102 中央塔襲撃
本日も爽やかな朝を迎えたわけだが、中央塔は朝一番から騒がしかった。
その理由はロザリーさんが消えた事。昨晩にアリアちゃんの部屋から退室して以降、朝になっても姿を現さない。
不審に思ったアリアちゃんが騎士とエリスさんに伝えると消息不明になっていると発覚した。
「内通者の調査を任せていたが、相手にバレたのか……?」
エリオス王国と魔導国は密かに内通者を見つけようとロザリーさんに、その任務を任せていた。
アリアちゃん大好きメイドのロザリーさんが彼女の世話を放り出してどこかへ行くなど考えられない。
敵に捕まったと確信を持った。最悪の場合も考えられたが……考えないようにしたい。まだ生きていると信じたい。
焦っているのはエリオス王国だけじゃない。魔導国もそうだ。招いたという形である魔導国内での外国人拉致事件ともなれば大問題。
事情を知るエリオス王国が責任追求するとは思えないが、国の評判的にはよろしくないだろう。
警備隊、エリオス王国騎士はエリスさんとアリアちゃんの護衛に数名割きながらも、残りは全員で捜索を開始した。
俺とキースも捜索に出て、まずは中央塔付近から探し始める事に。
「どこか人を監禁できる場所とかありますか!?」
犯人がこんな近くに潜伏するなど安易な考えかもしれないが、灯台下暗しという事もある。
それに中央塔の魔導具を盗んでいたのならば、どこか近くに保管場所があるんじゃないだろうか。
そう思い、同行する警備隊の人に問う。
「監禁場所ですか……。中央塔には地下はありませんし、全ての部屋は今チェックしているでしょう」
うーん、はずれか。
という事は街の中だろうか。街の外に連れ出されていたら追いようがない。
手掛かりが無い以上、俺達には少しでも有利になるよう祈るしかないのか。
「街の中の倉庫はまだ調べて……ん?」
警備隊の人が言いかけた途中で何かに気付いた。彼の視線を追えば、先には小さな女の子が俯きながら佇んでいる。
「君、どうやってここに――」
一般人、それも小さな女の子が中央塔へ入る事などできない。
「待って下さい!」
少女に近づこうとする警備隊の人をキースが慌てて止めた。
キースが止めた理由に俺も気付く。あの子の足は獣の足……魔獣憑きだ。それを抜きにしても様子がおかしい。
「ウウ……!」
俯いていた少女が顔を上げた。
人種としては人間。だが、少女の纏う雰囲気は怒れる獣と同じ。人と対峙する魔獣のような雰囲気を纏っていた。
「ワォォン!」
人の少女が狼のような雄叫びを上げると、中央塔の壁を乗り越えて狼型の魔獣が何体も現れる。
「嘘だろ!?」
どこから現れたのか、どこに潜伏していたのか。まるで察知できないほど、突然姿を現した。
「応戦! とにかく応戦せよ!」
突如現れ、こちらに駆けて来る魔獣に対して警備隊は剣を抜く。他にも魔水晶を構えて魔法を撃とうと魔獣を睨んだ。
「ユウキ様、あの子は……」
「もしかして、組織に利用されているのかもしれない」
キースと同じく被害者なのかもしれない。あの子は傷つけずに保護したいと2人で頷き合った。
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「ああ、くそ!」
エリスは与えられた客室の中で自分の行いに後悔を抱く。自分がロザリーへ調査任務を安易に任せてしまった結果がこれだ。
戦いにリスクと犠牲は付き物。長い人生の中でそう学んできたが、いつまで経っても割り切れない。
「せっかく魔獣憑きに関して分かったというのに……!」
読み通り3代目は魔獣憑きに関して情報を残していた。紙1枚だけに記された3代目なりの考察と調査の結果をようやく見つけられた。
だが、紙1枚だけだったとしても英雄でありながら大魔導師と名高い3代目の証言もあれば魔獣憑きの待遇を改善できる。
ようやく希望へ1歩踏み出せると思った途端にこのザマだ、とエリスは机を叩いた。
「おばあ様……」
幼少期の頃から一緒に過ごしてきたロザリーの身を案じているのはアリアもだ。
彼女には無事に戻って来てほしい。そう願うしか今は出来ないのがもどかしい。
『ワォォン!』
中央塔の庭から少女が雄叫びを上げる声が聞こえた。気になって窓に近づくとユウキ達が魔獣に囲まれた少女と対峙している姿があった。
「あれは……魔獣憑きか」
