108 保護計画は無事に進む
地獄の日々を抜け、4日目。
俺の体はトイレに引き籠っていたのが嘘だったかのように全快した。
体を動かしても異変無し。熱や気分の悪化、後に引き摺るような感覚もなし。全力全快だ!
「ごはん食べたい」
3日間水だけというダイエット合宿のような日々を送った俺は、とにかく腹が減っていた。
米が食いたい。みそ汁が飲みたい。魚料理食いたい。
白米、みそ汁、しゃけの塩焼き。この組み合わせって無性に食べたくなる時あるよね。
俺の要望を聞いてくれた中央塔で働く料理人には頭が下がる。ありがとう。
「うめえ、うめえ……」
3日ぶりの食事に涙を流しながらパクパクと食べていると、アリアちゃんが追加の料理を運んできてくれた。
やや大きめの皿に入った料理。なんだろう?
コトリ、とテーブルに置かれたのは紫色の料理だった。
「肉じゃがです」
へぇ。異世界肉じゃが。
だが、俺は冴えていた。全てを察したのだ。そこらへんの失敗系ドタバタコメディ主人公とは一味違う。
「これ、アリアちゃんの手作り?」
「はい! ユウキ様に食べて欲しくて……」
両手を両頬に当てながら恥ずかしそうに笑うアリアちゃん。
なるほどね。ベタな展開だったら、食えるかー! みたいなヤツとかさ。助けが入ったりするじゃん?
あとは無理矢理食って腹壊すやつ。
俺は違う。愛すべき彼女の料理は何でも食う。それが俺の愛だ。
脂汗も、手の震えも、無理矢理感も一切なく。普通の料理を食らうかのように平らげた。
キースもユキ君も、護衛の騎士達も。あのロザリーさんでさえ、ドン引きする色の料理をね。
「美味しかったよ」
「ユウキ様! 嬉しい!」
ペロリと食ってニコリと笑う。
周囲がざわついた。あれを完食するか、という驚愕の目線。膨大な魔力を吐き出して少女を救った英雄は食に関しても無敵なのかと。
そう、今の俺は無敵だ。地獄を切り抜けた事で俺の腹は一時的に星を取った配管工のように無敵だった。
空腹。至上最大の調味料。素晴らしい。
続けて食ったシャケの塩焼きは何故か味が感じられなかったが。
「それで、いつ魔獣憑きの件は発表するんですか?」
食事を終えて、アリアちゃんとラブラブしながらお茶を飲んで休んでいる合間に俺はエリスさんに問う。
「エリオス王国に帰ってからだな」
今回判明した事を全国に向けて発信するのはエリオス王国でちゃんと資料にまとめてから、とエリスさんは言う。
加えて、魔獣憑きの保護に関しても。
「まずはエリオス王国国内で始めようと思う。他国にはさすがに強要できんしな」
魔獣憑きを保護したい。発案者は俺。そして、言うのは簡単だ。
しかし、なんせ保護するのは『人』だ。動物じゃない。
全世界にいる魔獣憑きの人を救いたい。だがルールは尊重せねばならない。
例え、世界的に有名な教会が協力してくれてたとしても現実的には様々な国同士の問題がある。
エリオス国内にいる魔獣憑きの人を保護するのは問題ない。それは、自国民だから。
自国民を保護するのは法律的に問題ない。だが、例え同盟国、仲が良いからといって魔導国にいる魔獣憑きを無断で保護するのはNGだ。
魔導国で生活している = 魔導国の住民として見做される。
そして保護してエリオス王国で暮らす、というのは『移住』という形にもなるので、国同士の人正式な手続きが必要になるという訳だ。
なので、現段階のエリオス王国としては本人から国内へ自主的に来てもらうか、見つけた魔獣憑きの人は『エリオス王国に行きます』と主張せねば手が出せない。
これが他国との問題点。強要できない部分だ。
「まずはうちがモデルケースになってみせる必要があるだろう。そうすれば噂も広がるし、他国からの信頼も得られるはずだ」
「最初はエリオス王国が介入しますが、軌道に乗ったら完全に民営化します。そして、他国にある教会を保護拠点として活動の場を広げようという流れです」
初めての試みでもあるので、エリオス王国がモデルケースとなって『こういった取り組みをしています』『こういった生活をしていて、保証をしていますよ』という例を見せる。
いくら教会が協力していたとしても、危険な団体ではない。しっかりやってます。と示すのは大事だ。
「まぁ、英雄様の名の元に行う活動ですから疑う者はいないでしょう。ですが、後々の為にもしっかりとした仕組み作りは大事でしょうな」
そう、どんなに最初は良くても組織には腐敗が付き物。国であれ、商会であれ、女神を敬う教会であれ過去に腐敗はあったそうだ。
人はずっと正しい道を行くとは限らない。間違える事もある。だから、最初の骨組は大事であるとサージさんの事を思い出しているのか、ヴァレリーさんは悔しそうに言った。
「それでだ。魔力水の製法は魔導国に売ってよいのだな?」
「ええ。というか、買ってくれるんですか?」
エリスさんの言葉に頷きながら、俺はヴァレリーさんの顔を見る。
「勿論です。あんな画期的な魔力回復剤を量産できれば世界が変わる。共同生産国として選ばれて嬉しい限りですよ。あ、先生。これが魔力水に関する契約書です」
と、ヴァレリーさんは契約書なるものを取り出してテーブルに置いた。
「ふむ。金額も問題ない」
書類に目を通したエリスさんがスッと俺の方へスライドさせる。手に取って、記載されている金額を見た。
「いち、じゅう、ひゃく、せん……ファ!?」
製法の販売価格。なんと10億アレス。キャリーオーバーした宝くじより金額が大きい。
しかも、これは製法の値段。魔導国が生成して販売したら売上の1割が今後100年間は契約として俺の懐に入るという。
途中で死亡したら子孫に引き継がれるという保障付き。やばい。
「国際的な契約法に則っていますが、問題ないですか?」
問われるが俺は口をパクパクするだけで返事を返せなかった。とんでもねえ。俺はケツから魔力水を出したおかげでブルジョアになった。
「問題ないだろう。息子から正式に通達させる」
「お願いします。協力体制の件も追ってエリオス王国へお持ちしますので」
驚いているうちにトントン拍子で決まった。
「これで資金面は完全にクリアですね」
「うむ。あとは発表前に各組織と調整をすれば本格的に始動だ」
ふぅ、と何とか落ち着いてお茶を一杯飲んだ時。キースが外にいた騎士から何やら報告を受けたようだ。
「皆さま。助けた少女が目を覚ましたようです」




