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106 可愛ければ全て良し


「んはッ!?」


 女神と3代目英雄との会話を終えた俺は意識を取り戻す。


「う、も、もう……」


 意識を取り戻した直後、魔力を供給し続けてくれたユキ君の苦しそうな声が聞こえた。


「ユ、ユキ君……」


「ユウキ……お兄ちゃん……ごめんなさい、もう……」


 苦しそうに謝るユキ君。君が謝る事じゃない。


 誰かを犠牲にするのは嫌だ。しかし、誰一人として見捨てたくもない。


 この考えはきっと、欲張りなんだろう。それでも俺は叶えたい。


「ユキ君、君の力を貸してくれッ!」


「え……」


「俺と3代目の力で!」


「えっえっ」


 訳がわからんか。当然だ。俺しか女神と3代目には会っていない。でも、3代目にも頼まれたんだ。


 だから受け取ってくれよな。これからどのような結果が起きるのか知っている俺は――彼に心の中で『似合っている』と言った。


「受け取れええええッ!」


 ぱぁぁと強く輝く俺の尻。七色に光る魔法陣が生まれてユキ君の体へと向かう。


「え、ああああっ!」


 七色の魔法陣を全身で受け止めたユキ君は光に包まれた。


 彼のシルエットが白くなって――変身する。そう、彼は……!


「ふ、ふえええ! なんですか、これええ!」


 ゴリゴリの魔法少女に変身したのだッ!


 ピンクと白を基調としたワンピース型の戦闘衣装! ピンクのリボンを胸に付け、ふりふりのスカートとニーソックス!


 彼が持っていたマナデバイスはハートと星の形が重なったマジカルステッキへと変わる!


 紛う事なき魔法少女。しかし、性別は変わっていない!


『男の子が魔法少女になっても問題は無い。近年では可愛ければ良いという考えが最も重視されている』


 俺の脳内で無表情ダブルピースをキメる3代目の姿が浮かんだ。


 やはり3代目は天才だ。そう改めて確信した。


「ユ、ユキ……。なんという姿に……!」


「ワシは常々、孫が娘なんじゃないかと思っていました」


「男の子なのに可愛い。やっぱり油断できません……!」


「な、なんですかぁ! これぇ!」


 マジカル☆ユキきゅんの姿を見た皆さまの意見。それを背中で受け止めながら短いスカートを引っ張って露出したパンツを隠すユキ君。


「ユキ君! 俺と一緒にあの子を救おう!」


 俺はそのままの体勢で振り返りながら叫んだ。うん、可愛い。


「ど、どうやって……」


「その力は3代目の力を含まれているんだ! 変化したマナデバイスを使って一緒に浄化しよう!」


 涙目になっている彼はマナデバイス――改め、マジカルデバイスを見た。


 そして、アリアちゃんの時と同じく理解したのだろう。その使い方を!


「補助魔法と創造魔法……?」


 マジカルデバイスはユキ君専用のチューニングされた武器である。彼の最も得意とする物作り、それに最も必要とされる魔力操作に特化した性能に。


 魔力操作が極限にまで高められたという事と共に、マナデバイスが本来持っていた魔力供給システム。この2つが合わさって、魔力を変幻自在に操りながら他者に影響を及ぼす事すらも可能にする。


 他者に影響を及ぼす――それは世の中で善にも悪にもなり得る力。だが、彼なら大丈夫だろう。


 なんたって、彼は魔法少女なのだから。


 そうでしょう! 女神と3代目!


 俺が脳内で叫ぶと2人が『YES』と書かれたボードを掲げているのが一瞬だけ見えた。


「お兄ちゃん、いくよ! マナ・バースト!」  


 使い方を理解したユキ君はステッキを俺の背中に押し当てる。


 マナ・バースト。それは3代目が手を加えた事によってより最適化された変換効率を備えた、空気中に漂う魔素を魔力へ変換して他者へ与える力。


 俺の作り出す魔力水の上位互換、完全なる魔力譲渡と言えるだろう。


 ユキ君の作り出した魔力の膜が俺の体を包み込む。


 あったかい。お日様のような温かさが俺を包んだ。爽やかだ。なんて晴れやかな気分なんだ。


 これならイケるッ!


「いくぜえええ!」


 俺は剣の持ち手を強く握りしめた。瞬間、爆発するように広がる浄化効果を持つ七色の光。押し寄せる波の如く、完全体になった狼型の魔獣と少女に迫る。


「なんという……」


「奇跡だ……」


 エリスさんとヴァレリーさんの圧倒される声が届く。だが、まだまだ。


「世界喰らいなんかに負けてはダメだ! 還って来いッ!」


 押し寄せた七色の光はより強く。


「アアア……」


 少女の口からは苦しみから解放されるような、穏やかな声が漏れる。


 徐々に黒いモヤが晴れていき、少女の姿は人へと戻っていく。


 魔獣化していた狼すらも動物の体へと戻っていき、黒い毛並みの狼になると少女と共に地面へ倒れた。


「はぁ、はぁ……。成功だ!」


 引き戻せた。そう確信があった。


「呼吸も落ち着いておる……」


 少女に近寄ったエリスさんが脈と呼吸を確認すると問題無さそうだ、と判断した。


「ユキ君、やったな! 俺達が力を合わせた結果だ!」


「うん!」


 俺とユキ君は笑顔でハイタッチ。パチン、とお互いの手が触れあった瞬間――


「あ……」


 ゴロゴロゴロ。


 地獄が始まった。俺の腹の中で雷神トールが怒りの雷を降らし始めたかの如く。


「お、お、お……」


 俺は前屈みになるどころか、その場で膝を付いた。まずい。ケツに手を添えてないと死ぬ。


 俺の人生そのものが死を迎える。


 額には脂汗が大量に浮かび、体は小刻みに震え始めた。


「お、お兄ちゃん……?」


 だめだァァァッ!! 今、俺に触れるんじゃねェェェッ!!


 俺が目で訴えるも届かない。優しいユキ君が俺の背中を摩るが、その僅かな振動すらも俺の腹の中にいる神は怒り狂う。


「き、きーちゅ……。きーちゅきゅん……」


 キヅイテ、キヅイテ。


「ハッ!? まさか!!」


 キース、さすがだ。頼りになる。気付いてくれたんだね?


「ユウキ様! しばしの我慢を!!」


 そう叫んだキースは俺の体を掬い上げ、お姫様抱っこして廊下を走る。


「キース!? ユウキ様をどこに!?」


 アリアちゃんが叫ぶが、キースは振り返らない。俺の顔を見て察したのだろう。


 神の審判が近いと。


「きーちゅ……。も、もう……」


 ラグナロク、その時は近い。


「貴方を守るッ! それが私の使命ですッ! 私の夢なんですッ!」


 キース。ありがとう。


 彼はトイレの自動ドアを潜り、個室のドアを蹴破って俺を便器に座らせた。


「キース」


「はい」


 俺はニコッと笑って――


「ハレルヤ」


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