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99 開発室見学


 オッス! 俺、ユウキ! 今日はユキ君の開発室を見学するゾ!


「すっごい近未来的だなぁ」


 近づけばシュッと音も無く自動で開くドア。真っ白な内装も相まって近未来SF映画のようだ。


「こんにちは! ようこそいらっしゃいました!」


 開発室の中に入ると出迎えてくれたのはモノクルを装備した爽やかなイケメンだった。


 若い。俺と同じくらいの年齢だろうか。


「この人は第一開発室の室長でサージさん」


「お会いできて光栄です。サージと申します。本日は私も同行してご案内させて頂きます」


「あ。どうもご丁寧に」


 俺とサージさんはペコペコと頭を下げ合った。何だろう、とても懐かしい。ブラック企業の客先に行ったような気分だ。


 サージさんのような腰の低い担当に当たった時に感じる『当たり感』がとても懐かしい。


「まずはメインの開発室に行きましょうか」


 そんな訳でサージさんの案内でメインとなる開発室へ。大部屋の中では何人もの研究者が机の上で作業を行う。


 机の上には金属板と……宝石?


「宝石を使うんですか?」


「ああ、あれは研磨した魔石ですよ」


 そう言ってサージさんは箱の中から魔石を取り出した。机の上にあるようなピカピカの宝石状態ではなく、くすんだ色をしている魔石。


 こちらの見た目は馴染み深い。俺達が魔獣を倒した後で採取するのはこの状態だ。


「こちらは採取されたばかりの魔石です。これを研磨機で磨くんですよ」


 表面を研磨すると宝石のように美しい輝きになると言う。本来、魔石とは宝石のようにピカピカしているのが正しい状態だそう。


 くすんでいるのは魔獣の体内にある組織や体液で汚れている状態なんだって。


「研磨の有無で魔導具の性能は1~5%と変わります。とても低い数字かと思われますが、それだけでも効率は上下しますからね」


「コスト面や使用者が注入する魔力量が変わるから大事な作業なんです」


 サージさんの説明と共にユキ君が研磨機で魔石を磨いて見せてくれた。


 確かに数字としては小さく思えるが、それだけコスト低下や使用者の幅が増えるなら大事な作業だろう。


 魔力効率が上がれば起動時間が長持ちするし、起動時の注入魔力量が低ければ魔力総量が低い人でも扱えるようになる。ユーザーの事を考えた大事な作業だ。


 次は作業中の机にお邪魔する。


「金属をこねているのですか?」


 まぁ、と驚くアリアちゃん。俺も同じようなリアクションだ。


 何たって作業中の人達は金属板を粘土のようにコネコネしているのだから。驚くのも無理はないだろう。


「この作業用手袋ですね。3代目英雄様が開発した金属加工手袋です」


 金属は熱で溶かす。これは元の世界と変わらない。

 

