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100 魔法を握る


 見学会が行われてから4日が経った。まだ俺達は魔導国に滞在中だ。


 その理由としてエリスさんの調査が終わっていないからだ。任せっきりにしてしまって申し訳ないが、俺も俺でやる事は山積み。


 主に体の調査だ。マイボディーの調査である。尻から魔法が出る謎を解き明かそうとする勢力が一部存在するのだ。


 俺を裸にして魔法を使えと迫る。さすがに全裸でケツを向けながら魔法を放つのは恥ずかしいと言って断っているが。


 そんな俺の魔法生活に一筋の光が差した。齎したのは天才少年ユキ君。


「こ、これが!?」


「うん! これで魔法陣を掴めるはずだよ!」


 ユキ君に渡されたガントレット型魔導具を自分の手の中で見ながら、俺の心臓はドクドクと大きく鼓動した。


 これがあれば、俺はケツの前に浮かんだ魔法陣を掴む事が出来る。


 これがあれば、俺はケツを向けて魔法を撃たなくてよくなる。


 女神様の部下がミスってバグった仕様とついにオサラバできるのか。


 俺は心臓の鼓動を感じながら腕に装着させた。うん、サイズはピッタリだ。


「かっこいいですね」


 アリアちゃんが言う通り、見た目もカッコイイ。全体が黒色で指の先が爪のようにちょっと尖がっている。


 これは俺の注文だったが、厨二心をくすぐらない? 暗黒騎士的な感じでさぁ!


「ちょっと剣も構えてみて下さい!」


 キャー! と厨二風に惹かれたのか、アリアちゃんの興奮気味なお願いを聞いた。


 剣を抜いて握る。尖った爪のせいで握りずらい。要、修正である。


 しかし、英雄たるもの要望には100%の力で応えるべきだ。剣を握り、カッコイイポーズを取った。


「どう?」


「光と闇が両方備わって最強に見えます!」


 意外なほど、アリアちゃんは厨二っぽかった。


 それは置いといて、本題に。


 俺はケツに力を込めて魔法を待機状態に。安全性を考慮して水を出す魔法だ。


 うっかりケツの前から水が飛び出ないよう我慢して、俺はガントレットを装着した手をケツへ持っていく。


 ここかな? と首を一生懸命捻りながら魔法陣を掴んだ。そう、俺は掴んだのだ。


「ユウキ様! 掴んでいます! 魔法陣を掴んでいます!」


「すげえ! 掴めた!」


「やった! 成功だ!」


 こりゃあ、どういう原理なんだ。俺の手の中には魔法陣がある。掴んだ、というよりは握った取ったというべきか。


「さぁ、次はそのまま発動できるかテストだよ!」


「OK!」


 俺は魔法陣を握り込んだ手を前面に。この世界の人達が当たり前のように使う、掌から魔法というモーションをやってみせた。


「発動!」


 なんということでしょう。僕が手を開くと魔法陣が浮かび、陣から水が飛び出したじゃありませんか。


「成功だ!」


 やった! 遂に俺はケツを向けて魔法を撃つという動作から解放された!


 ………。


 これ、握りっ屁じゃね?


 握りっ屁と同じ動作じゃね?


「これで腰を痛めませんね!」


 アリアちゃんの純粋な笑顔が眩しかった。


「ユウキお兄ちゃんの役に立てて良かったぁ」


 満面の笑みを浮かべるユキ君を見たら、俺は「握りっ屁じゃ~ん」なんて言えなかった。


 どうしても尻関連から離れられない。これが俺の運命なのか……?


「ちょっと色々なデータが欲しいから何度か試してくれる?」


 そう言われ、俺は的に向かって何度か握りっ屁魔法を使う。


 どの属性も問題無く使えて、このガントレットを装着していれば手から魔法を放てる。


 試していくうちに浮かび上がった問題は少々タイムラグがある事か。


「お尻から出す方が早いね」


 そう。ユキ君の言い方はともかくとして、握りっ屁魔法は『魔法陣を掴む』という動作を挟む故にどうしてもワンテンポ遅れる。


 魔獣との闘いでは咄嗟の判断が命に係わる。このタイムラグをどう扱うかが勝利の鍵となる。


 デメリットは魔法発動までの時間。だが、メリットとしては掌からの発動なので射角が優れるという点だろうか。


 ケツからの発動だけでは、どうしても大雑把な発動方法に限られてしまっていた。


 ブースト然り、土ロック然り。地面に落とすか、ケツからぶっ放して推進力にするか。大雑把にもほどがある。


 前方180度、自分の目でちゃんと狙いを付けられる点は俺にとって大きな進歩だ。


 例えば、魔力弾。魔力量を大きくして狙撃のように使えるようになった。


 あとは至近距離においての魔法使用。肉薄され、ゼロ距離であったとしても握りっ屁魔法ならば相手に当てられる。ゼロ距離で相手の体へ直接、魔獣の口の中に腕を突っ込んで……なんて事もできるだろう。


 後者の状況になったら余程のピンチだろうけどね。腕を口の中に突っ込むなんて怖くてたまらん。


「ところで、これも魔導具なの?」


 握りっ屁ガントレットをまじまじと観察するが、見学会で見たように魔石を使っているようには見えない。


 どこかに埋め込まれている形跡も無いし。


「それは通常の魔導具とは異なった作り方をしているんだ。3代目様が元の世界で使っていたマナデバイスという魔導具と同じ作り方をしているんだよ」


 なんとガントレットの中には薄い基盤やらマイクロチップ的なモノが埋め込まれていて、通常の魔導具とは全く異なる物になっているそうで。


 使われた材料も3代目が残した物を使い、現代人には到底作れないオーバーテクノロジーの結晶だと言う。


 良いんですか? そんな貴重すぎる物を使ってしまって。握りっ屁に使っていると知ったら、天国の3代目が怒りませんか?


「英雄の為に使うように、って遺言があるから平気だよ」


 ニコリと笑いながらユキ君に言われちゃあ納得するしかねえ。ありがとう、3代目。


「しっかし、凄い技術のある世界から来たんだぁ」


 基盤やマイクロチップ、プロセッサみたいな部品が主流な世界。俺がいた元の世界に似ていて、魔法と科学が合わさったような技術が発達した世界だったのだろうか。


「3代目様が持っていたマナデバイスはウチの家宝として保管してあるけど、使用者に適正の無い属性も使えるようになる凄い魔導具なんだぁ」


 使用すれば適正外の属性も使用でき、イメージでどんな魔法も発動可能。最低限の魔力で中級魔法を連発でき、魔力を注げば大魔法も使用可能になると言う。


 3代目の魔力総量は高かったが、大魔法の中でもとびきり高火力のモノを使用できたのはこの魔導具のおかげだと言う。


 確か、本気を出すと大陸が吹き飛ぶとかエリスさんが言ってたっけ。凄い。


「国の国宝的な物だし、使っちゃダメなんだけどね。危ないし」


 魔力総量が高ければ、という制約はあるものの、迂闊に使用すれば誰もが大魔法を撃てるようになる。


 同盟国で使用禁止と条約が結ばれて以降、ユキ君の家が封印しているそうだ。


「もうちょっとデータを取ってもいい? これで魔力水の魔法陣も掴めるか試して欲しいなぁ」


「OK!」


「他の方が作り出した魔法陣も掴めるのでしょうか?」


「それも試してみよう!」


 俺達はワイワイ盛り上がりながら、また1日を終えた。


 翌日には魔導国が襲撃されるとも知らずに……。


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