な顔で笑った。
「う……」
「まぁ、大丈夫であろう。多分」
「多分って!」
くつくつ笑うスズメは結構ご機嫌だ。
「あ、あのあちらの神様は御満足いただけたんでしょうか?」
「うむ。非常に良い力加減だと喜んでおったぞ」
「そ、そうですか……」
「力加減って……」
「あの姿で、菓子の味などわかるわけが無かろうが」
スズメの伝えた感想に微妙な表情をした二人にスズメは言う。
「それもそうか……」
「あ、あのスズメ……僕はかの神のお姿を見ることが出来なかったんですが、嫌われたわけでは……」
「違う」
白波の懸念をスズメは即座に否定する。
「人の身で神の姿を目にしては魂に負荷がかかり過ぎる。神の力は強大であるからな……ゆえに姿を隠してくれたのだ」
「そういう理由だったんですね……」
嫌われたわけではなく、むしろ善意による配慮とわかってホッとする白波。
そんな白波を横目に宝が疑問を口する。
「スズメは良いのかよ?」
「こっちに関しては、出会ったときのこっちは神とはいえ欠片……神としての意識が希薄でもあった。神として色々浅慮であったし、力も人の魂を押しつぶすほど強大では無かったからな」
「……」
「なにより、もう千年も共におるのだ。白波の身にはこっちの力がすっかりなじんでおるわ」
今さらだとからから笑う。
「それもそうか……」
なんにしても今さら時を戻して、無かったことにして欲しいとは思わない。
積み重ねた時は大切なものだ。
「それよりも、そろそろあやつらが遊び疲れて帰って来るのではないか?」
「あ……」
おやつの支度をするよう、スズメは白波に催促する。
「ん?スズメ、また食うの?」
確かさっき他所の神様とも一緒に食べていた。
「食うに決まっておろう」
胸を張って言うスズメなのだった……。
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