エピローグ
「なあ、イゴール。上手く、行くかな?」
モロの洞穴の入り口で私とイゴールは並んで座っていた。
7つの星座が輝いている。この200年、一度も直視出来なかった星達は、ようやく闇を潜り抜けた私には余りにも眩しい。
昼間、私達は勇者パーティと合流し、イゴールの手には聖剣がある。星と同じく200年ぶりに見る剣。それは依然として新品の様に自分に向けられる全ての光を弾き返している。
「俺さ、昔は勇者に憧れてたんだ」
「どうして?」
「だってよ、聖剣ってカッコいいだろ?」
イゴールは子供の様に屈託なく笑った。
「でも、今こうして聖剣を持ってみると、やたらとギラギラしてて趣味悪いな。どうしてこんなもんに憧れてたんだろ」
「それは……全てを知ったからそう見えるんじゃないか?」
「かもな」
私もイゴールに応じて笑った。こんな素直に笑えるのはいつ以来だろう。
「なあ、イゴール? 人殺しの末路は知っているか」
「ああ、知ってるよ。誰にも弔ってもらえずにただ腐って消え去る。転生する事もなく、誰からも忘れられていく」
「私は、怖いよ。転生出来ないのは良い。でも、私の存在が無かった事になるのはとても怖い」
私は自分の膝を強く抱きしめた。星は無慈悲に輝いていて、今の私にはそれが果てしなく遠かった。
「そうだな。でも、例え行く先が何も無い虚無だとしても今のお前には俺がいる」
「イゴール……?」
「丁度、俺も人殺しの屑に成り下がったところだ……なあ、アミリア取引しないか?」
「取引?」
私は小さく口を動かし、復唱した。
「ああ、俺の命を1個やる。だからお前の命、俺にくれ」
私は開いた口が塞がらなかった。
「まさか、イゴール。お前その為に隠者達を……?」
「お前は200年も苦しみながら戦ったんだ。俺で良ければ側にいてやるよ」
「……馬鹿か?」
イゴールは心外そうに私を見た。私は心の底から目の前の男に呆れたはずなのに、不思議と口角が持ち上がる。
「それで、答えは?」
「……イゴール、ありがとう。魔王を倒したところで雪ぎきれない程、恥ばかりの人生だったが。……その終わりにお前と旅が出来てよかったよ」
私は再び星空を見上げる。
ああ、綺麗だな。
ガレス、ミーニャ、レギン。
私は、もう何も怖く無いよ。この溢れてやまない温かい気持ちが、きっと、彼らの持っていた勇気だったんだ。
「なあ、アミリア。お前どの街が気に入った?」
「なんだ、突然?」
「別に? ただ話す事もないし」
イゴールは照れ臭そうに頬を掻いた。
「そうだな。なんだかんだ、アンダーヒルが良かった」
「へえ、文句ばっか言ってたのにな」
「下品だったのは事実だ。大体、お前は——、」
「はは、そう言うアミリアも——、」
私達は取り留めない話に花を咲かせた。
魔王と言う死が、私達を分つまで。
もう、何も怖くない。きっと全部上手くいく。
不意に木々がざわついた。
月の位置がズレて私達の周りは再び闇に閉ざされたのだった。
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