16・和解と決裂
私は防御結界に包まれていた。多分エーコが私を守るために張ってくれたんだろう。
「エ、エリーさん無事だったんですね!」
シオンが再度エーコに向かって叫んだ。
「戯け! 私はエーコだ、お前の探してたエリーはお前達に倒されてそこに寝ておるわ!」
「え?」
呆然とするシオン。
「記憶が戻ったのではないのですか?」
恐る恐る疑問を口にしたシオンにエーコは冷めた目で見つめ返し、吐き捨てるように言葉を口にした。
「大切な人になるはずだった女の姿が変わったくらいでわからなくなるとは、お前の思いはそんなものだったのか?」
いやいやエーコさん、姿形が変わったら普通わかんないって! それとその大切な人ってのやめてほしいなぁ、こっちが恥ずかしいよ。
シオンはゆっくりこちらを向いて、慎重に私に近付いてくる。
「エ、エリーさん、本当にエリーさんなんですか?」
私は返事をしようとしたけど、口がパクパク動くだけで声は出なかった。ああ、結構ヤバい……。
「エリーさん、やっぱりエリーさんなんですね」
認めちゃったよ! 凄いなシオン、私だったら絶対に信用できないけどなぁ。
……あっ、気が遠くなってきた。私、魔力も殆ど残ってないし、ポーションもないんだけど、だ、誰か回復魔法を……。
目を覚ました時、私の目の前で土下座をしているシオンの姿がそこにあった。
あ~、以前にも定食屋で土下座したことがありましたね、勇者様……。
「勇者エーコさんから全て聞きましたエリーさん……お、俺は。俺はぁああああああ!」
泣いちゃったよ勇者様が。
いやいや、勇者が魔王を倒すのは別に間違っていないからね? むしろ必然? まぁ私は好きで魔王になったわけじゃないんだけど。
「ええっと、かなり姿が変わっちゃったけど、これが本来の私の姿なんだ。しかも魔族だしね」
「魔族でもエリーさんはエリーさんです。それに姿だってエーコさんの時より美しいです! 俺は……うっ、うがああああああぁ!」
「ほう、私エーコが美しくないとおっしゃるのかな、現勇者殿は?」
「い、痛いっいい! い、いえそうではなくてですね、うぎゃあああああああ!」
エーコにアイアンクローを決められのたうち回る現勇者。エーコに対する認識が甘いよ、下手すると死ぬよシオン?
「ほ、本当にエリーさんなのですか?」
アンジェラちゃんがおずおずと私に話しかけてくる。まぁ信じられないのも無理はないよね。
「ごめんね、騙してたわけじゃないのよ。あの時は記憶が無かったから」
「いえ、本物の勇者エーコ様から全ての理由を伺いました。見た目は変わりましたが、口調や雰囲気は確かにエリーさんです」
そう言うとアンジェラちゃんは私に抱きついてきた。
そんな甘えるようなアンジェラちゃんの頭を私は優しく撫でてあげる。
「やっぱりエリーさんです。仕草が同じですもの」
私はエーコより年上で背も彼女より高い、エーコは黒髪だが私は魔族らしい緑色の髪で肌も彼女より白くて似ても似つかない。別人なのだから当たり前だ。
しかしシオンもそうだけど、アンジェラちゃんともそんなに長い間一緒に居たわけじゃないのに、何故私だと言われて納得してしまったのか? エーコの詐欺まがいの話術……もとい、人を納得させられる高度な説明があったとしても、信じてはもらえないだろうと思ってたんだけど……。
でもまぁ何はともあれ、本当のことなので信じてくれるのはありがたい。
未だエーコにアイアンクローで頭を締め付けられて苦しんでいるシオンを放っておいて、見知った顔の勇者パーティの三人がアンジェラちゃんが抱きついたままの私に近づいて来た。
お互いに顔を見合わせた後、意を決したように口を開く。
「エリーさん、正直困惑しているがシオンやアンジェラが言うのなら間違いないのだろう。知らなかったとはいえすまなかった」
「前勇者である英雄のエーコ様が明言してくれるのですもの、私は疑いませんわ」
「そうだよ。そもそも魔王になって姿も変わってたら、エリーさんと結びつかないって」
