103 騎乗しまぁす
魔獣憑きの少女をどうにかしようとしていると、中央塔の上から爆発音が聞こえた。
「内部に敵か!?」
警備隊の人が見上げながら叫び、声音に焦りが混じる。彼等同様、俺も内心焦っていた。
爆発と共に壁が吹き飛んだ階はアリアちゃん達がいる階だ。彼女の身に何かあったのか、心臓の鼓動は早くなり嫌な汗が流れた。
どうしよう。どうすれば良い。
前には魔獣と明らかに正気じゃない魔獣憑きの少女。上には襲撃されたかもしれないアリアちゃん達。
俺はどちらを優先すれば良いんだ。焦りのせいで口の中が渇いていく。
「ユウキ様、しっかりして下さい! この子は任せてユウキ様は姫様達を!」
キースが俺の肩を掴んで揺さぶりながら叫んだ。
「ここは私が持ち堪えます。貴方は姫様を救って下さい!」
「で、でも……」
「でもじゃない! もしも上にいるのが組織の人間だったら、完全体がいたとしたら……対抗できるのは貴方だけだ!」
キースの目は本気だった。本気で俺に行けと言う。
「貴方は一人じゃない。私に任せて、貴方は貴方の大切な物を守るのです」
「……わかった。ありがとう」
ジッと俺の目を見つめたキースに頷きを返すと、彼はニコリと笑う。
「さぁ! お早く!」
「ああ!」
俺は爆発して吹き飛んだ壁を見つめる。塔の中に入ってエレベーターを使ってては遅い。動いているかもわからないし、動いてなかったら階段だ。
壁に大穴が開いたって事はそこから突入できるはず。ブーストで飛んで……。
俺はそう考えながらハッと気付いた。俺の手にはユキ君特性のガントレット。
これは魔法陣を掴んで握りっ屁魔法を使用できる魔導具。つまり、ブーストの2段使用ができる!
俺は尻の前にブーストの魔法陣を一度出現させたあと、手を回して掴み取った。
「ブースト!」
掴み取った状態のまま、もう一度尻に力を込めて空に舞い上がる。
「飛んだ!」
「英雄様が空を飛んだ!」
驚く警備隊の人達を他所に、俺は突入先である穴を目指す。
ブーストによる上昇が終了して、重力に引っ張られる感覚。ここで素早く腕を前に。
魔法陣を掌から解放し、俺の体は後ろ向きに穴へと進む。
「成功! ……ってうわああ!?」
推進力を得て進む体。振り返れば人がいるじゃありませんか。
「わああああ!?」
俺はぶつかるゥ! と意味を込めて叫ぶと、その人が反応して首を回す。
サージさん! あんただったのか! 危ないよォ!
俺を視認したサージさんの表情が徐々に変わるのがスローモーションで見えた。
笑っていた顔から驚きの表情に。
「おわああああ!?」
そして悲鳴を上げて、俺のケツに顔がジャストミート!
空中で得た推進力を止める事はできない。握りっ屁ブーストは急に止まれないのだ。
俺と俺のケツに顔を埋めたサージさんは共に廊下をゴロゴロと転がった。
「あいたぁ!」
衝撃で後頭部をぶつけた俺は上体を起こす。痛む箇所を撫でていると、俺のケツの下にはサージさんの顔。
エロ同人とかちょいエロ少年漫画に出てきそうな顔面騎乗状態だった。男同士で。
「やべえ絵面であるが、よくやった! ユウキ! そやつが主犯だ! 内通者はサージであった!」
俺の突撃音に反応して部屋から出て来たエリスさん。
マジっスか!? 顔面騎乗状態のサージさんが主犯!?
俺はここで間違いを犯した。このまま顔面騎乗状態だったらそのまま拘束できていたかもしれない。
だが、驚きと絵面に耐え切れず立ち上がってしまったのだ。
「ク、クソ! 英雄を殺しなさい!」
鼻を抑えながら寝転がるサージさんは俺を殺せと命じる。誰にだ。魔獣がいるのか? それとも組織の人間か?
