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17・エリーさんは何者ですか? 私はただの……

最終話です。

少し長いです。

 いや~大変だった。

 何がって? そりゃ決まってるじゃん。勇者一行が魔王である私を討伐に来た一件の後始末だよ。一応は魔王は倒されたことになってるからね、色々手を回したり調整なんかでやることが山積みだったんだよ。

 流石に魔王の後任を立てるわけにはいないしね、また人族と戦争になっちゃうから。

 なので今は魔王不在で幹部クラスの侯爵当主が持ち回りで魔族の代表を行うことになっている。

 私の前の魔王が治めていた時代は、四大侯爵が魔王軍の幹部である四大魔将を名乗っていた。

 だがエーコが討伐に来た際に、侵攻ルート上にあった私のエメロード侯爵領とルビー侯爵領は大打撃を受けた上に私が寝返った事もあり、その領土は侵攻され全盛期の半分以下となっていた。

 とは言え元々エメロード侯爵領とルビー侯爵領は他のサファイ侯爵領とトパズ侯爵領と比べ広大な領地を有していた為、現在でもちょっとした伯爵領くらいの領土は残っている。

 現在でも流石に権威は落ちたが、それでも侯爵家としての威光は残ってはいた。

 侯爵家の当主? ああ、私がエーコと手を組んだ当時に当然亡くなってもらったよ。勿論当主だけじゃなくその血族にも。こちらに同調、服従する者がいれば良かったんだけど、全員が全員、貴族の悪い所を集めたような厚顔無恥で権力だけを主張する無能ばかりだったので消えてもらった。

 なのでシオン達勇者が来るまでの三年の間に、次期当主を私とエーコが主導で立てさせてもらったのだ。

 どうしたのか? 私と同じ立場の魔族を探し出して後釜に据えたのだ。探せば居るわ居るわ、どれだけ認知しない子供がいるんだよって感じだった。

 私が以前ルビー侯爵家の人達に見つけられた時に、そういった諜報機関があるんだろうなって思ってたけど本当にあったよ、今にしてみれば結構簡単なことだったんだなぁ。

 ああ、次期当主は私に服従する者をエーコが選び出し、逆らったらどうなるか滅茶苦茶脅していたから大丈夫だろう。

 私自身も立場上何度も面会したが。従順で割と達観した者ばかりだったので反旗を翻すことはなかったし、今でも善政を敷いているらしいので、取りあえずは安心だ。

 私が思うに多分エーコが生きてる間は絶対に謀反など起きないと思う。当主が世代交代すればわからないけどね。


 人族の方にしても魔王が居ない今、魔族領に侵攻することはないようだ。

 そもそも勇者がいたとしても魔族領に侵攻するには多大な兵と物資が必要で、近年二度の魔王討伐の為に兵も物資も平常時に到底届かないほど足りなくなっており、補充を完了するまでまだかなりの期間が掛かるらしい。


 エーコとシオンは共に人族領の王国へと戻った。

 二人が戻った時に、魔王が居なくても勇者が居るのだから魔族領に侵攻せよと言う、頭のおかしな奴等が居たみたいだが、当の勇者達は魔族と戦う気など毛頭なく、むしろ魔族の方に肩入れしてるくらいで侵攻してくる心配は皆無だ。

 ちなみに今更だが、勇者は異世界から召喚される。

 魔族との交戦派が魔王はおらずとも新しい勇者を召喚しようとしても、短いスパンでエーコとシオンが連続で召喚された為に、暫くは勇者召喚は無理らしい。

 私の個人的意見で悪いんだけど、勇者召喚って異世界からの拉致よね? それって人道的にどうなのって思わなくはない。皆はどう思ってるのかなぁ。聞いちゃいけないお約束なのかもしれないし、今まで口に出したことはないんだけどさ。

 まぁ何はともあれ、暫く人族と魔族の戦争は無いはずだ。


 やっとのことで、ひと段落つき、晴れて私は自由の身だ。

 公式には魔王エリー・エメロードは勇者に倒されたことになってるから、今の私はただの一般魔族なのである。

 いや違うな、現在私は人族のある地にお邪魔している。当然魔族だということを隠して。

 実は私の容姿だが魔族というよりハーフエルフに近い、あくまで見た目の話だが。

 若干長めの尖った耳に白い肌、エルフは金髪だがハーフエルフは千差万別で私のような緑色の髪の色も珍しくはない。美男美女のエルフと違いハーフエルフはそれなりの容姿の者も多いし……って私が美女ではなって事かい、うるさいわ!