聖騎士キースと聖女アリスそして賢者クリスが私をマジマジと見つめながら、私に言葉を掛けてくれた。台詞は信じてますと言ってくれてるが、少し困惑しているように見える。
本音ではにわかには信じられないのだろう。本当ならそれが正常だと思ので、気にしないよ。
だた三人共、魔王だった私に敵対心は無いようで安心した。
そもそも私が勇者達と戦ったのはエーコが「勇者達と和解するなら一度全力で戦わないといけない!」と力説したからであって私自身は戦いなんてしたくはなかったのよ。
だいたい私を魔王に祭り上げてしまったのはエーコだし、その原因である私をエーコの中に入れて癒しの湖に転送させたのもエーコだ。
中身が魔族の私に勇者しか使えない魔道具で強引に転送させられたのだ。不具合が出て当然で、一時的に記憶喪失なったくらいで済んで良かったくらいだと思う。
記憶が無きゃすぐに魔王城に帰って来るのは無理だよね。その間に魔王にされるとは思ってもみなかったけど。
魔王の間にいるのは私とエーコ、アンジェラちゃんと勇者一行のシオン、キース、アリス、クリスだけではない。
勇者パーティに新しく加わった二人と、勇者のサポートパーティ全員が生きて今ここにいる。
実は予めエーコの張った特殊結界でどんなにダメージを受けても戦闘不能状態で止められ死ぬことが無いようにされていたのである。
かく言う私もエーコから話を聞いてはいたけど、本当に作動するのか不安だったし、ちょっと疑っていたのは秘密だ。
暴露すると実はアンジェラちゃんに攻撃をしようとしてた時や、勇者達に止めをさされそうになった時は、その事を忘れてたし……。
さてさて、友好的な勇者パーティとアンジェラちゃんは昔馴染みということで、和解に応じてくれたみたいだけど、後の人達はどうかな?
「下らんことを言ってないで、さっさとその魔王の首を取って帰ろうではないか。我々が勝利したのだからな」
「そうだよ、だいたい魔族は皆殺しだって言ってたのシオンじゃないか」
勇者パーティに新たに加わった二人が剣を肩に担ぎ、呆れた口調で肩を竦めた。サポートパーティの面々も口々賛同している。まぁそうだよね。
「待ってくれオスカー、ロビン。エーコさんから話を聞いてただろ。前魔王の魔界門を封印する為にしかたなかったって、それにエリーさんは前魔王を倒す為に協力してくれたんだぞ」
「自軍を裏切るような奴を信用しろと? 馬鹿を言うな」
「そうだよシオン、だいたいそのエーコとかいう人、本当に前の勇者なのかい? 魔族が用意した偽物なんじゃない?」
私の知らない勇者パーティに加わった剣士オスカーと斥候ロビンが不満を口にする。案の定それに反応したエーコの機嫌があからさまに悪くなった。
そんなエーコの様子を気にもせず話を続ける二人。
「そもそもその女が前勇者エーコというなら、現魔王に力を貸すなどあり得んだろう、違うか?」
「そうだよ、魔王を倒さない勇者なんて勇者じゃないだろ。勇者だというんならそこの魔王の首を取りなよ。あっ、でも手柄は私達のものだからね、腰抜けの勇者さん」
二人の意見にサポートパーティのメンバーも声を上げて私を殺せと叫びだした。
正直言っちゃうと私の体力魔力は完全回復していた。多分エーコがやってくれたんだろう。アンジェラちゃんと勇者パーティの四人は敵対しないだろうし、もし残りのメンバーが襲ってきても十分に逃げ切れる自信はある。
……でもエーコは逃げないだろうなぁ、いや逃げるようなことは絶対にしない、確信できる、だってそれがエーコだからだ。
「言いたいことはそれだけか? クズ共」
おおっ、エーコが怒っている。迫力で空気がビリビリと震えているのがわかる。
「うっ、ク、クズとはなんだ、クズとは」
「お、脅しても無駄だぞ、私達だって魔王を倒すだけの力があるんだからな!」
エーコの迫力に後ずさりしながら抗議を口にする二人。他のサポートパーティのメンバー達も額に汗を浮かべながら拳を握りしめ、僅かに震えていた。
「魔王エリー・エメロードが手加減していたこともわからん馬鹿共が、何を言っている?」
はい? 私は全く手加減なんてしてませんけどエーコさん?
