表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
エピローグ
PR
71/73

再会3


 特異点から過去の船が解放された事で、健二やアキラにはもう一つ解決しなければならない問題があった。


 それは、サーシャの親について。聞き取り調査の中で、つい最近失踪した探査船の中に、生まれたばかりの嬰児をイチかバチか脱出させたロシア系の夫婦がいた事は分かっている。名前はユーリー・ミハイロフ、ソフィア・ミハイロワ。まだ遺伝子検査など出来ていないが、まず間違い無くサーシャの両親だろう。彼らは子供を脱出させた事を後悔していたが、その子がまだ生存している事は伝えられていなかった。


 この事はサーシャにも伝えてはある。しかし彼女の反応はあまり積極的ではなかった。「会いたく無いのか?」と聞いても、はっきりした答えが返ってこない。


 無理もない、とは健二も思う。遺伝子の繋がりがあるとは言っても、30年間一度も会った事の無い人間だ。親とは思えないだろう。そもそもサーシャに親という概念は薄そうだ。だが、だからと言って割り切れるものでもないのだろう。


 とは言え、どう振る舞うにしても期限がある。サーシャの親がロイデで凍ったのはたかだか30年前。彼らには地球に帰る家があった。現代人なので調査も簡単で、もうすぐ探査船と共に帰還する事になっていた。


「師匠」


 ある日。自室にいた健二のところにサーシャが訪ねて相談してきた。


「色々考えたのですが、やはり私は親には会わないでおこうと思いますにゃ」


 珍しく難しい表情のサーシャ。彼女なりに悩んでいたらしい。


「そうか。それがお前の判断なら何も言わないよ」


「ただ、それを申し訳ないと思う気持ちもあるのです。そこで考えましたにゃ」


 サーシャが何かを提案する時は、大抵ろくでもない事だ。少し警戒する健二。


「〈静かな波〉に拾われた時からの私のデータは全て保存されていますにゃ。それを使って嬰児の私を生成し、それを親にお渡しする、というのを考えているのですが、どう思いますかにゃ?」


 いやー、斜め後方から爆撃が来たなあ。まだまだ彼女が人間になる道のりは遠そうだ、と思う健二。


「……あのねサーシャさん。そりゃあ赤ん坊のサーシャと寸分違わないだろうけど、ご両親にとっては偽物だよ? バレないかもしれないけど、あんまり賛成できないなあ」


「お絹の事もありますし、それが一番かと思ったのですが。人間関係というのは難しいですにゃ」


 本人は至って真面目だ。本気で悩み、真剣に解決策を出そうとしているのだけは伝わってくる。


「そこまで考えてるのなら、やっぱり会うだけは会って本当の事を話したほうが良いと思うけどなあ。その結果別れる、という事になっても互いに納得はできるだろうさ」


 サーシャの目つきがお絹に入れ替わり、地球標準語に切り替わる。


「私は今まで黙っていましたが、やはり言わせていただきましょう。サーシャさんはご両親にお会いになるべきと私も思います。私の件もありますし、リィン殿の件もありますから、今更ご両親と共に暮らすのは難しいでしょう。でも」


 ひとつ息を溜める。


「今のサーシャさんは、まだ人としての判断ができていません。今後人間を学んで行く中で、ご両親との関係を絶ってしまった事を後悔する時が必ず来ます。私のように、親に二度と会えなくなってからでは遅いのです。後で悔やんで欲しくありません」


 目をつぶるお絹。サーシャが表に出る。


「うーん。お絹がそこまで言うなら、分かったにゃ。会ってみるにゃ。一緒について行く事は絶対に無理だけど、挨拶くらいは」


「絶対に無理って事は無いと思うけど、うん、会うのが良いと思うぞ」


「私は、健二師匠とチビ師匠について行かなければいけませんからね。地球で両親と暮らす事なんて出来ませんにゃ」


 なんでそうなるのか。「いや別に付いてこなくてもいいんだが」 健二は、サーシャもお絹さんも大好きだが、しかし恋愛対象としては見た目がアレ過ぎた。健二は肉体も精神もアラサーなのである。見た目小学生・中味も割と小学生、は無理なのである。当面オトモダチを保ちたい所存であった。