 私の一人ボケ、一人ツッコミにも磨きがかかったようだ。嬉しくはないけどね。


 エーコがシオン達と共に王国に戻ると言った時はちょっと驚いた。私と一緒に居るとは思わなかったけど、エーコなら自由気ままに旅にでも出かけるんじゃないかと思っていたからだ。


「王城に戻ってエカテリーナの奴にも礼を言っておかないとな。私がいま生きてるのはあいつが持たせてくれた魔道具のおかげだしな……ただなぁ」

「……ちょっと気持ち悪いとか?」

「あ~お前も私の体の時にやられたか。あいつ涎を垂らしながら「エーコの匂いだ~」って抱きついてくるからな。その時のエカテリーナは一国の王女とは思えんないほどの気持ち悪さだ。普段の見てくれは悪くはないのにな」


 エカテリーナ王女の残念美少女具合は昔からのようだ。

 彼女のことを話すエーコの様子は嫌悪しているわけではなく、呆れ顔で肩を竦めている程度なので台詞ほど嫌っている感じではない。エカテリーナ王女の「エーコとは親友」と言う言葉も嘘ではなかったようだ。


 シオンはすっかりエーコの弟子みたいになっていて、都合のいいパシリ……ええっと違った、エーコのもとで修行をしている。

 まぁ頑張れシオン、正直に言うと修行という名の虐めだと思わなくはないが、確実に強くはなれるよ、経験者の私が言うんだから間違いない。


 聖騎士キースは王国騎士に戻り騎士団の精鋭部隊を任されているというし、聖女アリスは大聖堂で称え崇められているとか、賢者クリスは魔道協会で一大派閥のトップで大先生と呼ばれてるらしい。

 皆、若いのに出世してるねぇ、シオン以外は。

 あっそうそうエーコが王国に戻った際に近衛騎士団長と王宮魔導士長が急遽退役してその後を彼等の息子達が継いだらしい。

 それを聞いたときはあの役職って世襲制なの? と思ったがそんなわけがなく、しっかりとした審査と実績により就任したと言うが……え~、本当なのかなぁ? 

 まぁ、権力者の暗黙の了解でその地位に就いたのは間違いないと思うなぁ、だって二席ともだよ? そんな偶然ある?

 ちなみに退役した二人はエーコと会ってからすぐさま退役を決めたとか。二人共すぐに自分の領地に戻り屋敷から出なくなったと聞く。エーコ曰く挨拶をしただけだと言ってたが、絶対嘘だ。一体何をしたんだか……。


 おっと話が外れたね。

 私は今、とある町に住んでいるのだ。人族の町って時点で大体予想はつくと思う。そう、エーコの身体の時に定食屋の給仕の仕事や冒険者の登録をした、あのエスナの町だ。

 懐かしいのだけど……何だか寂れたねこの町。

 聞いた話ではあの目付きの怖い受付嬢ミランダがやらかした一件で、この町の冒険者ギルドの信用がガタ落ちして、冒険者のかなりの人が拠点を別の町に移したらしい。加えて私が勤めていた定食屋も横領とかで潰れたし、その関連で定食屋の店長と繋がりのあった甘い汁を吸っていた店舗が軒並み店を閉めたとか。

 徐々に町民が他の町に移住していって、今や人口は私がいた時の半分程になってるらしい。まだ村になる程ではないけど、かなり寂しくなった感が否めない。

 元々近くにあった比較的新しい町に人が流れ、人口増加で新たに区画が整備されたのだが、そこが中々利便性と治安が良いらしく住み心地も良いと噂されていた。それがこの町の寂れ具合に拍車が掛かったのだろう。

 この町に来てからその話を聞いたので私もその町に移ろうか考えていたのだが、迷ってるうちに元居たこのエスナの町に居座ってしまった。

 まぁいいか。以前とは外見が違うから何処に行っても私は新参者なので、何処に住んでも構わないだろう。

 気が向けばその新しい町に様子を見に行こうとは思う。

 以前エーコの身体の時にお世話になった魔物の群れに襲われ、村が廃村になって逃げてきた住人の多くはその町に住んでいるらしい。彼等が今の私の姿を見てもわからないだろうけど、私は村人達の元気な姿も見れるかもしれないからね。


