第4話「二箇所目の土地」
母から昔の話を聞いていると、ふと、こんな話が出てきた。
「病気には関係ないけど、おじいちゃん、こんなことも言ってたのよ」
「なんて言ってたの?」
「土地を二箇所も持ってるなんて、立派だなって」
母の実家は農家だった。
母のエッセイでも書いたが、その家が建っていた土地は借りたものだった。
本当は日当たりがよく、広い土地が欲しかったという。
けれど、地主が売ってくれなかったため、借りることになったらしい。
「だから、ちょっと嫌味も入ってたんじゃない?」
「そうなんだ」
私はそこで、引っかかった。
「……二箇所?」
父は土地を二箇所持っている。
今、私たちが住んでいる家の土地。
それとは別に、もう一つあるらしい。
「もう一つって、どこにあるの?」
「お父さんの実家よ」
「え?」
私は思わず聞き返した。
父は長男だ。
そして、あの土地も父のものだという。
「だったら、どうして新しくここの土地を買ったの?」
「あそこには住みたくなかったんじゃない?」
「どうして?」
「お父さん、『あそこは他人が集まって暮らしてる家だ』って言ってたから」
「確かに、私たちへの接し方はおかしかったけど……どうしてそんな言い方するの?」
「詳しい経緯は、お父さんに聞いてみたら?」
「うん」
どうして、自分の土地に建っている家を「他人が集まって暮らしてる家」と呼ぶのだろう。
私は父に、直接聞いてみることにした。
その日の夜。
父はダイニングでテレビを見ていた。
私は父の向かいに座った。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「なんで自分の土地なのに、『他人が集まって住んでる』なんて言うの?」
父はテレビを見たまま答えた。
「そのまんまだよ」
「そのまんま?」
「でも、おじいちゃんが住んでるんでしょ? 他人じゃないじゃん」
「血は繋がってるけどな。俺にとって、あそこは自分の家じゃないんだよ」
「それ、どういう意味?」
「俺の家って言ったって、俺の居場所なんかないだろ。あそこにいるのは、俺にとっちゃ他人みたいなもんだ」
「じゃあ、なんであの土地を持ってるの?」
「俺が欲しくて持ってるわけじゃない」
「え?」
父はテレビから目を離した。
「俺の土地にされちまったんだよ」
父が欲しくて手に入れた土地ではない。
それなのに、父の名義になっている。
「……どういうこと?」
父はしばらく黙っていた。
それから、テレビを消した。
「昔の話になるけどな」
そう言って、父は話し始めた。
話は、父が十三歳のときまで遡る。