「は! そうか、両親とともにいるための解決方法がありましたにゃ!」


 サーシャが膝を叩いて切り出した。


「聞きたくない」


「師匠がミハイロフ家に婿入りして地球に行けば良いのですにゃ! チビ師匠も〈静かな波〉もお絹も皆で一緒に暮らす! 全て解決しますにゃ!」


「婿入りしません」


「たったひとつの冴えたやりかた」


「冴えてません」


---


 その後。アキラ団長の仲介で、サーシャの両親であるミハイロフ夫妻と話し合う機会が持たれた。勿論健二は参加していないので、詳しい経緯は分からない。

 紆余曲折はあったようだが、最終的には親子とは認めるものの別離、という事で話はついたようだ。夫妻にとっても、いきなり赤ん坊が30才になって戻って来たというのは認めるのが困難だったという事なのだろう。とっくに独り立ちしている年齢な訳で、子供として家に入る訳にもいかない。定期的に連絡する、という所で落ち着いたそうだ。

 夫妻の絶望感・喪失感は如何ばかりかと思うが、少なくとも百合子のせいではある訳で、なんだか申し訳ない気分になる健二だった。


---


 健二とチビがシラユキに割り当てられた船室に戻ると、ベッドの上に正座して三つ指ついて頭を下げているメイド服がいた。


「おかえりなさいませ」


 何してんだこいつ、まさかお絹さん側じゃないだろうな? いや彼女はこんな事しないよな? と思う健二。


「勝手に人の部屋入って、いったい何事よ?」


「サーシャ・アルファことわたくし、この度晴れて両親から離れ自由の身となりました」


 頭を下げたまま言うサーシャ。


「お前、最初からフリーダムじゃん」


「つきましては、お絹共々改めて師匠と添い遂げさせていただく事を誓い、ここにご挨拶をば」


 何を勝手に一方的な事言ってるんだろう、この偽メイドは。


「そんなの了承した覚えはありません! だいたいお絹さんもいるでしょうに、そんな勝手は出来ないでしょ。ちょっとお絹さん出してよ」


 サーシャが長めに瞬きし、眼光が変化する。


「お絹です。私としても言い入れや結納、祝言というものはもっと厳かであるべきとは思っていますが、しかしそれがこの時代の習わしであれば従うのも止むなしかと。心情としても反対する理由がありません」


 ……毒されてる。お絹さんがサーシャに汚染されてる。あの凜とした庄屋のお嬢様は何処に行った。


「お絹さんまで何言ってんのさ! とにかくダメ! 小学生はNG!」


 目がサーシャに変わる。


「ああ、そんな事ですか。それならとっくに遺伝子のロックは外していますから、これから成長しますにゃ。もう宇宙空間での作業効率とか不要ですからね。沢山食べて大きく育つ予定ですにゃ」


 チビも参入してきた。


「諦めろにゃ。塔に入った2043年の時点でお前28才だったろ? 途中の時間ぐちゃぐちゃだったから、もう正確には分からんけど、およそ今は30才くらいのはずにゃ。身を固めるのは別に早くないにゃ」


「う」


「だいたいお前の立場は超特殊にゃ。今や人類にとって、リィンは別格としても俺様、サーシャ、に次ぐ重要人物にゃ。地球で普通に連れ合い見つけられると思ってる? 絶対に何らかの紐付き女になるにゃ。そんな生活したいのかにゃ?」


「う”」


「決定ですね! 今後とも宜しくですにゃ師匠!」「末永く宜しくお願いいたします、健二さん」


「……」


 なんだか色々な過程がすっ飛ばされていて不満な健二である。でもサーシャやチビの言う事ももっともだし、そもそも自分もサーシャとお絹をずっと好きだったのは間違い無いのだ。ちびっ子な身体を理由にして今まで逃げて来たが、そんなの言い訳である事も薄々気づいていた。百合子から解放されて、今更にモラトリアムが欲しかったのかもしれない。


「……はい、よろしくお願いします……」 と小声で健二。


「うーん、声が小さいですにゃ! でもすぐ慣れますって。とりあえずここで祝宴にしましょう!」


「ここで?」 と聞くとチビが


「え、食堂とか会議室とかでやりたいかにゃ? 見世物になるにゃ。アキラとかすっ飛んでくるよ?」


 確かに。おおごといくない。


「では、まずは草加煎餅大盛りで!」 とサーシャが注文する。

「煮干特盛りにゃ!」 チビ。

「では私と健二さんは、和食のコースといたしましょう」


 既に自分に選択権は無いらしい。

 狭い部屋なんだけどなー、テーブルに置けるかなー、と思う健二だが。


「はいはい。じゃあそれで。でもまずは飲み物だろ」


 と答えるしかない健二だった。自分抜きで盛り上がる室内。でもまあ悪い気はしていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