第2話「布団はあった」
第2話「布団はあった」
母の実家は、父の実家とは正反対だった。
農家だったため、いつも誰かが忙しそうに動いていた。
玄関には土が落ちている。
床も土ぼこりっぽい。
夏になれば窓は開けっ放し。
当然、虫も入り放題だった。
子どもの私は、そんな家に文句を言うこともあった。
「汚いよ。掃除しないの?」
すると祖母は、決まってこう言った。
「じゃあ掃除してちょうだい。農家は忙しいの」
それでも、私たちが遊びに行けば、
「よく来たな」
「子どもは大きくなるのが早いなあ」
そう言って、いつも笑ってくれた。
料理だって、父の実家のように綺麗に並べられているわけではない。
味が濃い日もあれば、薄い日もある。
汁物のとろみが、やたら緩いこともあった。
それでも父は、いつも美味しそうに食べていた。
食べ終われば、土ぼこりのついた床で横になる。
そして、そのまま昼寝をする。
父の実家では、横にすらならなかった父が。
母の実家には泊まることもあった。
敷かれるのは、ふかふかの布団ではない。
いわゆる、せんべい布団だ。
しかも虫が入り放題の家なので、布団をめくると虫が挟まって死んでいることすらあった。
今思えば、よくあの布団で普通に寝ていたと思う。
それでも、私は嫌な思い出だとは思っていない。
むしろ、いい思い出だったと思う。
あるとき、母からこんな話を聞いた。
「私、お父さんの実家には泊まったことないのよ」
「え? 一回も?」
「うん」
「なんで?」
母と父が結婚したばかりの頃のことだった。
あるとき、どういう風の吹き回しか、祖父が父に言ったらしい。
「泊まっていったら?」
すると、義理の祖母が言った。
「うちには布団ないよ」
私は最初、その言葉をそのまま受け取った。
「本当に用意してなかったんじゃないの?」
泊まる予定がなかったのなら、来客用の布団を用意していなくても不思議ではない。
けれど、母は言った。
父の姉や、義理の祖母の連れ子たちが泊まっているのを見たことがある、と。
布団は、あったのだ。
父は、自分の実家では眠らなかった。
けれど、土ぼこりの床では昼寝をした。
虫が挟まっているような、せんべい布団では眠った。
子どもの頃の私は、そんなことまで考えたことはなかった。
ただ、父は母の実家にいる時のほうが、ずっとくつろいでいる。
帰るときはいつも、祖母と大伯母が外まで見送りに出てきた。
「これ、作りすぎたから持っていって」
そう言って、煮物やおかずを、いつも何かしら持たせてくれる。
車に乗ると、
「また、いつでも来なね」
二人はそう言って、手を振ってくれた。
家族みんなで、車の中から手を振り返した。




