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98 真面目な話


 英雄がゴマ擦りしている頃、別室ではとても真面目な話し合いが進められていた。


「まさか、あの子があそこまで追い詰められていたとは……」


 そう言って祖父として気付かなかった事を嘆くのはヴァレリー。


 ユキの両親は既に他界している。母親はユキを産んだ時に亡くなり、父は魔導具の発動実験中に事故で亡くなった。


 彼の家族は祖父であるヴァレリーしかいない。だが、ヴァレリーも歳だ。いずれ、ユキがこの世に1人残されるのは本人も理解しているだろう。


「だが、英雄がいて良かったではないか」


「ええ。有難い話です」


 酒の入ったグラスを傾けながら言うのはエリス。


 英雄と友になり、メイドや執事から聞いた様子では仲良くやっている様子。


 本人も兄が出来たような心境なのだろう。懐いているのは目に見えて分かった。


「しかし、根本的な解決には内通者を見つけなければ。ユキ様がまた開発を再開しても利用されては……」


 そう言ったのはエリオス王国から護衛として共にやって来た騎士団副団長のマウロだった。


 この部屋の中にいるのはこの3人。


「うむ。確かにその通り。しかし、内通者か……」


「どなたか心当たりはありますか?」


 中央塔に勤める研究者達は総勢300名を超える。塔外にある製造所へ出向している者も併せればもっとだ。


 その誰もが中央塔へは出入り可能。アクセス出来る場所の権限は人それぞれであるが、塔に入って上階へ行くことは可能だ。


 つまり、内通者が2人組だったら高いアクセス権限を持つ者が盗み、下の位にいる者へ渡すという事も可能。


 街の製造所に勤めている者ならば、堂々と街方向へ向かっても怪しまれない。


「だが、塔の出入りには持ち物検査があるだろう?」


 中央塔では未発表の技術を多く扱っている。流出対策として国の警備隊が厳しく持ち物検査をしているが……。


「流出したという事は警備隊の中にも仲間がいるのか、それとも別の手段があるのか」


 この部屋の中に魔導国の者がヴァレリーしかいないという理由がコレだ。


 魔導国の中に潜む内通者の実態が分からない。研究者なのか、警備隊なのか、それとも両方か、別の何かか。 


 全く分からないからこそ、他国であり信用のあるエリオス王国に縋るしかないという現状。


「手掛かりはあの手袋でしょう」


「あれはどういった経緯で紛失したのだ?」


 マウロとエリスがヴァレリーに問う。


「あれは第一号試作品でしてな。手袋型でしょう? 実は腕輪型にしようとユキは思っていたのですよ」


 作ろうとした経緯はユキも言っていた通り、差別されている魔獣憑きの人を救おうとした為。


 どんな人にでも合うよう、また目立たないように腕輪のアクセサリー型を目指してたが、魔法付与の際に合う金属製素材が手元に無くて仕方なく手袋型で試作したという。


 手袋型になったのは親和性が高い魔獣の素材を使用した為であるが、


「理論上はちゃんと機能するとされておりました。魔獣憑きの方から協力が簡単には得られなかったというのもありますが、実際の性能試験前に紛失したのです」


 魔獣憑きの者に協力を試す前に金属製の素材が中央塔に運び込まれ、アクセサリー型に作り直そうとした時には無くなっていたという。


「保管場所は? 試作品保管庫か?」


「ええ」


 魔獣に対する攻撃系の魔導具はまた別の場所に保管されるが、特に攻撃性の持たない魔導具は纏めて一か所に保管されていた。


 まさか攻撃性能皆無の魔導具が流出するとは思わず、発覚までが遅れてしまったとヴァレリーは言った。


「他に流出した物はありますか?」


「いえ、あの手袋だけですな」


 攻撃系魔導具の中には高火力を発揮する物も多くある。だが、それらは残されていたからこそ相手の意図がわからない。


「ふぅむ。手袋の事を知っていた者は?」


「第一開発室の者達でしょうな」


 第一開発室とは、中央塔の中でもエリートが揃う開発チームだ。ここにユキも属しており、エリート達はユキが開発する際は助手もしていた。


 手袋の機能を正しく理解しているとすれば第一開発室に所属していた者達だろう。


「丁度良い。ならば、まずはそこから探るか」


 明日は英雄が第一開発室を見学する。潜入して全体を見るには都合が良い。


「誰を我等の()として動かしますか?」


「キースが適任ではあるが、手袋を流出させた者はキースの能力を把握している可能性が高い。ここはロザリーに頼もう」


 魔獣憑きになってから気配を遮断する能力を得たキースはこういった任務には適任だろう。


 だが、相手は組織と繋がっている。手袋を与えた魔獣憑きであるキースの能力も把握しているはずだ。


 よって、ここは御庭番に所属するロザリーを抜擢。彼女も御庭番の中ではエース級の腕前。


 特に英雄とアリアに近しい場所に常にいるロザリーであれば、アリアが見学したいから、英雄が見学を希望している等の理由を盾にして『アポ取り』と称して各所へ出向いても怪しまれる可能性は低い。


「分かりました。何とか尻尾を掴めれば良いが」


 孫を悲しませた犯人に対して怒りを抱くヴァレリーは、グラスをテーブルに置く際に音を立てるほど力が篭った。


「焦るでない。それよりも、我々は我々でやる事がある」


「魔獣憑きに関する件ですね?」


 エリスとヴァレリーには3代目が残した研究資料に魔獣憑きに関する事が書かれていないか調べるという仕事がある。


 既に資料はヴァレリーの執務室に運び込まれ、あとは読み漁るだけであるが……とんでもなく数が多い。


 ヴァレリーが向けた視線の先には積み上がった紙の束が山ほどあった。


「こちらの世界に召喚されて英雄として活動しながら、幅広く調査していたようですからなぁ」


 3代目がこの世界を豊かに、住みやすい世界にしようと活動した結果だが、しっかりと調査結果として残された物もあればメモ程度で残された物も多い。

 

 走り書き1つも見逃さないよう調べなければいけないので、こちらの件もなかなかに骨が折れそうだ。


「とにかく、明日から動き出す。頼むぞ」


「ええ」


 酒も回ってきたところでお開きとなった。エリスとマウロはヴァレリーの執務室を後にした。


 マウロがエリスを客室まで護衛して行く途中で……。


「アニキィ! 地獄の底までついていきやす!」


 コーヒー牛乳をユキへ献上するユウキの姿があった。


「何やっとるんだ、アイツは……」


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