「何だと、そんな馬鹿な、そんなはずはなかろう!」
「そうだそうだ、いい加減なこと言うなよ、負け惜しみかよ!」
いえいえ、負けた本人の私が負け惜しみなんて言ってないのに、おかしいでしょ?
「全くおめでたい奴らだ。お前達は私の世界には要らないよ、シオンこいつ等殺しちゃってもいいか?」
「え、エーコさん?」
当然とんでもない事を言い出したエーコに、思考が追いついていないだろうシオンが碌な返事もできずに呆けていた。
「お、俺達を殺すだと、ふざけるな!」
「お前なんて魔族に肩入れした裏切者じゃないか、死ぬのはお前だよ!」
剣士オスカーと斥候ロビンはエーコのあまりな台詞に激怒して、声を荒くして叫ぶように言葉を発した。
あ~あ、もう収集がつかなくなってきたよ。エーコは歯向かってきた来た奴ら皆殺しにするつもりなのかな? いや、エーコだったらやってもおかしくないんだよ、本当にさ。
「フン、ならば貴様らが本当に魔王を倒せる実力があるかどうか試してやる」
「はぁ? 試すだ……うごぉあああっ!」
エーコから放たれる殺気が一気に膨れ上がる。
よりによって歯向かう気のないシオン達にもだ。ちょっ、ちょっと何でよ、私も範囲に入っているんですけど? うがぁ、つ、辛い!
ええー、この威圧は尋常ではない、何の訓練も受けていない一般人なら軽く死ねるレベルだ。
手も触れず魔力も使わず人を殺せるって、もうさぁエーコが魔王でいいんじゃないかな?
魔王の間にはうずくまりもがき苦しむ者ばかりだ。中には気を失った者もいる。
「どうした? 私はまだ手も出していないぞ」
「う、うわあああああっ!」
「ひぃいいいいい!」
誰も返事どころか、まともに喋ることさえできないようだ、全くもって反則級の威圧である。
「意識があるのなら見ろ。お前達が倒せると豪語したエリー・エメロードは私の威圧の中でも平然と立っているぞ」
平然としとらんわ! 超辛いんですけど? 辛じて立っているのが精一杯だよ!
「知っての通り威圧は範囲と方向はある程度調整できる。だがエリー・エメロードはお前達の中心にいるために誰より強い威圧を受けるしかない。それにもかかわらず彼女は私の威圧に耐え膝を屈しない。それに比べてお前達はどうだ? 立つどころか言葉も発せられないではないか」
エーコは剣に手をかけ一歩踏み出す。
ヤバいよ、本当に殺す気じゃん!
「エーコ、もういいんじゃない? 私も辛いんだけど」
「……お前も図太くなったな」
「もっと言いようがあるでしょ、失礼な!」
全くもって失礼極まりない。確かに繊細ではないけど図太いはないでしょ、図太いは!