窓から様子を窺うエリスとアリア。少女が魔獣憑きであると分かると、彼女が魔獣に囲まれながら危害を加えられない理由に合点がいく。
やはり3代目の推測は正しかったのだと。
正しかった、検証は終わった。だからこそ、1人でも多く魔獣憑きを保護せねばならない。
ユウキとキースは少女を救おうとするだろう。それで良い。だが、少女の様子を見るなり早く伝えなければという気持ちに駆られる。
ロザリーが消えた時点で気付くべきだった。捜索に加わったユウキを引き留めてでも伝えるべきだった。
「私も下に行く! ユウキに伝えなければ取り返しが――」
外に行こうと室内の騎士に伝えようとするが、中央塔内に響いた爆発音に中断された。
「何事だ!?」
傍にいたアリアを抱き寄せながら孫を守ろうとするエリス。爆発音に警戒を強める騎士達が入り口へ顔を向けると、部屋に飛び込んできたのはヴァレリーだった。
「先生! お逃げ下さい!」
「どうした!? 何があった!?」
額に汗を浮かべながら慌てて飛び込んできたヴァレリー。
「マナデバイスが盗まれました! 犯人はサージです! ヤツが内通者でした!」
犯人が判明したと同時に最悪の事態になった。3代目が召喚された際に持っていた神器とも言うべき魔導具が内通者である敵の手に墜ちたと。
最強の魔導具が敵の手に墜ちた。中央塔の敷地内には狂乱化した魔獣憑きと魔獣。消息不明のロザリー。
最悪が3つも重なる。
「先生はアリア姫を連れて駅へ! 英雄様も一緒に退避して下さい!」
「中央塔はどうする!?」
「私が食い止めます! 先生達の身に何かあれば悔やみきれん!」
ホスト国としても、元生徒としてもエリス達の身が何かあれば世界の損失となる、とヴァレリーはエリス達を急かす。
エリスとアリアが護衛騎士に守られながら廊下に出ると……。
「ロザリー!」
向かおうとしていた廊下の先にロザリーが現れる。アリアは彼女の名を叫ぶが、当の本人には反応がない。
虚ろな目を漂わせながらジッと廊下に立つのみ。
「ロザリー! どうしたのですか!?」
「無駄ですよ」
アリアがロザリーに問いかけ続けていると、背後から声が響く。ヴァレリーの睨む先にいたのは事を起こした犯人であるサージであった。
「彼女は私の手駒となって頂きました」
ニタリと笑い、手に持っていたキューブ型の魔導具を見せる。
キューブ型の魔導具は中心に赤い宝石が嵌っていた。赤い宝石が光ると、空気中に浮かぶ魔力の素――魔素を吸収し始める。
「マズイ! 部屋の中に!」
魔導具が光った事を警戒して護衛騎士はエリス達を部屋の中に戻した。
サージの持つキューブ型魔導具こそ、3代目が持っていたマナデバイス。周囲に漂う魔素を吸収して、使用者が扱えぬ大魔法を使用可能にする。この能力こそがマナデバイスの最大にして最強たる能力。
使用者の魔力総量が低くとも世界から魔力を引っ張ってくる。誰でも、人種問わず、魔法使用に関して制限を失くす。これほど異次元な能力を持った魔導具はこの世に存在しない。
3代目が元々いた世界が生み出した魔導具は、この世界ではまだ現実不可能だ。故に最強の魔導具と言えるだろう。
嘗て、この世界で大魔法を撃った3代目は気絶した。魔力総量の多かった英雄でさえ大魔法という力は人が制御できぬ力だ。
だが、大魔法を撃たなかったらどうだろうか。魔導師が魔獣退治の切り札とする攻撃力の高い中級魔法を連発できるとしたらどうだろうか。
それだけでも十分に脅威だ。いや、この世界では最強の魔導師になれるだろう。
現にサージはそうしようとしていた。中級魔法の魔法陣を浮かべてヴァレリーへ掌を向ける。
「はっはっは! 私は最強の魔導師となる! ヴァレリー、貴様や貴様の孫よりも私の方が優れていると証明してやる!」
サージの待機させる魔法陣が発光し始めた。中級魔法が放たれようとする前兆に、ヴァレリーは身構えたが――
「成功! ……ってうわああ!?」
中央塔に開いた大穴から英雄が突っ込んで来た。
その姿、実に怪奇! なんと英雄はヒップアタックの姿で宙を舞う!
するってえと、どうなるか!
「わああああ!?」
「おわあああ!?」
英雄の尻がサージの顔面に直撃!
突然の出来事に驚愕の叫びを上げたサージの声と「人いたの!?」と驚くユウキの叫び声が中央塔に響くのであった。