 何はともあれ、私はまたこのエスナの町で冒険者登録をしてみたのだ。

 今回はあのいい加減な受付嬢ミランダはいない。

 登録時に魔物の猪や熊を何十頭も持ち込んだら、その日のうちに正冒険者になる為の審査と試験を行い、翌日には正冒険者として登録してくれたのだ。そう仮冒険者は免除されていきなり正冒険者ですよ。

 前回のアレは何だったんだって話だよ、全く。今は外見が別人なので前回のことで文句を言うわけにはいかないから、別にいいんだけどさ。


「全く困った人でした、あの姉は……」


 そう愚痴をこぼしているのはミランダの横のカウンターで仕事をしていた美人受付嬢さんだ。なんと彼女とミランダは姉妹だったらしい。確かに美形姉妹だが、似てない姉妹である。

 大幅に冒険者が減ったせいで、いつも大行列で大忙しだった彼女の仕事は激減して、今や閑古鳥が鳴く程である。まぁ、以前は隣のカウンターにいた駄目姉がサボりまくっていた煽りで、忙しかっただけかもしれないが。

 ミランダの一件の時にミランダはこの町の代官の妾の娘と知ったが、当然そうなるとその妹である彼女もそうなのだろう。

 聞いてみると代官である父も妾の母も同じの異母ではない、正真正銘の姉妹であることが発覚した。全く同じ親から生まれてるのに顔も性格も全然違い過ぎる。ただ一緒なのは二人共タイプは違うが美人だということだ。


「ナターシャさんには悪いですが、あの方は本当にお馬鹿でダメダメな方でした、もう救いようのない程に」

「返す言葉もありません。アンジェラさん、貴方にもご迷惑をおかけてしまって申し訳ありませんでした」

「ナターシャさんが謝る事ではないですよ、頭を上げてください」


 ミランダの妹である美人受付嬢のナターシャと会話をしてるのはアンジェラちゃんだ。アンジェラちゃんは王都の実家の商店には戻らず、なぜか私と冒険者をしていた。

 彼女が実家に戻らないのは理由があるのだが……。


「そりゃあ王国の兵に連れていかれた時は死ぬほど心配しましたよ。いくら元冒険者だからっていっても、魔王軍と戦わせられるかもしれないと聞かされましたから、でも……」

「部隊は全滅したけどある人に助けられて、彷徨っている所を旅の商隊に拾われ、その商隊の主である大商家の長男に見初められ結婚……そして今や私の義姉ですよ!」

「「どう思いますかエリーさん!」」


 ナターシャとアンジェラちゃんの声がハモり私に向かって問いかける。

 知らんがな。

 魔王城で助けたのは私だけど言わない方がいいよね。しかし逞しいなぁ、あの人は。


「えっと、とても運が良くて生命力溢れる方なんですね」

「そうなんですよ。あの姉は転んでも只では起きません。私は一生懸命に頑張っているのに最後にはいつも姉の方がいい目をみるんです!」

「納得いきません。あんないい加減で自分勝手な人が私の義姉なんですか? ナターシャさんならよかったのに!」

「アンジェラさん!」

「ナターシャさん!」


 二人はビシっと抱き合う。何の茶番だ、これ?


「おいおい、何やってる仕事しろ……って言っても他に冒険者が居ないし依頼も来ないのか」

「親方?」

「おっ、懐かしい呼ばれ方だな、よくその呼び名を知ってたなエリー」

「あ、いえ、すみませんギルドマスター」


 あっ、ついポロっと口を滑らせてしまったよ。

 解体場の作業長だった親方は、今やこの冒険者ギルドのギルドマスターだった。

 前の真面目なギルドマスターは冒険者ギルドを退職したが、この町に残って暮らしている。相談役として現ギルドマスターの親方が頼み込んでいて、時折冒険者ギルドに顔を出しに来たりする。有能な人だし人脈もあるので頼りになって助かると親方が話していた。

 彼はこの町が過疎る原因になったミランダさんの一件で責任を取らされた形になったわけだけど、他の人達も彼が悪いわけじゃないとわかっているようで、彼が批判されることは一切なかった。