エーコが威圧を解除したおかげで場の空気が元に戻った。
「はぁはぁはぁ」
「うっおっええええ」
阿鼻叫喚の地獄絵図……まではいかないが中々の惨状が目の前に広がっていた。
威圧が収まった今でさえ、まだガタガタ震えている者、青い顔で吐いたり中にはお漏らししている者さえいる。早々と気を失った者は幸運だったと言えるのかもしれない。
「大丈夫アンジェラちゃん?」
「ふええええ、エリーさん、私もうお嫁にいけない……」
……漏らしたか。
まぁ仕方ないよね。
「エーコさん、なんで俺達まで……」
「いや~、だってほら、お前達もエメロードがどのくらいの強さか体感でわかってもらおうと思ってな。まさか魔王を討伐に来た勇者パーティがこのくらいでビビったわけじゃないだろ?」
「は、はははっ、当然じゃないですか、な、なぁ皆?」
「も、勿論余裕でしたとも……」
「よ、余裕ですわ……」
「で、でもさぁいきなりは止めてほしいかな。いや、全然平気だよ……た、ただ心の準備とかさ……」
あからさまに強がっている四人。だけどエーコに大口を叩いていた二人とそれに賛同していたサポートパーティ達と比べると、軽口を叩けるだけまだましだろう。
「さて、どう殺されたいんだ? お前らの言う腰抜け勇者の威圧にも耐えられなかった勇者の腰巾着共」
いい笑顔で剣士オスカーと斥候ロビンに詰め寄るエーコ。
「じょ、冗談だろ。お前勇者だよな、俺達は守るべき人族なんだぞ」
「そ、そうだよ、同族じゃないか、仲間だろ?」
彼等の言葉をフンっと鼻で笑いゆっくりと鞘から剣を抜いた。
「辞世の句としては陳腐だな」
エーコは剣を振りかぶり再度威圧を発動させた。おいおいさっきより殺気が強いじゃん。いやダジャレじゃなよ。しかし先程の威圧でも手加減してたのか。
「もういいんじゃないの?」
「あ~、口の割にはだらしのない奴らだ、興が冷めたな」
エーコに楯突いた二人とサポートパーティのメンバーだけでなく勇者達四人とアンジェラちゃんまで気を失っていた。
私が言うのも何だけど、エーコって化け物だよね。
「……おい、エメロード、お前今失礼なこと考えていなかったか?」
「エーコの私に対する態度よりは失礼な事ではないわよ」
「なら、いいか」
いいんかい! っと言うか失礼な事をしている自覚あったんだ!
「で、どうすんのこれ?」
「そうだな……くっくっくっそうか、それがいいか」
口の端をつり上げニタリと笑うエーコ、もう完全な悪役顔だ。とても勇者には見えない笑みである。
やれやれ、エーコは何か良からぬことを思いついたようだね。
「ちょっとこいつらの記憶を弄らせてもらうか、魔王を倒しがってたしなぁ~ふはははっ」
……エーコはシオン達が来るまでの間、つまり私を魔王として鍛えている三年の間に色々な魔法やスキルを習得していた。前魔王と戦った時に必要だった能力が足りてないことを自覚し、魔王討伐前に習得していなかったことを後悔していたらしい。
エーコはただでさえ化け物じみていたのに、更に化け物具合に磨きがかかっていたのだった。
「はぁ、碌でもないことを考えているみたいね。エーコは勇者なのに勇者から段々とかけ離れていくわよね」
「そんなに褒めるなよ」
「褒めとらんわ!」
エーコは子供が悪戯を仕込むように楽しそうだ。エーコを見てると思う、勇者って何なんだろう? エーコを基準にしちゃいけないか……。
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私は魔王を討伐に来た勇者率いる者達と戦いを続けていた。
体力魔力は危険な域にまで追い込まれていたが、それは勇者達も同じだ。いや私よりも彼らの方がより危ない状況に陥っていると思う。