 例えば、水筒型魔導具の外装を作るには型を作って金属を流し込んだりと専用の作業が必要だ。


 でも、それには金属を溶かす大きな炉や設備が必要になる。


 ここは試作品を作って稼働テストを行うのが主。試作品一個作るのに大きな設備を備えるのは効率が悪い。


 なので、試作品専用として完全手作業、自分の指先を使って試作品を作る道具を3代目は作り出した。


 手袋型で表面から炎魔法を発生させる。発生させるが、本来の炎魔法――アリアちゃんがクッキー作りの時に見せたような火炎放射のように放射させない仕組みが備わっている。


 手袋の表面が一定温度で保たれ、触れれば粘土のように金属が柔らかくなるそうだ。


 この効果をもって試作品の外装を作る。何度かテストを重ね、正式に完成すれば街の大規模製造所に送られて専用の設備で大量生産へと移るシステム。


「うーん、すごい」


 実際に体験させてもらったが確かに粘土のように金属板をぐにゃぐにゃ好き加工できる。


 でも、炎魔法を使用しているのは変わらない。作業者は一定距離を保ちながら火災に気を付けながら行おう。開発室の安全対策はバッチリだった。


 この後は魔導具に備わっている魔導基板と魔石の配置について見学した。


 そこで俺の頭には1つの疑問が浮かぶ。


「でもさ、どうやって魔導具に魔法を登録しているの?」


 例えば給湯器。温かいお湯が出る魔導具であるが、温度調節や量も変更できる便利な魔導具だ。


 しかし、この『お湯を出す』『お湯の量』『温度』といった変更方法も疑問だが、そもそも『お湯を出す』という基本的な能力をどう再現しているのか。


 他にも掃除機や水を生み出す水筒なんて魔導具もある。こういった魔法をどうやって再現しているのか。


「ああ、それは刻印機でやっているんですよ」


「刻印機?」


「こちらの魔導具ですね」


 刻印機。これも3代目が作り出した魔導具だという。


「こうやって、通常通り魔法使うように魔法を掌で待機させますよね? この状態で、この板に専用手袋を装着して手を押し付けます」


 ユキ君が魔法を発動寸前の待機状態にしたまま、刻印機にセットされていた金属板を取り出して手袋越しに掌を押し付ける。


 すると、金属板の表面に魔法陣が転写された。


「それで、この金属板を刻印機にセットします。中央の台座に研磨した魔石を置いて……」


 魔石をセットした台座の下には彫刻刀のような小さな刃が3つ。一番下には先ほど掌を押し付けた金属板を置くスペースがある。


 ユキ君が刻印機を起動すると、彫刻刀が勝手に動いて魔石に転写した魔法陣を立体的に『刻印』し始めたのだ。


「すっげえ!」


 ウインウインと勝手に彫刻刀が魔石を削って動く様は完全に機械加工のようだった。


 3代目すげえ。


「これでお湯を出すって魔法を登録した魔石が出来ました。あとは量や温度調整に関わる魔石を作って、基板に乗せれば給湯器が完成します」


「おおー! すっげええ!」


 いやもう心から感心する。すごい。こうやって魔導具は作られているのか。


 元の世界で工場見学した時と同じ気分だ。


「私達が主に考えるのはこの転写する魔法と魔導具の構成についてですね。新しい魔法の開発や魔導具に何個魔石が必要なのか、その魔石の数をもっと減らせるかどうか……と試作を重ねながら考えていくお仕事です」


 なるほどなぁ、と俺とアリアちゃんは大きく頷いた。


「大変なお仕事ですね。ユウキ様の考えた魔法もこちらで試作をして魔導具化するのですか?」


「本格的に始めるのはエリオス王国でやるんですが、実は1つ試したい事があって」


「ん? 何をしたいんだい?」


「ユウキ君の魔法を転写したいけど、その、ユウキ君の魔法陣はお尻に浮かぶから……」


 俺の欠点を口にするのが申し訳ないのか、ユキ君は少々言いにくそうに言い出した。


 安心して。ヴァレリーさんに見せている時、ここの人達も一緒に見てるから。もう隠しきれてないから。


「でね、お尻に金属板を押し付けても転写されないと思うんだ。そこも試してみたいんだけど、本命は別にあって」


 なるほど。俺の魔法を魔導具化しようとしたらケツを金属板に押し付ける必要がある。


 転写されるか否かは転写用の手袋を使わなければならない。俺専用に転写パンツでも作るのか? 毎回、俺は金属板に尻スタンプ押すんか?


 そう思っていたが、ユキ君は別のアプローチを考えたようだった。


「魔法陣を掴めるようになれば問題解決するかなって!」


「掴むって、俺の尻の前に浮かんだ魔法陣を?」


「うん」


「手で?」


「うん! そうすれば、お尻を向けて魔法を撃たなくて済むよ!」


 魔法を撃つ時、腰が痛くなるという最大の弊害を考慮してくれたのだろうか。


 俺はユキ君の優しさに涙を流した。ユキ君、君は天才だ。


 そして、君は救いの神に違いない。


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