 代官がらみで口の出せなかったミランダの事以外では、真摯で有能なギルドマスターだったというのは周知の事実だ。

 そんな有能なギルドマスターの後釜は大変だろうな。頑張れ親方。


「ギルドマスターも大変ですよね、人手不足のせいでギルドマスター自身が解体をしないといけないなんて」

「いやなに、久しぶりの解体現場もいいもんさ、書類仕事ばかりしていたら身体が鈍っちまうからな」


 ふむ、確かに今日は妙に生き生きとしてるな。身体を動かす方が性に合っているんだろう。


「何にせよギルドマスターが忙しいのはいいことなんですよ。最近ではエリーさんが持ち込んだ素材でこちらも随分と潤ってきましたしね」


 ナターシャが買い取りリストの書類の束をポンポンと叩く、その中の殆どの書類は私が買い取りに出した素材の書類だ。魔物狩りから薬草採集まで幅広く行ってるかねぇ。


「そうだぜ、こんなに沢山の素材が集まるなんてあの時以来だからな、期待してるぜ」


 あの時……多分私がエーコの身体の時にここに素材を持ち込んでいた時のことだろう。

 あっ、そういえばその時の素材の代金まだ受け取ってなかったな……多分シオンかアンジェラちゃんが受け取ってくれてると思うけど、今更だしもういいか。


「期待してて下さい!」


 答えたのは私ではない。

 何故かアンジェラちゃんがドヤ顔で手を腰に当て胸を張っていた。


「エリーさんは凄いんですから!」


 フフンと鼻を鳴らして私を自慢するアンジェラちゃん。

 いや、凄くはないし、頑張りもしないよ私は? 今の私はそこら辺にいる普通の冒険者ですからね、そういうことになってるから。


 おっ、話が長すぎたね、そろそろ夕刻だし家に戻りますかね。

 念の為に言うけど、前みたいに冒険者ギルド宿舎じゃないよ。というか宿舎自体もうないし。


「アンジェラちゃん、もう帰ろうか」

「あっ、もうそんな時間ですか。ではナターシャさんまた明日」

「はい、お疲れ様でした。アンジェラさん、エリーさん」


 笑顔で挨拶をかわす私達。出入り口に向かう私達の背中に親方、じゃなかったギルドマスターとナターシャが声をかける。


「あっちの方の仕事もがんばれよ嬢ちゃん達。俺も仕事が一段落したら店に行くからな」

「あっ私も仕事が終わったら食べに行きますからね」


 二人に「はい、お待ちしてます」と返事をしてから帰路に就く私達だった。


 寂れてきたこのエスナの町に、元冒険者ギルドのギルドマスターが開いた、今や唯一の食事処である定食屋へと向かう私とアンジェラちゃん。

 うん、そう。私はそこの定食屋で給仕の仕事もしているのだ。

 最近はお客さんも増えてきてるし、当然お給料もちゃんと出てるよ。

 以前の定食屋のように最低賃金を下回る安月給で働かせられることはない、給料らしい給料が出るって素晴らしいよね。

 店長である元ギルドマスターはこんな安い給料で済まないと困った顔をしているが、全然大丈夫ですよ。私はきちんと仕事分のお給料が貰えれば文句なんて言いませんよ? そんなの当たり前だよね。

 この定食屋、住み込みなので今や我が家みたいなものだ。

 最近では私は給仕だけでなく、厨房に入り料理も作っていたりして中々に忙しくなってきた。出来ることが増えるのは嬉しいものだよね。

 そうそう、お金にも困ってないし私のように好きで働いているわけでもないのに、アンジェラちゃんも何故か一緒に働いているのだ。

 意外なことにアンジェラちゃんはドジっ子特性で、時々フロアで大きな音で立ててひっくり返っている姿をたまに見かける。けれどもお客にはウケている、超~ウケている。可愛いって得だよねぇ。


 ある日王都から人が訪ねて来た。

 その人はエーコから書簡を預かってきたという。しかしこのおじさん……いや失礼か、まだお兄さんと呼んだ方がいい歳かな? ともかくこの人何処かで見た気が……。

 その人が自分名はゴルドマンと名乗った所で思い出した。確かエーコの身体の時に魔王城に連れ去られた時の強行偵察隊の隊長だ。

 一体何故? と思ったが王国でも色々あったんだろう。そんなことよりこの人、生きてたんだね。

 しかしすっかり横柄だった態度が改められていた。

 エーコが関わっている時点で何となく、何があったのか察することができるよね。敢えて踏み込んで聞くことはしない。ただ言えることはこの人もエーコのパシリに使われているということだ、頑張れ。

 書簡の方は今度、皆でエスナ町に遊びに行く旨が書かれていた。

 いやいや、そんなのわざわざ書簡にする必要なくない? 大体エーコやシオンは転移魔法で一瞬で来れるでしょうに!

