107 3日目
今、僕が暮らしている『城』を紹介するよ。
中央塔8階西側にあるトイレの個室さ。
なんでトイレで暮しているのって?
3代目が言った通り、トイレから出れないよ。今日で3日目だよ。
3日間、ずっと便座に座りっぱなしだよ。ここのトイレが洋式でほんと良かった。
「ユウキ様、お水です」
「ア"ァァイ……」
水の入ったグラスにストローを挿し、それを俺の口に近づけてくれるキース。
彼がいなかったら俺はトイレで脱水症状を起こして死んでいたに違いない。ありがとう。
3日間、トイレから出れずに口に含むのは水だけ。痩せたね。これは痩せた。
ユキ君やアリアちゃんが俺の症状を治そうと奮起してくれて、癒しの力や魔力補給などを行ったが効果はナシ。
3代目の改変パワーが強すぎるのか。いや、もうこれ呪いっしょ。
ちゅうちゅうとストローを吸引していると、俺の体がビクリと跳ねた。
「ふぉ、ア"ァァッ!」
「ユウキ様! くッ! また発作か!」
俺は白目を剥きながら出す。何を、とは聞かないで。
「出来る事ならば、私が変わってさしあげたい!」
やめておけ……。素人には耐えられぬ……。
「ア"……アッ……」
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一方、その頃。他の者達は救出した少女や組織について話し合っていた。
完全体に変貌した少女は救われたものの、まだ意識は戻っていない。そこで、経緯を聞く前に推測やサージの持っていた現状証拠を用いての話し合いになってしまっていたが。
「やはり組織は魔獣憑きとなった子らを使おうとしているのは確定か」
「ええ。魔獣憑きが何なのか、我々よりも早く気付いていたのでしょう」
エリス、ヴァレリー、ユキ、アリア。ヴァレリーの執務室で話し合う4人の傍には回復したロザリーの姿もあった。
「サージの私物から何かわかった事は?」
「ロザリー殿の見た内部の様子を参考に調べたところ、首都内の西口付近にある倉庫がヤツの拠点であると判明しました。それと、連絡のやり取りは手紙です」
ロザリー達が最初に監禁されていた場所はサージが個人的に持つ倉庫だった。
内部には監禁部屋と個人の研究場所のような造りになっていて、サージは中央塔とは別の場所で組織の知恵を得て独自に何か研究を進めていたようだ。
移動方法はなんと転移魔法。使用していた転移魔法用の魔導具も押収して研究中。
これを、とヴァレリーがテーブルの上に見つかった手紙を置く。
エリスが手に取って内容に目を通すが……。
「これは最近のか?」
内容には組織が欲しているであろう素材名が並べられ、時間と場所の指定だけが記載されていた。記載される場所を見る限り、サージの拠点とは別の場所で密会していたようだ。
「でしょう。塔の素材管理担当が調べたところ、全てサージが試作品作製に使うとの名目で持ち出した物だと判明しました」
記載されている素材は多岐に渡る。
金属類、薬品、魔石、魔獣の革、魔獣から採取された肉片――組織細胞までリストにある。
「あの少女をどう見つけたのかは不明か」
「ええ。魔獣憑きであった事が原因なのか魔導国内には住民登録されておりません。恐らく他国から連れて来られたか、それとも別の街のスラムから来たか……」
差別され、立場が弱い人間。魔獣憑きの扱いはどの国も同じであった。革新的な魔導具に溢れ、住みやすく生活レベルの高い魔導国も例外じゃない。
「これは計画を早急に進めるべきです」
アリアが真剣な顔でエリスとヴァレリーへ言った。
魔獣憑きが差別され、街に住んでいる住民から「居なくなっても気付かれない存在」となっているからこそ、組織による拉致が簡単に行われる。
魔獣憑きが何なのか。魔獣憑きを進行させるとどうなるのか。判明した事実は善にも悪にもなってしまう爆弾だ。
3代目は免疫を持った者の血液を研究すれば対抗薬が作れるかもしれないとメモに残した。
これが完成すれば英雄の作り出す聖水と共に世界に残った肉片への対抗策となり、魔獣や完全体に対しての手札になる可能性が秘められている。
だが、組織が魔獣憑きの人間を利用すれば魔獣よりも強力な『完全体』にされて、世界を混乱に導く者となるだろう。
「既にユキと共に王国へ送るチームは選定しておりますが、組織と繋がりがないかを今一度調べる必要がありそうです」
他国の開発部中核に敵と繋がった者を送るのはマズイ。
まさかヴァレリーも信頼していたサージが犯人だったというショッキングな出来事もあって、慎重に事を進めようと考えているようだ。
「あの、僕だけ先に行けませんか?」
そこで挙手したのはユキ。
「お兄ちゃんの浄化魔法は凄いですけど、同時に危険です。あれは命を失いかねない……」
ユキはユウキが行う浄化魔法の危険性を身を以て痛感した。
浄化魔法は強力で闇を払う最大の希望。だが、同時に出力に対して要求される魔力量の比率が非常に危険であると理解した。
1のパワーを出すのに3を。10を出すのに50以上。少女を浄化するのに使った出力を100とするならば、ユウキの魔力総量2倍は必要であると彼は知っている。
いくらユウキの魔力総量が歴代最高だったとしても1人分の魔力量2倍まで絞り出すなど現実的に不可能だ。
今回はマナデバイスがあったから成功しただけ。
「でも、お兄ちゃんは救おうとします」
ユウキは同じ状況になった時、また同じ事をするだろう。
英雄であるが故に、英雄に相応しい魂の持ち主である故に。彼は己の命を燃やそうと諦めない。
「だから、僕は先にエリオス王国へ行ってお兄ちゃんを補助する魔導具を作ります」
英雄の仲間として助けてみせる。そう真剣に祖父へ告げた。
「よう言うた! それでこそ、ワシの孫むす――じゃなかった、孫息子じゃ!」
「今、娘って言おうとしたか?」
「エリオス王国へ行って、英雄様を助けなさい。それが3代目様の系譜である我等の役目じゃ!」
「うん! お爺ちゃん!」
エリスの言葉をスルーして、ヴァレリーは言葉を続けた。
ユキも聞かなかったことにした。
「ふむ。では、魔導具作りと併せて頼みたい事がある。ユキは魔導具作りが得意であるが、それ故に魔力操作も秀でているだろう?」
「はい」
ユキが返事をする前に祖父のヴァレリーが頷く。
「魔力水の改良と量産は勿論であるが、ユウキとアリアに魔力操作を教えてやってくれんか?」
「ユウキお兄ちゃんとアリア様に?」
「私も?」
エリスの言葉を聞き、ユキとアリアが顔を見合わせた。
「ユウキは今以上に魔力操作が上達すれば浄化魔法は勿論の事、他の魔法を使うのに効率よく魔力消費させる術を身に着けるであろう。アリア、お主もだ。癒しの宝玉を使う時に別の使い方を編み出せるかもしれん」
ユウキは魔力使用効率を上げる為に。
アリアは癒しの魔法をより高度なモノへ昇華させられるんじゃないか、とエリスは考えた。
「わかりました。ユウキ様の為にも、頑張ります。よろしくね、ユキ君」
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
笑い合う2人は女の子が2人いるようにしか見えなかった。
読んで下さってありがとうございます。
コロナ自粛が解除され、溜まっていた仕事が噴き出しました。
明日から更新に時間を要する可能性があります。
どこかの主人公が過労で転生する前みたい。せめてダークエルフのいるほのぼの系ハイファン世界にして。ダークタグ付きは嫌だ。