俺の予想は大きく外れた。なんと、殺意ムンムンでナイフ片手に俺の首を掻っ切ろうとしてきたのはロザリーさんでした。
キラリと光る銀のナイフの刃が風を斬るような音と共に見えた。
「おひょおおお!? あっぶねええええ!?」
まさに首の皮一枚。薄皮一枚を引き裂くギリギリで俺は躱す。首が無事か触ってみれば血がちょっと出てた。怖い!
仕掛けて来たロザリーさんの顔を見れば生気のないような、真っ青な顔色と虚ろな瞳。
銀のナイフを払ってから再び構え、俺の顔をじっと見る。まるで百合ヤンデレが狙ってた女の子と付き合った男を殺すような殺意が漂う。
こええ……。
「ユウキ様! ロザリーは操られています!」
アリアちゃんに対する愛が爆発して邪魔な俺を始末しようとしている訳じゃないのか。
それは冗談として、どうやって操られている? 彼女を解放するにはどうすれば……。
「恐らく、あの首輪でしょうな」
そう言ったのはヴァレリーさんだった。彼は杖を立ち上がったサージさんに向けながら言う。
「外せば良いんですか!?」
「いや、あれは恐らく魔導具。どのような仕組みなのか分からない以上、迂闊に取り外すのも……」
どう作動しているかもわからない。外した瞬間に何が起こるか予測不明。どうすればいいんだ!
「ふふ。英雄も来てくれるとは都合が良い。貴方の捕獲も頼まれていますからね」
俺は誰に、とは問わなかった。組織に依頼されたに違いない。
「なぜ英雄を捕獲する?」
ヴァレリーさんがそう問うと、ニヤリと笑ったサージさんが口を開く。
「英雄を殺したら次の英雄が召喚されるでしょう? だったら捕まえておけばいい。そう考えているようですよ、あの方々は」
やっぱりか、と小さな声で呟くエリスさんの声が聞こえた。
「何故裏切った? 何故組織に加担する!?」
怒気を含めた声でヴァレリーさんが叫ぶとサージさんは見下すような表情を浮かべて鼻で笑う。
「貴方達のレベルが低いからですよ。私は魔導師としてより高みに行ける存在だ。マナデバイスとあの方々の持つ知識を得て、史上最高の魔導師になるのです」
「そのような事で……。国に混乱を招くか!」
「ハッ。国などどうでもいい。私は知識を探求していくだけです!」
何とも身勝手な言い分だろうか。己の知識欲を満たす為に混乱を招き、アリアちゃん達も害そうとするのか。
この野郎。久々にキレそうだぜ。俺は剣を構え、まずはロザリーさんを拘束するべきだと考えた。
首輪は外せない。ならば、動けないようにしておくが吉。
サージさんはお喋りに夢中。ロザリーさんは指示待ち状態。不意打ちするなら今だ。
「土ロック!」
厳密には土じゃない。廊下に使われている素材を魔法で操作してロザリーさんの足を拘束しようって寸法だ。
だが、ターゲットであるロザリーさんは魔法が発動した途端にピクリと反応。スッと素早い動きで避けられた。
「マジかよ」
素人が見てもわかる無駄の無い動き。最小限の動きで魔法を躱す。
2度、3度と繰り返すが全て躱された。どうすりゃいいの!
「ヴァレリーを殺す間、英雄を足止めしておきなさい!」
「…………」
サージさんの指示で動き出すロザリーさん。銀のナイフを剣で受け止める脇をサージさんが放った魔法が通過する。
「ぬう!」
魔法障壁を張ったヴァレリーさんに直撃。防いだようだが、顔には大粒の汗が浮かんでいた。
長くは持たない。間に入って魔法を防ごうにもロザリーさんの執拗な攻撃で行かせてもらえない。
「ユウキお兄ちゃん、離れて!」
叫び声のような指示が聞こえ、俺はバックステップしながら声の方向へ振り返る。
そこにはメガホンのような魔導具を持ったユキ君がいた。
メガホン型の魔導具から網のような物が発射され、ロザリーさんの全身を包み込む。
正体はトリモチ。ネバネバでネット状のものがロザリーさんの動きを止めた!




