97.エピローグ そして、新しいストーリー
サラ様が亡くなられた後、アンドリューさんは人が変わったかのように、毎日忙しそうに生きました。
…と言ったら、誤解を招きますね。
でも、彼の生きる理由が、『バンパイアを殺す』から『サラ様の約束を守る』に変わったんですもの。そう言っても問題ないでしょう。
「ねえ、ロザリーばあさん。そのアンドリューって人、昔ここの教会の牧師さんだった人?」
「ええ、そうよ。でも、アンドリューさんがいた頃、あなたはまだ生まれていなかったんじゃない?」
「うん。でも、父さんと母さんから聞いたから!」
少年はえっへんと言うように、胸を張った。
真っ赤な目をらんらんとさせながら、彼はにやりと笑った。
「父さんと母さんが、牧師さんのアンドリューって人が、越してきたばっかりの時にとっても優しくしてくれたって言ってたんだ!」
すると、少年の赤毛が一束ぴょんと現れた。
牧師のアンドリューさんの髪はストレートだったから、この癖っ毛くんの方が可愛らしいと純粋に思う。
そう。アンドリューさんは、十年前、幸せそうにこの世を去りました。その時の顔のほがらかさ…今も忘れません。
生前、彼は少年の言う通り、牧師をしていました。
まるで、彼が殺してきたバンパイア達全てが、報われること、そして、サラ様が天国で幸せに暮らせますようにと願うように…
天国へ行った時点で幸せだと思うけど…まあ、彼の頑なな理論に合っているのならばいいでしょう。
「ジーク!」
私達がいる噴水に、たくさんの子供達がやってきた。
「また、ロザリーばあさんと話してたのかよ?」
「いいじゃん。僕、アンドリュー牧師さんの話、どーしても聞きたかったんだよ」
くしゃくしゃ、っと金髪の少年に頭をかき回される。こっちの金髪は、ストレートヘア。可愛らしいわ。
彼らがじゃれ合っていると、周りの女子達が熱い視線を送る。みんな、おませさんね…
私がこっそりと笑うと、クレイグがコツコツと杖をつきながら私の方へ近づいてきた。
クレイグと私は、アンドリューさんが牧師になった翌年に結婚しました。今や、のんびりとした日々を過ごす老夫婦。
私たちは子供に恵まれませんでした。しかし、孤児院を営み、子供達と過ごした日々を考えると、私たちは楽しい人生を過ごしたと言ってもいいでしょう。
「ロザリー。楽しそうだね」
「ええ。子供って可愛いわね」
にっこりと笑い、子供達を愛おしく眺める。
ふっ。
すると、春風のような風がした。はっとした私は、後ろの建物の方を振り返る。
…オデット。
黒髪の少女が、恥ずかしそうに私たちの様子を伺う。
「クレイグ…またオデットが…」
「わかったよ」
彼の笑顔は、老人になってもかっこいい。さすがね。
クレイグが私から離れ、少女のところへ行く。
優しい笑顔で、彼はオデットに話しかける。
そして、私はこっそりとジークの方を見た。…チラチラとオデットを見ているわ。しかも、顔も赤い。
最近のちびっこは、恋愛するのね。
全く、素敵なものだわ。
クレイグが杖とは反対の手でオデットの手を取ると、二人で子供たちの集まりに連れて行く。
「ジークくん。オデットが遊びたいって」
すると、彼女はクレイグの後ろに隠れてしまう。
ジークは顔を赤らめて、「いいよ」と答えた。
そして、クレイグがオデットの手をジークに渡した。
その時、私は彼らを…あの二人と重ねた。
「行こう、オデット!」
「うん!」
子供たちは、あの二人を先頭に、太陽に向かって走って行った。
クレイグが私の横に座った。
「なあ、ロザリー。もしかしてさ…」
「きっとそうよ。きっと…」
私は彼に上目づかいで笑った。
サラ様とアンドリューさんは天国で結ばれたでしょう。
でも、私はこう思いたい。
二人はもう一度命を授かり、今度こそ幸せになろうって頑張っているって。
そう思いたい。
天国で幸せになっただなんて…あまりにも悲哀的なエンディングでしょう?
結局、彼女は黒から色を作れたのでしょうか?
バンパイアになってしまい、魔術を使ってしまった。
しかし、バンパイアの魔術ではできないはずの、治癒の魔術を使えた。
しかし、最後は黒にのまれて死んでしまった。
彼女の最後は何色だったのでしょうか?
ただ一つ言えることは、彼女は自分以外の黒から色を作ったということ。
アンドリューの隠れていた黒色を変えた彼女は、きっと黒色ではなかった。
そう、僕は信じたいものです。
全97話の「黒から私は色を作る」、お読みいただき、ありがとうございました。
詳しい後書きは、後日活動報告で書かせていただきます。
西川涼の次回作に、ご期待ください。
Bye, see you next story...




