第1話「他人が住んでる家」
私は、子どもの頃からずっと変だと思っていたことがあった。
父の実家のことだった。
母は、父の実家へ行くたびに、こんなことを言っていた。
「あそこは、他人が住んでる家なのよ」
小さかった私には、その意味が分からなかった。
父の母は、父が十三歳のときに亡くなった。
その一年後、祖父は二人の連れ子がいる女性と再婚した。
それでも私にとって、そこは「おじいちゃんの家」だった。
だから母の言う、
「他人が住んでる家」
という意味が分からなかった。
お盆や年始に実家へ帰る。
それは、どこの家でもよくあることだと思う。
母の実家には、毎年お盆と年始の二回、必ず帰っていた。
それ以外にも、私たちは頻繁に母の実家へ遊びに行った。
けれど、父の実家へ行くのは、年に一度。
年始だけだった。
いつ行っても綺麗だった。
掃除が行き届いていて、年始には見栄えのいい料理がテーブルいっぱいに並んでいる。
壁には、子どもがクレヨンで描いた絵が飾られていた。
祖父と義理の祖母が並んでいて、
『じーじ だいすき』
と書いてある。
けれど、父が帰ると、家の中は静かだった。
挨拶をして、テレビを見ながら世間話をする。
ニュースの話。
天気の話。
政治の話。
まるで、近所の人と話しているような内容ばかりだった。
父も母も、ほとんど料理に手をつけない。
私はそんなことを気にせず、目の前にあった唐揚げを食べていた。
むしゃむしゃと食べる音が聞こえる。
そう思うくらい、静かだった。
兄も料理を食べてはいたが、私よりは空気を読んでいたのだと思う。
あまり手を伸ばさなかった。
私は気にせず食べ続けた。
「食べすぎよ」
母に注意されて、私は手を止めた。
「え? ダメなの?」
すると、祖父が言った。
「ダメじゃないよ」
それだけだった。
そして、もう一つ。
子どもの私には、どうしても分からないことがあった。
父方の祖父や義理の祖母、親戚の人たちが父を見る目だ。
まるで、父が何か犯罪でも犯したかのような目で見るのだ。
私はずっと不思議だった。
父は、何かしたのだろうか。
なぜ、父の親戚は父をそんな目で見るのだろう。
三十分ほどで帰ることもあった。
長くいても、一時間くらい。
父が立ち上がる。
「じゃあ、帰るか」
私たちも立ち上がり、帰る準備をする。
「ごちそうさまでした」
そう言って、家を出る。
祖父は、
「そうか」
と言った。
車に乗って、そのまま帰る。
それが、父の実家だった。




