再生
全ての戦闘?が終了した。ごく普通の恒星系に戻ったロイデ系。当たり前に恒星は燃え、当たり前に惑星が周回する。
宇宙空間に漂っていたチビと健二は、ユグドラシルまで〈静かな波〉に遷移で運んでもらった。サーシャが居住区として使っていた洞に出現し座り込む。
船内は静かだった。ただでさえ木製のでこぼこした部屋で音が吸収されがちなのに、あの騒がしい奴がいないとほぼ無音だった。
健二はインベントリからお絹の銀の簪を取り出した。精緻な模様の細いスティックが、健二の手元で鈍く光る。
「なあ、〈静かな波〉。ここにサーシャが入ってるって?」
『肯定。君たちが欠片と呼んでいたデータから、百合子の構成部分を削除したものがまとめて詰められている』
「つまり、サーシャだけじゃない? お絹さんも百瀬さんもみんな?」
『肯定。ただ比率的にはユニット・サーシャが大半を占める。再生した場合はほぼユニット・サーシャになるだろうと予想される。あとは矢内絹が意識を持つか持たないか境界線の量で、その他の人格は記録として残っている程度になるだろう。顕現はしないと思われる』
なるほどね、と理解する健二とチビ。
「じゃあさ、サーシャの人格だけを分離できる?」
『否定。現状データは不可分。乱雑にまとめられており、分離再構成は破損の危険があると思われる』
百合子が雑な仕事をしたって事か。あいつらしい。
「仕方ないなあ。じゃそのまま肉体の再生をお願いできるかな?」
『了承』
健二は、一つだけ要望を追加する。
「できれば、突入の時のナノマシン・サーシャじゃなくて、最初のちょい強化サーシャが良いと思うんだ」
『賛意。状況的に仕方なかったが、最終形態には各種の問題が散見された。人類からの乖離が大きすぎ、いずれ精神に障害が発生すると危惧していた。元のスペックに戻す事には賛成する』
「そうだにゃあ。なんか調子に乗って色々盛っちゃったけど、今にしてみればやり過ぎだったわ。にゃはは」 とチビ。
「にゃはは、じゃねえよ」
『簪を借り受ける』
宙にパネルが現れ、形式的な人体表示が描画された。健二の手から簪が消える。
『再生工程を開始。完了予想時間120時間22分』
え、ずいぶん早いな? 前は2ヶ月とか掛かってたよな?
『今までの試作品でノウハウが蓄積されている。既に作成したものでもあり効率化が可能』
「試作品って俺たちの事だよね……」
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「あとさ、もう一つ頼みがあるんだ」
〈静かな波〉に話しかける健二。
「俺のこの体って、本当は乗組員のカズト・N・クラークのものだろ? 俺を分離して、体を返したいんだよ。出来るかな?」
返答がない。ただリィンが何か忙しく動いてる事は伝わってくる。部屋が微振動している。
『演算完了。分離は可能』
「それは良かった」
『ただ問題がある。カズト・N・クラークの再構成は問題無い。記憶的にはユニット・健二出現時にリセットされるが』
それは仕方ないね、と健二。
『しかしユニット・健二の遺伝子情報が無いので受け皿が作れない』
「あー」
そりゃあそうだ。カズトはただのアバターでペルソナだ。物理的には健二は存在していない。
「そこはだいじょぶよ?」 とチビが口を挟んだ。
「どういう事? 階段ってもう無いんでしょ? それとも第一層まで降りられるん?」
「それはもう無理。だけど階段登る時にどうやって次のアバターに乗り移らせてると思うの」
『理解。その層の肉体を分解して次層に注入しているのか』
「そんな感じ。正確には分解じゃないけども」
またまた怖い事言ってるよ、この人たち。
「なんか俺、分解されすぎじゃね?」
誰も聞いてくれない。チビが続ける。
「はいこれ第一層の身体データ。ぴっちぴちの自衛官」
『受領した。オプションは如何に?』
「いいよ、元の、素のヒト種のままで」 即座に答える健二。
『否定。そうはいかない。ユニット・サーシャの相手をするのに純粋な人体では困難が予想される』
珍しく強めの口調で主張する〈静かな波〉。何? 実は親バカなのリィンって?
『しかし人類が自分の肉体に執着する心理はデータとして理解できる。最低限のオプションをこちらで選択しておく』
「なんでお前ら、そろって人の話聞かないかなあ」