 それに寂れたこの町に来ても何もないよ、まぁ私やアンジェラちゃんに会いに来るんだろうけど。

 その書簡が届いた一週間後にエーコ達がエスナの町に来た。

 定食屋の店長となった元ギルドマスターが店を貸し切りにしてくれたり、現冒険者ギルドのギルドマスターの親方やナターシャ達ギルド職員が勇者が来るというので色々な歓迎の準備をしてくれてたりした。

 一応勇者シオンがまた町に来るという形にはなっている。前勇者であるエーコが王国に帰ってきたということは公式には臥せられているらしい。まぁ政治的な何かがあるんだろうけど。

 しかしおかげで寂れた町も少しは活気を取り戻したようで何よりだ。

 エーコやシオンは相変わらずだし、忙しいはずのキースやアリス、クリス達も一緒に来ていた。まぁ彼、彼女等にも休暇は必要だしね。ゆっくりと羽を伸はすといいよ。

 だた、一緒に来たのは元勇者の一行達だけではなかった。

 なんとエカテリーナ王女がお忍びで来ていたのだ。おいおい、一国の王女様を連れて来ちゃいかんでしょ!

 エーコが責任取るんだし別にいいけどさ。

 エカテリーナ王女は記憶を失ってた時のエーコが私だったと既に説明を受けていて、興味深そうにしながらも普通に接してくれていた。当然今はエーコの身体じゃないので、あの気持ち悪い行動はしてこなかったので安心したよ。

 こうしていれば絶世の美少女なのに、相変わらずエーコとじゃれているときは気持ち悪い行動を取っていたので、残念少女具合は相変わらずのようだ。ただエーコの困った顔も珍しいのでこれはこれでアリかもしれないな、うん。

 あまり接点のなかったシオンの仲間である三人とも仲良くなれたと思う。

 エーコの身体の時は少し距離がある感じだった、なのに今の元魔王の私の方が距離が近いのは何故だろう? 私が思うに、黙っていれば確かに美人だが、つり目で生意気そうなエーコより、自分でいうのも何だが人畜無害そうな私の方が気兼ねなく話せそうだからじゃないかと思うのだ。


 全くの余談だが、聖騎士のキースは貴族出で婚約者がいたが、勇者と世界を旅している時に婚約者が婚約を破棄し別の男と結婚してしまったという、寝取られの経験を持つ強者だ。貴族で金持ちで名誉も権力もありその上イケメンなのになんとも面白い……もとい、可哀想な男なのだろうか。笑ってないよ、うん笑ってない。

 聖女アリスは見た目に騙されてはいけない。この女、笑顔でメイスを振り回す危ない女だったことが発覚した。見た目は本当に高潔な淑女に見えるよ、酔った勢いに失礼なことを言ったシオンとキースをいい笑顔で殴り倒す脳筋女だと誰がわかるのか? いやわかるまい。

 でも一番驚いたのは賢者クリスだね。アリスと背格好や顔が似てるなぁとは思ってたけど双子だったとは。いや単に双子だっただけなら驚かないよ、実はクリス、彼ではなく彼女だったのだ、そう女の子だったんだよ。いや~まさかのボクっ娘だったとはね。


