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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
第八章 特異点
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作戦会議


 百合子救出の方針は決まった、というか一つしかなくなっていた。

 その次の日。大会議室に主要メンバーが集まって作戦会議が開かれた。


 会議卓の片側に交渉団主要メンバーが、もう片側にはメイド服のサーシャと健二。テーブル上には、四隅に金色の房が付いた豪華な京座布団が置かれてチビが座っている。「招き猫かい」と密かに思う健二。


 アキラ交渉団長が会議の口火を切った。


「カズト・クラーク君、今はもう健二君と呼ぶべきだろうか。とチビさん。情報の共有に感謝する」


「チビ、でいいにゃ」


 健二は横のチビを見る。尊大な猫様が珍しい。てっきり「チビ様と呼べ」とか言うと思った。アキラ団長は、


「いやあ、さすがに君を猫扱いは出来ないよ。呼び捨ては勘弁してくれ」 と苦笑している。


「猫を猫扱いできないとは、これ如何に」 とチビ。


「団長いじめるのやめてあげて」 と健二。


「いぢめるなら是非私めを」 とサーシャ。


 何故かコントになってしまう三人の会話。交渉団の面々もそろそろ慣れたもんで、「またやってるよ」くらいの感想しか無さそうだ。


 アキラが流れを無視して続ける。


「事前に貰った資料は検討させてもらった。元々のロイデ問題は、健二君とチビさんの個人的なものだ。本来なら我々には全く関係がない」


 そう、あくまでこれは健二の個人的な動機によるものだ。オリジナルとコピー合わせて一万人以上いた健二を個人と呼べるかはともかく。


「だが、リィンの資料でロイデ星系に多数の人類の船が捕らわれている事が判明している。つまり本件は既に人類全体の問題となっている訳だ。その者たちが死んではおらず時間が停止してるだけで救出できる可能性がある、となると尚更だ」


 アキラ団長は主にチビを見て続けた。


「我々の技術は、君たちやリィンに比べれば石器時代みたいなものかもしれない。だが何かしら協力できる事はあると思う。全面的に協力を惜しまないという事で地球とも合意している。何なりと申し出てほしい」


 チビがそれに答える。


「ロイデの解放自体で手伝って貰える事は団長さんの言う通り何も無いにゃ。ただ、百合子の解放がうまくいけば多くの囚われの船も同時に解放されるはずにゃ。そいつらは俺様たちには手に負えない。救助自体は任せる事になるにゃ」


 そうなのだ。あかつき船団だけでも一隻あたり500人の人間が乗っている。それが20隻。他の遭難船も合わせれば膨大な人数だ。


「それについては、当面の収容に向けて地球や近隣の居住地で人員輸送船が建造されている。順次こちらに送られる予定だ。人数分揃うにはあと三ヶ月ほどかかるが」


 移民船はコールドスリープの船である。ロイデに到着したという事は、目覚める寸前だったという事だ。もし起床してしまっていたら、何らかの収容先が必要だった。船の中で500人が生活できる訳ではない。本来の目的地であるロイデ星系第二惑星にそのまま降りられるなら簡単なのだが、百合子の暴走が第二惑星の環境にどう作用しているか分からないので、降下にはしばらくは調査が必要だろう。


「うん、それで十分にゃ。これでこっちは百合子救出に専念できる。感謝するにゃ」


 えっ、と目を剥く健二とサーシャ。この俺様猫が感謝だと!?


「健二もサーシャも、本当に失礼だよな。俺様はね、お前らと違って大人なの。公私は分けてるにゃ」


 いや、チビの公の姿なんて見たの初めてだし、と思う健二。しかしチビは無視して続ける。


「それ以外に直接ドビュッシーに手伝って貰える事は無いかもしれないけど、資料にも概略は書いたけど救出の手順とスケジュールは改めて伝えておくにゃ。まず、サーシャの木で突入艇が建造中、というか育成中にゃ。完成はもうすぐで、それ以外にいくつか準備があるけど、それに加えてドビュッシー側の救助準備が整い次第ロイデに突っ込むにゃ」


 中空にモニターが展開し、突入艇とやらの立体像が表示された。小型ジェット旅客機ほどのサイズの木の枝。翼は無いけど葉っぱはある。ああ、木だから育成中なのか。


「当該宙域は、時空間の変動が激しい事が予想されるので、内部には耐衝撃フィールドを充填、さらに周りを俺様の耐時間フィールドで囲むにゃ。これでギリギリだけどサーシャの対G性能で行けるはずにゃ」


 そして4座。4座?