お互い頼みの綱のポーション類は底をついていた。残り少ない魔力を使い、相手の体力を削り切った方が勝者となる単純な構図だった。
私は先程から勇者のサポートパーティの中に的確な指示を出している者が居ることに気付いていた。勝利を確実にするにはそいつを先に倒す必要がある。
度重なる攻防でお互い疲弊し傷付きあっていたが、先に綻びを見せたのは彼等の方だった。戦列を維持する為の魔力があちらの方が先に切れたのだ。
私はチャンスとばかりに範囲攻撃を乱発させ、二つのサポートパーティは戦列を崩壊させた。
混乱の中、目標としていた邪魔な指示を出している者に近付き止めを刺す。
他のサポートパーティのメンバー達も止めを刺したいが、残った勇者パーティがそれを許す時間を与えてはくれないだろう。
少なくても残ったサポートパーティの奴らは暫く動くことさえできない状況なので不安はあるが彼らに構わずに、私は勇者パーティと対面することにした。
流石に勇者パーティはまだ少しは余力が残っているようだが、そうだとしても私とそう変わらないくらいだとは思う。
私の攻撃を盾役である聖騎士が大盾で受け止める。
先程まではサポートパーティからの回復や支援がありダメージを与えても聖騎士の防御を抜くことはできなかったし、陽動や攻撃補助等で私は攻撃を乱され、盾役の聖騎士に攻撃を集中させることが困難だった。
だが今回は邪魔するものもおらず、回復も追いつかなかったために、僅か三回目の攻撃で聖騎士は盾ごと身体を貫かれた。
盾役の聖騎士がやられ代わりに同じく盾を持つ勇者が盾役としてパーティを守るが、勇者専用の防御力が高い鎧や盾のおかげで身体を貫かれることは無かった。
だがその代わりに私の攻撃で壁まで吹っ飛ばされる。
その隙に残った魔力で攻撃や回復をしようとしていた聖女と賢者に止めを刺す。盾役がいない今この二人を守るものはいないので案外容易だった。
勇者パーティの剣士と斥候は私の死角から攻撃を試みていたが、残念ながら彼等の技量では私を捉えることはできない。この二人は勇者パーティの中でもそんなにレベルは高くはない。それでもサポートパーティの者よりは多少は強いみたいだが。
壁にたたきつけられた勇者が剣を構え直し猛烈な勢いで私に猛攻を掛ける。彼の最後の力をふり絞ったこの攻撃は流石に避けきれない。
結果、お互いの身体を貫き合い抱き合うような形で決着がついた。
だが……残念だったね勇者、彼の攻撃は僅かに急所を外れていた。勇者はその場でゆっくりと崩れ落る。
そこで色褪せた空間に色が鮮やかに戻り、くぐもった音がはっきりとした音を奏でる世界に変わる。
「ば、馬鹿なシオンが、勇者が倒されただと?」
「おいおい、キースもアリスもクリスも何やってんだよ、あっさりやられやがって!」
勇者パーティの残った剣士オスカーと斥候ロビンが驚いた顔でこちらを見つめている。
私はふらつきながらも彼等に向き直り、手を翳すとそれに反応するように魔王の間の出入り口である扉が開け放たれた。
「実に勇敢で敬意の持てる勇者でした。私をここまで追い詰めた偉大な勇者に免じて、この場から去ることを許しましょう……加護を持つ勇者だけなら聖王国の教皇か、もしくは癒しの湖の精霊なら蘇生できるかもしれませんよ?」
私がそう言うと二人は顔を見合わせ頷くと、指示を出していた一人を除き誰も死んではいないサポートパーティのメンバーに声をかけた。
「見ろ! 魔王は勇者のおかげでもう立っているのもやっとな瀕死の状態だ!」
「私達で魔王を倒せば名誉と報酬は約束されたも当然だよ!」
オスカーとロビンが剣を掲げ叫ぶと、「おおおおおっ!」っとサポートパーティのメンバー達も次々と剣を掲げ二人に同調した。
