110 帰国
「皆様、どうか孫をよろしくお願いします」
駅に停車した王族専用魔鉄道の前でヴァレリーさんが深々と頭を下げた。
俺も頭を下げて、必ず守りますと約束を交わす。
「行ってくるね」
「うむ。体には気を付けなさい」
ヴァレリーさんは優しい笑顔を浮かべながらユキ君の頭を撫でた。世界の為にお互いに頑張ろう、と言って2人は頷き合う。
エリオス王国へ帰る事となった俺達は魔導国のヴァレリーさんとはしばしのお別れだ。だが、協力計画もあるのでまた会う機会は近いうちにやって来るだろう。
次はヴァレリーさんがエリオス王国へやって来る時かな?
「はわぁ、すごぉい」
すっかり元気になったナーシィちゃんはアリアちゃんとロザリーさんに両手を繋がれながら、初めて乗る魔鉄道を見上げていた。
口を半開きにして目をキラキラ光らせる表情がなんとも可愛らしい。
「ふふ。さぁ、乗りましょうね」
アリアちゃんは聖母のような笑みを浮かべてナーシィちゃんを可愛がっている。これが母性なのか。彼女は絶対に良いママになりそうだ。
女性の母性を引き出す能力。これがナーシィちゃんの持つパワー。
あのロザリーさんでさえ、いつものキリッとした表情が崩れそう。恐るべし。
俺達が乗り込んで席に座ると、プルルと魔鉄道が出発を告げるベルが鳴った。
「また会いましょう!」
「行ってきます!」
窓を開けて、ヴァレリーさんや見送りに来てくれた研究者と警備隊の人達へ手を振った。
グングンと加速していく魔鉄道に驚くナーシィちゃんを堪能し、駅弁を一緒に食べて、お喋りしていればすぐにエリオス王国に到着だ。
つい数時間前とは違う国に彼女の好奇心が刺激される。特に城へ到着した時は馬車の窓から顔を出して、魔鉄道を見た時と同じように城を見上げていた。
「お帰りなさいませ」
城の玄関ホールでヨハンさん率いる執事とメイドの皆さまに出迎えられた。
それと同時にナーシィちゃんはロザリーさんの後ろに隠れ、必死に着用しているスカートの先を引っ張って変異した脚を隠そうとする。
まだキースのように変異状態を隠す魔導具は追加で開発できていない。ニーソックスで隠しているが、ちょっとだけ黒い毛が露出してしまっているのだ。
そこが気になるのか、今まで差別されてきた経験からか……。
だが、アリアちゃんがスカートを引っ張る手を優しく包んだ。
「大丈夫。ここには貴方を虐める人はいませんよ」
「は、はい……。ご、ご迷惑をおかけしましゅ」
緊張でちょっと噛んだが、それが良かったのだろう。上目遣いのナーシィちゃんにズキュンとやられた。
ほわほわとした雰囲気が玄関ホールに満ちる。
「さぁ、上へ参りましょう。陛下がお待ちでございます」
「分かりました。私はナーシィちゃんとお着替えしてから参りますので」
「じゃあ、俺はユキ君と先に行ってるよ」
王族用のプライベートエリアまで昇った後、二手に別れた。アリアちゃんは早速ナーシィちゃんと約束した綺麗なドレスを着るを履行しに行くようだ。
俺は先に王様のところへ行ってユキ君を紹介しよう。
「エリス様。既に教会と商会には話が伝わっております」
「そうか。では、あとは発表をするだけだな」
ヨハンさんが魔導国へ行っている間にエリオス王国が行っていた各所との調整は終えているとエリスさんに告げる。
エリスさんも事実が発覚し、事件が終わった夜にはエリオス王国へ速報を送っていたようで王様も魔導国で起きた事は把握済みのようだ。
王様の執務室まで辿りつき、中へ入ると王様は宰相のリーベルさんと共に書類を片付けている最中だった。
「おかえり」
