お土産?
「ん?」
厨でおやつの準備をしていた白波は、パタパタという軽い羽音に気づいて顔をあげた。
「あ、おかえりなさい」
「うむ、帰ったぞ」
偉そうに言って頷くのは金目に薄紫の羽色をした小鳥――スズメ。
「結構長い留守でしたね……。修行は上手くいったのですか?」
手元の作業を手早くかたずけた白波は、そのままの流れでスズメの為のお茶の準備を始めながら、スズメに問う。
「当然であろう」
「そうですか、それは良かった」
白波はにっこり笑って、美味しく淹れたお茶を銘々盆に乗せ、スズメをテーブルの方へと誘う。
「ちょうど今日のおやつのお饅頭が出来上がったところなんです。囲炉裏部屋に行くにはまだ時間が早いので、スズメはこっちで先にお茶にしませんか?」
そう言って湯気の上がる蒸し饅頭をお皿に乗せて、お茶の脇に添える。
「中身はカボチャ餡です。餡は濾さずに半殺しにしたので、カボチャの風味がより感じられると思います」
「ふむ……」
スズメは頷くが、なぜか自分の皿に近づこうとせず、まだ湯気の残る蒸し器に目を向ける。
「数の余裕はあるか?」
「え?ええ……いつも少し余分目に作ってはいるんですが、今日は特にいつもより多めに出来てしまいまして……」
カボチャが例年より出来が良く、かつ豊作なので、ついつい作り過ぎてしまった――。
余ったら自分の晩御飯か夜食にでもしようと思っていた……と、言う白波。
「カボチャが美味しいので、それで作った餡もとっても美味しいんです、その餡を入れたお饅頭も当然絶品で…それが嬉しくて、なんだか作る手が止まらなくなってしまったんですよね……。スズメが沢山食べてくれると言うのなら、とても嬉しいです」
その言葉にスズメは軽く首を横に振る。
「こっちではない」
「え?スズメが食べてくれるのでは無いのですか?」
確認する白波にスズメが頷く。
そして羽の下から光る丸いモノ――ウズラの卵くらいの大きさのものを出した。
「何です、それ?」
「土産だ」
「お土産?」
白波が首を傾げると同時に、バンっ!っと大きな音を立てて勝手口の戸が開けられた。
そして開いたと同時にダダダッ!と大きな音を立てて走りこんできたのは宝――。
目も眉も吊り上がり、口元からはぎりっとばかりに噛み締められた歯が覗いている……必死の形相とはきっとこういうものだろう――と白波は思った。
「え、え?た、宝?そんなに必死になってどうしたんです、いったい……」
「どこっ!?」
「はい?」
「オイラ、どこ?」
宝は大きく目を見開いて上がり框に両手をつき、きょろきょろと視線を巡らせる。
と――。
「ここだ」
スズメが先ほどのウズラ卵くらいの光る丸いモノを宝に示した。
それを目にした途端、宝はもの凄い勢いでそれに飛びつきかかるが――。
「まぁ、待て」
と、スズメが羽で宝の動きを制した。
さすが神と言うところか……今にも飛びかかりそうになっていた宝の動きが、スズメの言葉一つでぴたりと止まる。
「スズメ、まさかそのお土産って……」
おずおず訪ねた白波にスズメは頷きを返す。
「うむ、宝の欠片だ。訪ねた先にあったので貰って来た」
「そうですか……」
ほうっと息を吐く白波。
「では、それを……」
「だから、待て」
手を出してくる白波の手もスズメは制す。
「え、だってお土産なんですよね」
「そうだ。だが、先方に条件を付けられた」
少し気まずげにスズメが言う。
「条件って…お土産に?」
「う、うむ」
お土産って条件付きでもらうものでは無かろうに……と白波は思うが、黙ってスズメの言葉を待つ。
神であるスズメに待てと言われてしまったら待つしかない――。
その間に宝がそっと白波の横に来て、スズメにじとーっとした視線を送る。
「睨むでない!こっちとて、渡せるモノならとっとと渡しておるわ!」
自分が持っていたところで、なんの足しにもならぬモノだと言って、スズメは羽を膨らませて不本意だと言う。
「なら、さっさと……」
「交換条件を付けられたと言っておろうが!」
急かす宝にスズメが言い返す。
「そんなの知らない!オイラなんだから、オイラに早く渡して!」
「だからっ!」
「……宝、やめなさい。余計に遅くなってしまう」
ため息をつきつつ白波が宝を嗜める。