「おい飲んでるかエリー?」

「飲んでないわよ。私、下戸だって言ったじゃんエーコ」

「酒を楽しまないなんて、お前人生の九十九%損してるぞ、つまんねぇ奴だな」

「黙れ、酔っぱらい」


 ずっと私をエメロードと呼んでいたエーコは今では皆と同じくエリーと呼んでいてくれている。やっと私の名前が一つに定着したな。

 どうでもいいけど飲みすぎだよエーコ。彼女はザルだし酒を出しても出しても瞬き間に酒瓶が空になっていくんだよね。もう少し味わって飲んでよね。

 貸し切りになった定食屋は酔いつぶれた人ばかりだ。起きてるのは片付けをしてる私とまだ飲み続けているエーコだけだ。店長は二階の自室に戻っている。


「ふっ、私にそんな口がきけるのはお前ぐらいだぞ」

「それは光栄ね。で、それ止めてあげたら?」


 エーコは酔いつぶれたシオンの頭を足でグリグリ弄んでいる。


「ゆ、許して下さいよぉ~エーコさん……あ、ありがとうございますエリーさ~ん……むにゃ」

「何の夢を見てるんだ、こいつは?」

「さぁ?」


 私の中では完全に勇者の威厳のなくなったシオンの姿が哀れでならない。


「こいつエリーより強くなったら、お前を口説きに行くらしいぞ?」

「何さらっと大変なことを暴露しちゃってくれてんのよ」

「……俺、強くなったら彼女に告白に行くんだ! とか?」

「それフラグじゃん、シオン死ぬやつじゃん!」


 何気に酷い会話だ。


「それで、望み通りに楽しく気楽にやってるか?」

「ええ。そっちは大変そうだけど?」

「私は多少張り合いのある方が楽しいからな」


 ひょっとして私のことが気になって来てくれたのかな? 

 最後に飲めない酒を一杯だけエーコと乾杯して飲み干した。またの再会を願って。

 ……うううっ、やっぱりお酒は苦手だなぁ。


 賑やかだったエーコ達も王都に帰り、私の平穏な日々が帰ってきた。


「今日は何をしますか、エリーさん?」


 冒険者ギルドでアンジェラちゃんが私に尋ねる。


「う~ん、これにする?」


 私は掲示板に張られた依頼書を外しアンジェラちゃんに渡す。


「これって隣町から回ってきた依頼ですね。何々レイクドラゴンの討伐……えええっ?」

「これ要はアレでしょ、湖にいる巨大なトカゲ」

「「全然違います!」」


 受付を受領しようと待ち構えていたナターシャもアンジェラちゃんと声を揃えて、大声で私に反論した。

 いやいやナターシャはともかく、アンジェラちゃんは私が元魔王って知ってるでしょ?

 え、何? 目立たないようにしようと言ってたの私でしょって? 仰る通りでした。

 オズオズと依頼書をアンジェラちゃんから返してもらい掲示板に張りなおす。そして代わりに薬草採取の依頼書を受けることにした。


「エリーさんって何と言うか、極端ですよね」


 ナターシャにクスクスと笑われてしまったよ。

 まぁ、冗談か天然くらいに思われているくらいが丁度いい。


 暖かい日差しが降り注ぎ、風も穏やかだ。今日も一日元気に冒険者稼業とお店の給仕を務めようと思う私だった。


 ……。

 …………。

 ………………。

 良い感じに纏まったかに思えたが……しかし、そうは問屋が下ろさないのが私、エリーなのだ。

 私が一人で定食屋のお客のいない時間帯で店番をしてた時だ。


「た、大変だエリー!」


 エーコが転移魔法で王都からやって来た。数日前に良い別れの演出をしたのに台無しだよ!


「どうしたのエーコ?」

「実はな、王都で私とシオンが結婚させられそうになった!」

「それはおめでとう、で式はいつ?」

「阿呆ぅ! あんな奴と結婚なんかするか!」

「だよね、で?」

「ああ、シオンはな、あんなのでも結構、いやかなりモテる。奴を狙う女共が煩わしくて敵わんかったから言ってやったんだ、シオンにはもう女がいるってな!」

「ほほう」

「そしてシオンも宣言した、俺にはもう心に決めた人がいるとな」

「……」


 私は無言になる。もう凄く嫌な予感しかしない。


「そんな訳だ、近日中にどこぞのご令嬢やら、女騎士やらがここに大量に押し寄せてくるからな、頑張れよ!」

「な、何故……何故こんなことになったのよぉおおおおお!」


 私の絶叫が響き渡る。

 私は逃げる為にエーコに泣きついて、転移魔法の教えを請うたのは言うまでもないだろう。

私の拙作を最後まで読んでくださりありがとうございました。


なにぶん初めての連載投稿で反省点が多々ありましたが、次回に生かしていこうと思います。



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