甘い方がオヤツっぽくはある…
「ダメだってば!」
「あっ!…あ、そうね…そうよね……」
「もう!何回目だよ、このやり取り!」
「知らないわよ!そんなもの数えてるわけないでしょ!」
「逆切れすんなよっ!」
「っるさいわね!わかってるってば!」
「だーかーらー!逆切れするなって、言ってんの!」
「だから、わかってるって言ってるじゃなーい!」
母屋からルームに戻って来た白波の目の前で繰り広げられていたのは、そんなやり取り――。
立ち上がりかけ、両ひざが曲がった姿勢のまま宝に片腕を掴まれている緑花が、半分涙目になりながら宝に振り向いてきゃんきゃん吠えている……。そんな感じの光景――。
「いったい何をやってるんです?」
白波が首を傾げてしまうのも無理は無い。
「あーっ!白波、やっと帰って来た!」
宝があからさまにホッとした表情を浮かべる。
「手伝って…というか、助けてくれ~!」
「はい?」
大切な座敷童(まだ成れていないが……)助けるのはやぶさかではないが、まったく状況がわからなくて白波は宝に問う。
「緑花が泣きそうになってるんですが、まさか宝がいじめたんですか?」
「しないよ、そんなこと!」
「ですよねぇ……」
わかっているが、とりあえず聞いてみたと言う白波。
ちょっと揶揄ってみたかったのだろう。
「では、この状況っていったいどういう状況なんですか?」
小首をかしげて聞く白波。
「緑花に頼まれたんだよ。もし家に帰ろうとしたら止めてくれって……。で、ちょっと前から、それが何回も繰り返されてんの!」
頼まれて、引き受けてしまったから頑張ってはいるが、もの凄く面倒でうっとおしいと嘆く宝。
「えーと?緑花、帰りたいのなら帰った方が良いのでは?」
本来座敷童はその守護家から出ることはない。
必要ないし、出たいと思わないものなのだ。
ただ今は昔と違い、守護家が生み出す良の気が足りないがために、療養所や白波ルームに訪れる羽目になっているだけのこと――。
「ダメなの!」
緑花は宝の手を振り払うと、ぽすん!と勢いよく畳に正座し、そのまま上半身を前方に傾け両腕をつくと、そこに頭をうずめて丸く蹲ってうなる。
「うぅぅ……」
「まるで団子だな……」
「うるさい!」
ぼそりとつぶやく宝のコメントに怒る緑花。
「この恰好なら、もし暴れ出そうとしても立ち上がるのに時間がかかるから、宝も対応しやすいでしょ?!」
宝を思いやってのこのポーズなんだと主張する緑花だが……。
「暴れるってのが前提になってること自体が間違ってるだろーが……」
宝がため息をつく。
「んん……。状況がよくわからないんですが?」
「しちゃいけないことを、してしまいそうになるから、宝に止めてもらってるの!」
「はあ……」
うずくまったままそう答える緑花の声を聞いたあと、白波は説明を求める視線を宝に向けるのだった……。
「つまり、座敷童としてただ見守るという姿勢を維持できそうにないので、ここに籠りたいと……」
「ちょっとの間でいいの……。今日はお月見しようって話しもあるから、その間はそれで気持ちも紛れるだろうし……」
「でも、根本的な解決にはなりませんよ?」
「わかってるわ!でもこうして、白波と話しをしていると『家に帰りたい』って衝動が少し収まるの……。ずっと白波を独占することは出来ないってわかってるけど、数日……いいえ、多分今日と明日くらいだけで良いと思うの」
少し考えるようにそう言った緑花に宝も白波も首を傾げる。
「萌の作品、もうほとんど出来てるのよ。今は最後の見直し中」
「おや、そうなんですね」
作品を提出してさえしまえば、きっと余計なこと――作品に魅了の効果を持たせたりとか、人の力では出せないような色をつけたりとかは出来なくなるから……。
「魅了……」
「人に出せない色って……」
「だから、そういうことしちゃいけないから!」
しないがために、ここに居るのだと言う緑花。
「そう言うことなら良いですよ。僕も明日まで緑花に付き合ってここに居ることにします」
「ありがとう!白波がついててくれるなら、明日くらいまでは家を離れてても大丈夫だと思うわ」
「ええ、力の元となるお菓子もゆっくり召し上がっていただけますしね」
そう言って白波が穏やかに笑う。
「それにしても、海辺でお月見なんて素敵ですね」
「うん、私もそう思う。紅ってばナイス提案よね!」
「あ、ねぇ白波……持って行けるお月見お団子ってまだある?先にあったのはもう全部食べちゃったんだ……」
宝が少しもじもじしながら白波に聞くと、白波は大丈夫だと請け負った。
「大丈夫ですよ。まさかそう言った話になっているとは思いもしませんでしたが、偶然にもちょうどいいお団子を作って来てます」
白波はそう言いながら、重箱を宝と緑花の前に出す。
黒内朱の重箱の蓋を開けると、落ち着いた艶のある朱色の中に、楕円形の団子がお行儀よく並んでいた。
「ん?まん丸じゃないね。これって兎型してるのかな?」
「ぐるっと巻いてあるのはこし餡かしら?」
重箱の中を覗いて宝と緑花が首を傾げる。
「もしかして、これもお月見団子なの?」
「関西風のお月見団子です。兎では無く、里芋の形を模してあるそうですよ」
お月見に際にはお団子だけでなく、お月様と同じように白くて丸い里芋も御供えされる。
「あら確かにそう言われれば、キヌカツギみたいに見えるわね」
「えー?それならもう普通に、里芋のキヌカツギにすりゃいいのに」
「それだと、甘くないじゃない」
「あ、そうか……甘くないとダメなのか?うーん……」
うなる宝に白波は笑う。
「ふふ、里芋のキヌカツギも美味しいですよね」
「うん、おいら、蒸した野菜をおやつに食うのも好きなんだ」
「わかりました。また今度そう言った感じのオヤツも出しますね」
「うん!」
機嫌よく頷く宝。
「でも今日はせっかく作ったので、こっちのキヌカツギ風月見団子でお月見を楽しんできてください」
「わかった!」
「あら、私は里芋のキヌカツギより、こっちの方が好きだわ。甘いもの。もちろん甘くないオヤツも嫌いじゃないけどね」
「おいら、両方大好きっ!」
「あ、ズルい!それなら私だってそうよ!」
結局……甘くても、甘くなくても、オヤツならなんでも大好きな座敷童なのだった――。
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