「でも、白波!あれ、本当にオイラなんだってば!嘘じゃない!」
泣きそうな顔で訴える宝は、興奮のあまり状況がつかめなくなっているようだった。
そんな宝を白波がおっとりと宥める。
「宝、大丈夫です。わかってます。誰も嘘だなんて言いませんよ……。でも、アレを貰うには条件があるそうですから、まずはその条件と言うのをスズメに聞きましょう?」
「う…うん……」
はあー…と息を深くついて、宝は白波に寄り添ったままその脇に座り込む。
視線はスズメの持つ丸い光に向いたままだが――。
「まったく……これが違うなどとは一言も言っておらんし、返さぬとも言っておらんのに……」
「それだけ必死に宝は探してるんです」
フォローする白波に、スズメは羽をすくめて言う。
「交換条件はたいしたことではない」
「はい、何でしょう?」
「そなたの作る菓子だ」
「はい?」
スズメの言葉に白波は首を傾げた。まったく予想していなかった交換条件だったのだ。
「えーと?僕の作るお菓子とおっしゃいましたか?」
「うむ。だから余裕があるかどうかを聞いたのだ」
「あー……」
納得して頷く白波だったが、すぐに「えー?」と言う顔になる。
「僕の作るお菓子が交換条件って、そんなのでいいんですか?」
「うむ。むこうからそう申し出てきたのだ。問題ない」
だからとっととそこにある饅頭を何か入れ物に詰めてくれ……というスズメに白波は慌てた。
「え、待ってください!そんな他所の神様に献上するような物なら、もっと見栄えの良いものを作りますから!」
慌てて言うがスズメは必要無いと言う。
「向こうが求めておるのは白波の菓子だ。別に見栄えなど気にせずとも良い」
「気にします!それに今日のお菓子は出来たてが美味しいんです。湯気が出るほど温かくなければ美味しくないです!」
湯気の立っている熱々のカボチャ饅頭――。
いわゆる肉まん系の生地の中に、カボチャ餡を詰めたものだ。
「気にするな」
「気にします!」
「だが、作り直しておっては、その分どんどんコレをそ奴に渡すのが遅くなるぞ?」
スズメが宝を羽先で示すのに、白波はうっと息を飲む。
そこには泣きそうな顔をした宝の顔がある――。
「で、でも…これ、ホントに……」
美味しいものは美味しいままに食べて欲しい――。
「ならば、共に行くか?」
「はい?」
「そなたのルームに、こっちが指示する場所に移動するよう言ってまいれ」
「は?」
白波のルームはここと繋がっている(白波限定という条件はあるが)。ならば白波のルームが先方にあれば、白波は出来立てを先方に供することができる――と、スズメは言った。
「な、なるほど……。で、でもですね……」
白波ルームは勝手に動き回るのだ。
その行き先を指定するなど――。
「頼んだことはあるまい?」
「……それは…はい、ないですね……」
位置を固定しようとしたことはある(スズメが)。
だが、どこかに向かってくれと頼んだことはない……。
「アレが先方にあれば、コレを譲ってくれる礼に、そなたの囲炉裏部屋でもてなすことが出来るぞ?」
「そうですね……」
スズメの見せてくれた宝の欠片は、今まで目にしたどの欠片よりも大きく光も強い――。力として、とても質の良い物だろう。
こちらがたとえ元の持ち主であろうと、それほどの物を譲ってもらうのであれば、相応の礼を尽くすのが礼儀だと思う。
「……頑張ってみます」
ルームが聞いてくれるかどうかはわからないが……。
「オイラも手伝う!」
そう言って宝が白波の手を掴む。
「はい、お願いしますね……」
白波は軽く微笑んで立ち上がると、躙口に顔を向けた――。
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蒸し饅頭の作り方
材料 (4つ分)
生地:
強力粉 100g
砂糖 10g
塩 1つまみ
ドライイースト 2g
ベーキングパウダー 2g
油 3g
ぬるま湯 50g
好みの餡:120gくらい
1 材料を全てボウルに入れ、よく混ぜながらこねる。
2 丸めて20分ほど寝かせる。
3 4等分してそれぞれこねて、綿棒で平たく丸く伸ばす。
4 好みの餡を包み、正方形に切ったクッキングシートに載せて20分ほど蒸し器で蒸したら出来上がり。