王様にそう言われ、俺は安心感を抱く。この世界に来てまだ日は短いが、既に城が家になっている証拠だろうか。
「ただいま戻りました。それで、こちらが魔導国からやって来たユキ君です」
「陛下。お会いできて光栄です」
ユキ君を紹介すると、王様とユキ君は自己紹介を。今後、ユキ君は王城で過ごす。エリスさんが仕事をする場所と同じフロアに開発室を設けたそうだ。
気を楽にして過ごして欲しいと王様は言った。
「母上、いつ発表しますか?」
「出来れば早く……と言いたいところだが、どうだ?」
「各所との連携は出来ています。資金も用意しました。教会の隣に専用の集合住宅も建設予定。既に建設作業は進んでいますが完成してからにしますか?」
「いや、そこまで進んでいるなら情報を外部用に纏め次第発表しよう」
エリスさんは王様に記者会見の準備を進めてくれ、と言って俺を見た。
「記者会見にはお主も出てもらうぞ」
「良いですよ。でも、顔出しOKなんですか?」
俺が言い出して動き始めた計画だ。俺の口から目的や理念を説明するのが筋だろう。
ただ、これまで英雄が召喚された事実は発表しても顔出しはNGだったはず。もう解禁するのかな?
「うむ。アリアもそろそろ学園を卒業するだろう。卒業したら公務が始まる。公務が始まればお主と共に他国へ行く機会も増えるだろう。他国で初めて顔を晒す前に、国内では先に発表せねばならん」
じゃないと国民が納得しない、と。召喚陣がある国だからいち早く英雄の姿を見れるという特権意識なのだろうか?
「突然、アリアの横にいる男は誰だと騒ぎになっても面倒だしな」
まぁ、確かに。アリアちゃんお姫様だし。何も知らない人が見て、お姫様の横に見知らぬ男がいたら騒ぐよね。ありゃ誰だって。
「なので、お主も話す言葉を考えておいてくれ」
「分かりました。いつ頃になりそうですか?」
エリスさんに問うと、彼女は「うーん」と唸る。
「外部に出せる情報を皆で精査せねばならんし……。2週間後でどうだ?」
「発表が2週間後。その1週間後にアリアが卒業。タイミングとしては良いのではないでしょうか」
発表と同時に計画がスタート。最初は国の支援がある計画だが、王族の担当者はエリスさんとアリアちゃんだ。
1週間後にアリアちゃんが卒業するので、彼女も卒業後は力を入れて働きますと今後のアピールするにももってこい。
「僕は2週間後までに試作品を用意します。物があった方が説得力も増すと思いますので」
「助かる。開発室は既に用意しているので、足りない物があれば遠慮せずに言ってほしい」
ユキ君も発表に向けて、さっそく協力してくれるようだ。ありがたいね。
話が纏まったところで、執務室のドアがノックされた。入って来たのは着替えたアリアちゃんとロザリーさん、2人と手を繋ぐドレス姿のナーシィちゃんだった。
「どうですか?」
「可愛いね」
貴族家のお嬢様みたいにフリフリな子供用ドレスを着用したナーシィちゃんが恥ずかしそうに登場すると、歳を取った男性陣はまるで孫を見るような優しい表情にかわった。
緊張したナーシィちゃんの自己紹介が終わると、王様は咳払いをして彼女の前に膝をつく。
目線を同じ高さにして、王様は頭を下げた。
「君に苦労を強いたのは私達、大人の責任だ。本当にすまなかった」
「い、いえ……」
ヴァレリーさんもそうだが、子供にもしっかり謝罪できる大人はそう多くない。そういう意味では国のトップとして2人とも相応しいのだろう。
かっこいいね。
「今日はゆっくり過ごして、明日はお城を探検しましょうね」
「はい!」
王様の謝罪が終わると、ナーシィちゃんはアリアちゃんに抱きしめられて笑顔を浮かべた。




