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104 魔法防御


 ねばねばネットで同人誌状態のロザリーさん。もがけばもがく程絡まって、終いには床に転がった。


「ユキ君、ロザリーさんの首輪を解除できる!?」


 あれは魔導具だという話だ。つまりは魔導具に詳しい人なら解除できるかもしれない! 俺、名案すぎる!


「見てみないと何とも……それに」


 チラリとサージさんに視線を向けた。


「ははっ! 自分から出てくるとは丁度良い! クソガキも殺してやるッ!」


 ユキ君への殺意が上限突破してやがる。


 戦闘中の片隅で魔導具の解除なんぞ危険すぎるか。ロザリーさんは放置して、先にサージさんを捕まえるべきか。


 そう考えて俺は視線をサージさんに向ける。だが、彼はニヤリと笑った。


「彼女を救いなさい。さもないと、首輪を自爆させて殺しますよ? おっと、解除するのはヴァレリー、お前じゃない。ユキがやりなさい」


 手に持っているマナデバイスを使用して遠隔操作で首輪を自爆させようとしているのか、サージは楽しそうに笑う。


 ハッ! まさか敢えてユキ君に解除させようとしているのか?


 そうなれば、俺はユキ君の防衛に専念しなければならない。その間に何かをしようと?


 罠だ、俺がそう言おうとするも先に言葉を発したのはヴァレリーさんだった。


「ユキ、解除しなさい」


 明らかに罠だ。エリスさんも気付いているのだろう、ヴァレリーさんを止めるが本人は首を振る。


「外国の客人を見殺しにするわけにはいきません。これは我等レオンガルド家の責任です」


 国のトップに生まれたからには、その責任を果たさなければならないとヴァレリーさんは言った。


 例えまだ若いユキ君でさえも。子供は生まれる家を選べないが、生まれたからには責任が圧し掛かってしまう。


 悲しく、理不尽な事だ。


 しかし、俺も同じだ。俺も英雄として召喚されたから英雄としての務めを果たさなければならない。


「わかり、ました……」


 震える手と足でゆっくりとロザリーさんに近づこうとするユキ君。


 覚悟を決めたのか。ならば、俺もだ。


 俺はユキ君よりも先に前へ出た。彼を守るように。


「ユキ君、君は俺が守る」


 良いじゃないか。サージさん、あんたの罠に乗ってやるさ。


 ユキ君がロザリーさんに近づき、首の魔導具を解除しようと作業を始める。そして、俺は彼を背にして剣を構えた。


「はははッ! さすが英雄だッ!」


 マナデバイスが光って炎の弾が浮かんだ。


「サージ、貴様ッ!」


 割って入ろうとするヴァレリーさんだったが、


「おおっと! 動かないように! 首輪を自爆させますよ?」


 サージさんがヴァレリーさんの介入を拒否する。


「さぁ、解除できますか!? 解除できるまで持ち堪えられますかッ!?」


 楽しそうに笑ったサージさんは生み出した炎の弾を俺に投げつけた。


「くッ! 土壁!」


 廊下の床から壁を作り出し、炎の弾を防ぐ。だが見かけによらず火力が凄まじい。土の壁は一撃で壊れた。


 破片が俺の全身に当たる。思わず目を閉じてしまい、再び前を見た瞬間には第2射が飛んで来ていた。


「あガッ!? あちッ!」


 俺の胸当てに炎の弾が当たる。ぶつかった衝撃で散った火の粉が俺の服に燃え移った。


「ははは!」


 バタバタと手で消している俺の姿を笑うサージさん。


 クソ! どうすりゃいいんだ!


「ユウキ! 魔法防御には障壁だ!」


「ど、どうやって!?」


 エリスさんが魔法防御する為に障壁を張れと言う。それは知っているが、張り方が分からない。


 まだ習ってませんよ!


「こうだ、こう!」


 実演してみせるエリスさんだが、それだけで張れたら苦労しねえ!


 ちくしょう! どうやんだ! 魔法はイメージ!


 障壁は魔法を防御する魔法だ。透明で当たったら消える感じか!?


 ふん! 俺はケツに力を込めながらイメージを浮かべる。


 もう3発目の火の弾が目前に迫る!


「あ、できたわ。アツゥ!?」


 障壁張れたわ。でも、俺は火の弾をまた喰らった。


「逆だ! 尻の前に出してどうする! 手で掴んで前に出せ!」


 そうだった! いつものクセで!


