お月見しよう
「白波はどうしたの?」
大鉢に盛られた白い団子――月見団子である、に手を伸ばしながら緑花が宝に聞く。
「スズメとなんか話があるって向こうに行ってる」
「まーたぁー?」
「やっ…ぱり、なにか……」
「たーくらんでるー!」
「って、感じがどうしてもするわねぇ……」
団子を口に運びながら緑花がちろりと宝に目を向ける
「オイラなんにも知らないよ」
「ほーんとぉー?」
「ほんと、ほんと。てか、別に企むような感じじゃ無かったぞ?」
「そう?」
「うん」
確認する緑花に宝は頷く。
「なんてーか、相談?って感じだった」
「相談かー」
ん-っと、黒文字を銜えて紅が首を傾げる。
「紅……お、行儀悪…い」
「んー、ごーめーん!お団子ー美ー味しーいからー、つーい楊枝までー食べちゃいそうにーなるんだー」
「楊枝食っても美味くないと思うぞ?」
「わーかってるー!」
刺した黒文字すら美味しくなるほど、美味しい団子だと言ってるのだと紅は宝に言う。
「意味わからん……」
あきれ顔をされて、むぅっと紅は頬を膨らます。
「まぁ、とにかく美味しいってことで良いじゃない」
緑花が間に入って宥める。
「美味しい……お、団子。お月さま、喜ぶ。今日、満月」
黄魚は黒文字に刺した団子を軽く上に翳し、その奇麗な白い丸さを目で楽しんでいる。
「お月見か……。良いわね」
「あっちに回って、皆で月見の宴でもするか?」
「そうね……」
宝の言葉に緑花は少し考えるように頬に手を当てる。
「あたしー、海の上のーお月様ー見たーい!」
考え込む緑花の前で紅がハイハイ!と手を上げ言う。
「海の上?」
「灯台のー下のとこー座ってー、お月様ー見よーよー!」
「それ、良い…と、思う。紅、とても良い…意、見」
褒める黄魚に紅は「でしょー!」とどや顔で胸を張る。
が、そんな紅を宝は少し冷めた目で見る。
「まだ昼間だよ?お月様出るのって夜だけど、夜まで紅、家の外に居られんの?」
「う……」
宝の指摘に言葉に詰まる紅。
今の守護家に以前よりはずいぶん馴染んできてはいるのだが、やはり長時間外に出ているのは難しいのだった。
「うーんとぉー……。白波のーお団子ー食べながらーならーなーんとかーなるーんじゃーなーいかなー?なー?どうかなぁー……?」
なんとか行けるはず…と言いながら、その言葉が段々と尻つぼみになっていく。
「一度、家…帰れ、ばいい。あたい、一回帰って…また、遊びに…来る」
黄魚の提案に、その手があったと紅がポン!と手を打つ。
「黄魚ー、あったまいー」
パチパチと手を叩く紅に向かって、黄魚が胸を張る。
「でも、面倒じゃない?」
「白波のーお団子ー食べながらー、海でーお月見出来るのーってー素敵ー!だからーちーっともーめんどーくなーい!」
すでに紅は黄魚の案に乗る気満々である。
「本人がいいなら、いいんじゃね?」
「まあね……」
緑花は肩をすくめる。
「んで、緑花はどうすんの?」
「どうしようかしら?」
緑花だって長時間家から離れていれば、帰りたくてそわそわしてくるのは紅や黄魚と同じことだ。
「なんだ、帰りたくないのか?」
「そうねぇ……」
「え!?」
座敷童が家に帰りたくないなんてあり得ないこと、なのに否定されなかったことに宝は驚く。
「実はどうも近いうちに、萌が大きなコンテストに作品出すらしいのよねー」
ほうっと困った顔でため息をつきながらそう言う緑花。
「え?じゃあ…緑花…家に、居…ないと……」
黄魚が緑花に帰りを促す。
たとえ物理的に少々離れたところで、座敷童のついた家から座敷童の守護が消えることはない。
だが、家に居たほうがより強く運を呼び込む力が働く――と、座敷童たちは経験上知っている。
「そうなんだけど……」
困った顔のまま緑花が天井を見上げた。
「なんだどうした?」
宝が問うと緑花は肩をすくめた。
「家に居ると余計なことしちゃいそうなの私……。それなら、ちょっとイライラしたり、そわそわしたヤな気分になったり、そのせいで力が削がれることになるとしても……家から……萌から、離れてた方が良いかなって……」
余計なこと――とは、萌がコンテストに通るように座敷童の力を揮うと言うことだ。
「……ズル、は…だめ」
「わかってる!」
黄魚の言葉に力強く言い返した後に、緑花は大きく息を吐く。因みに……緑花の言う『ちょっとイライラ~』はちょっとなんかではなく、かなりまたはすごくである。
「わかってるわ!わかってるのよ……。でも、創作に詰まってる感じとか、煮詰まってる気配が萌からすると、助けになりたくて力を使いそうになっちゃうのよぉ……」
たはは……とばかりに緑花が頭を抱える。
「えーと……あたしー一回帰ってーまた来るけどー」
紅がそーっと緑花の様子を伺うように見ながらそう言い、宝の方にちらりと視線を送る。
「うん?」
「緑花のことーよろしくーっ!」
紅はそう言うと、ぴょん!と跳ねるように立ち上がる。
「まーた、あーとーでーねーっ!」
そう言い捨てて、ぴゅーん!と白波ルームの囲炉裏部屋から走り出ていってしまった。
「え?」
ぽかんとする宝。
「素…早、い……ね」
おっとり言って黄魚も立ち上がる。
「あたいも、一回帰る。また…来る」
「ええ、じゃあまたあとでね」
ばいばいと黄魚に手を振る緑花。
そして、黄魚の背を見送り……。
「じゃあ、宝。私の見張りよろしくね」
焦燥に駆られて家に向かって走り出したりしないよう、自分を見張っていてくれと緑花は宝に言った。
「あれ?もしかしてオイラ、すっごく面倒な役目を押し付けられた?」
白波早く帰って来ないかなぁ……とぼやく宝なのだった。
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