彼らは撤退ではなく私との交戦を選んだ、勝てると信じて。
逃げ道を用意し、勇者を復活させるという理由も与えたのに彼らは私との戦いを選んだのだ。ならば私も覚悟を決めることにする。
別に人間を殺すことには抵抗はない。第一私を殺そうとしてる奴らだ。遠慮をする必要がどこにある? そもそも前魔王を倒すときに同族である魔族を大量に殺しているのだ。他族を殺すのに躊躇いなどはあるわけがない。
魔力が底をついていた彼等は武器を手に私に襲い掛かってくる。五人リタイヤしてもまだ一対十三だ、勝てると思っているらしい。
私は足をしっかり床に付け、歯を食いしばる。
流石に後、数回攻撃するのが限度だが何とかなるか? いや何とかしないとね。
最早、隊列も連携も無くただ襲い掛かってくる奴らに広範囲攻撃を打ち込むと、もう殆ど体力が残ってなかったのだろう、なんと半数が倒れ、残りの半数も膝をついた。当然手加減する必要もないのでもう一度範囲攻撃を放つと、剣士オスカーと斥候ロビン以外は動く者が居なくなった。
私の放った広範囲攻撃は魔法ではなくスキルだ。攻撃魔法ほどは威力はないが連射が利く、代わりに私の体力を僅かに削るが死ぬほどではない。魔力が殆ど残ってない私ができる数少ない攻撃手段だ。これで多数が倒れてくれなきゃこっちが終わってただろう。
「……は? な、何でだ?」
「お、おかしいだろ、死にぞこないのくせに……」
意味が分からないという顔で私を見つめる二人。
「……当然でしょう? 弱すぎるのよ貴方達」
二人が何か言い返そうとしてみたいだけど、私も辛いからもう終わりにするね。
私が剣を一振りして二人纏めて身体を切り裂いた。予想以上にあっけなく決着はついてしまったのだった。
エーコ曰く、決着はお前がつけろだそうだ。
一体どんな魔法だかスキルだかわからないが、私がアンジェラちゃんに気付き攻撃を止めた所までは忠実に再現させられていた。ただでさえチートだったエーコは、勇者がここに来るまでのこの三年の間に更にチートになっていたのだった。もう限度があるでしょう? と言いたい気分だ。
もうエーコに対してはツッコミ所が満載であるが、突っ込んだら負けのような気がするので、私は合えて触れないことにする。
しかもこの再現だが、ありがたくないことに折角回復した体力魔力をアンジェラちゃんと対面した時の疲弊した状態に戻されていた。
それから勿論であるがその後のアンジェラちゃんや勇者達四人は偽物だ。
ただし用意された偽物は私と同じく疲弊した状態でご丁寧に戦闘力も全く同じに設定してくれたらしい。
エーコは「なるべくリアルを追及してみました」とドヤ顔でウィンクをしながらサムズアップを決めていたが、全くもって迷惑な話である。
正直あれが幻覚を見せられたのか、生身の疑似体験なのかはわからないが、私が勇者を倒すまでは術中だったようで、その後は現実に戻っていた。
ちなみに剣士オスカーと斥候ロビン達が大人しく撤退を決めてくれたら記憶をこちらの都合のいいように弄りはするが、魔王城からは生きて出してやるつもりだった。
「そうだな、記憶の改ざんはお前が攻撃を止めた時からやり直すとして……台本は勇者達四人以外は気を失っている間に魔王が倒されたくらいが妥当か」
などと、エーコは話していたが、その設定は採用されることなく無駄になった。彼等の選んだ選択によって。
全く盛り上がることなく戦いは幕を下ろした。苦情は私に言わないでよ、そもそも私はエーコの口車に乗せられて勇者達と戦ったけど、本当は痛い思いをする戦いなんかしたくなかったんだからね。
まぁアンジェラちゃんやシオン達と誤解なく和解できたのは感謝してるけどさ。