 俺は魔法陣を掴んで掌から発生させる。今度こそ前面に障壁が発生した。


「ほう! ですが、いつまで耐えられますか!?」


 マナデバイスを持った腕を突き出したサージさんはマシンガンのように火の弾を連射した。


「英雄を捕まえるのではなかったのか!」


「ええ。そうですとも。ですが、死んでなければ問題無いでしょう?」


 エリスさんの叫びにサージさんが答えた。


 何という外道。俺をボロ雑巾のようにして連れて行く気だ。


 ……目が笑ってねえ! 本気だ!

 

「ユ、ユウキお兄ちゃん……」


 連射に耐える俺にユキ君の震える声が届く。


「大丈夫だ! 俺は大丈夫!」


 俺は振り返らずに言った。汗まみれの顔を向ける余裕もないが、心配させてはならん!


 俺が倒れればユキ君が攻撃を受ける。俺とユキ君が倒れれば次は他のみんなだ。


 アリアちゃんも傷付けられる。そうはさせねえ!


 そう強い思いを抱いていると、ふわっと俺の背中に暖かい風が当たった。


 火傷していた脇腹の痛みが消える。これはアリアちゃんの宝玉による治癒魔法。


「ユウキ様! 頑張って下さい!」


 愛しの彼女様から応援頂きました。やってやるぞぉぉぉ!


 勢い余ってケツから障壁を生み出しそうになったが、寸でで掴む。


「ダブル障壁じゃい!!」


 両手で発動した障壁によって攻撃着弾時に安定感が生まれた。いけるぜ!


「ほう、では……」


 すると、撃ち出される炎の弾のサイズが一回り大きくなったじゃありませんか。


「ぐっ!」


 2重にしても衝撃が凄まじい。さっきまでの2倍以上だ。直撃を受ければ無事じゃ済まないだろう。


 連射を受け止めていると張った障壁にヒビが入った。魔力を注いで維持するも、結構厳しい。


 息苦しくなって、頭が熱くなってきた。魔力を使いすぎている証拠だ。


「解除……できました!」


「回収して! 早く!」


 俺がそう叫ぶとエリスさんとアリアちゃんを護衛していた騎士達が走ってロザリーさんとユキ君を引っ張る。


「チッ!」


 救出された2人を見たサージさんは特大の魔法弾を生成して撃ち出す。俺だけでも戦闘不能にしようという魂胆だろう。


「サージッ!!」


「行けッ!」


 撃ち出された魔法弾にヴァレリーさんとエリスさんが魔法弾をぶつける。障壁に当たる前に弾けるが、爆風で俺は大きく吹き飛ばされた。


「ユウキ様!」


 駆け寄って来たアリアちゃんが俺の外傷を癒してくれるが……。


「心底、ムカつくガキだ!」


 首輪を見事解除したユキ君に怒りの矛先が向いた。


「来いッ!」


 外に向かって叫ぶサージさん。すると、開いた大穴から魔獣と魔獣憑きの少女が現れる。


 キースは足止めに失敗したのか? それともやられてしまったなんて事は……?


 魔獣と魔獣憑きの少女がサージさんの傍に寄ると、遅れて廊下に飛び込んで来たのはキースだった。


「すいません! 足止めに失敗しました! ユウキ様!?」


 よかった、無事だったか。


「もう茶番は終わりだ!」


 サージさんは懐から試験管を取り出して、狼型の魔獣に振りかける。


 すると狼型の魔獣が成長するように体からバキバキと異音を鳴らして大きくなった。


「さぁ、お前もだ!」


「ならん! あれを止めよ!」


 2本目の試験管を魔獣憑きの少女に振りかける。それを止めろとエリスさんが叫ぶが間に合わない。


「あ、あ、ああああッ!!」


 頭から試験管の中身をかけられた少女は悶え苦しむように体を抑えて絶叫する。


 魔獣憑きの象徴である異形の足からビキビキと黒い筋が血管のように体中を這っていき……。


 次第に両手までもが異形化してしまう。そして、彼女の頬は黒くなって目は金色に変化した。


「やはり3代目が目撃した通りか……!」


 そう言ったエリスさんに、俺はどういう事だと問う。


 すると、エリスさんは怒りを顕わにしてサージさんを睨みつけた。


「あれは世界喰らいの一部。大地を侵食している汚染と同じ。そして汚染の正体、世界喰らいの肉から広がるモノの正体は――異界の病原菌だ」


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