「何故に4座?」 と健二。


「そりゃあ、お前だろ、サーシャだろ、俺様だろ。あと可能性は低いけど、もしオリジナルの体が再生できてた場合に備えてプラス2。俺様はシート要らないし」


 健二は初耳だった。恐る恐るチビに聞く。


「一つ質問が」


「なんだい健二君」 キリっとした口調でチビ。


「欠片を百合子に注入するために、俺とサーシャが突入する、のは理解してるけど」


「けど?」


「サーシャでギリギリ耐えられるくらいの所に俺も行くの? 即死しない?」


 チビとサーシャが互いの顔を見合わせて、ニヤっと笑みを浮かべる。


「あ、なんだその悪そうな笑顔。お前らまさか」


「何事も経験にゃ」 とチビ。


「先っちょだけ、先っちょだけ」 とサーシャ。


「うがー!! 黙ってるとは卑怯者どもめ! 俺は溶かされるの嫌だー!!」


 チビ、呆れたようにため息をついて言う。


「仕方ないじゃん、他に方法無いのよ。諦めて溶かされろ」


 ううー。怖すぎる。気が遠くなる健二。


「あ、俺様は特別製の、象が踏んでも壊れない体なのでそのまま行くけどね」 とチビ。


「一人だけ汚ったねーぞ」


 チビ、哀れむような表情をしようとしているが、口の端の笑いが隠せていない。その歪な表情で言い放つ。


「まあまあ。後でこいつの改造スペック詰めようね、サーシャたん」


「はい、どう料理するか楽しみですにゃ」


「お前ら……覚えてろよ……」


---


「……小芝居は終わったかね?」


 傍観していたアキラが尋ねる。


「なんだか君たちを見ていると、超技術の未来でも人間性は保たれるんだなあ、と少し安心するよ」


 なんだか、あまり褒められてる気がしないのは何故、と思う健二。そもそも俺21世紀の人間だしなあ、団長の感想はちょっと見当違いな気はする。だがサーシャ見ていると正しいような気もする。


 チビが続けた。


「話がそれたにゃ。ここからロイデまではサーシャの住処の木と突入艇で一緒に移動するにゃ。同時にドビュッシーの救出部隊も一緒に運ぶ。これはリィンに依頼したので移動方法の心配は不要にゃ」


 アキラが頷く。


「それは大変ありがたい。我々の部隊は、出発から収容まで、どの程度の期間を見ておけば良いのかね? それによって補給も変わるんだが」


「ここからロイデまで約6,500光年。リィンの技術なら一瞬、は言い過ぎか。せいぜい10秒くらいにゃ」


「じゅうびょう……」 アキラと交渉団一同絶句。


「その後すぐ、木に停泊してる突入艇で発進。なんだけど、ここから先はちょっと正確には予測が付かないにゃ。時間の折りたたみがどの程度か入ってみないと分からないからにゃ」


 ヴゥン、と改良を重ねた共鳴コンバーターが唸る。会議机のスクリーンにリィンからの文章が表示された。


『事前にロイデ星系周囲に時間勾配を付与する事が可能。内部の経過時間から見て、戻る時は経過時間を極小にできる』


「凄いな。つまり万事巧く運べば、到着後すぐに救助活動を始められるという事だな」


 アキラが言い、チビも頷く。


「となると、こちらの実行手順の説明にはあんまり意味が無いけど、どうする?」


「いや、一応念のためお聞かせ頂きたい」


「ん。まず内部の百合子は、オリジナル健二による力場で囲まれている。力場自体は単純な時空遮断フィールドにゃ。これには俺様が穴を開けられる」


 ん?


「それ、マズくない? 穴開けたら百合子逃げちゃわない?」


 檻の中の猛獣扱い、すまんな百合子、と心の中で謝る健二。


「そんなマヌケなの、お前だけにゃ。まずこちらを同質なフィールドで囲んで、それを相手に接触させて接触面に穴開ければいいにゃ。俺様、オリジナル健二の創造物だってこと忘れてるだろ。同じ物は作れるの」


「なーるほど?」


「でも、接続した瞬間時間の反復に巻き込まれますよね?」 とサーシャが首を傾けながら問う。


「そこは根性で耐えるにゃ」


「え。ここでまさかの精神論キタ」


「冗談にゃ。そんな訳ないだろ。それに耐えるための突入艇内部のフィールドと周囲の耐時間フィールドにゃ。前に言ったろ?」


 そう言えば。


「ただ、どうしてもランダムな時間の揺れはキャンセルし切れないのでそれが空間の揺らぎとしてかかってくる。その見積もりが10から20Gにゃ。俺様が出て来る時と百合子に大きな変化が無ければ、だけど」


「ギリギリですね、少々不安です」


「そこについては、後で再検討するにゃ。で突入後は健二が集めた欠片と、サーシャの持つ欠片を百合子に打ち込む」


「ほんと不安」


「結果、100%になればめでたしめでたし、百合子嬢ちゃん復活、のはずにゃ。ミッション終了」


「ふむ、理屈は通ってるように思えるね」 とアキラが合いの手を入れる。


「問題は……」 とチビが少し低いトーンで続ける。


「オリジナル健二がどう出てくるか分からない事にゃ」


「「え?」」 健二もサーシャも顔をハテナにする。


「あれ? だって百合子100%のために塔を作ったんだろ? 邪魔する理由無くない?」


「だと良いんだけど。あいつ、俺が塔端末として地球に旅立った時には、既に思考怪しかったからな。主観時間で一万年ほど経過した今、どう狂っている事やら……」


 なんだか、それって気が遠くなるほど悲惨なんじゃないかなあ。一同、しばし沈黙。


---


 一通り打ち合わせが終わった後、テーブルから立ち上がりかけたアキラが思い出したようにサーシャに言った。


「ああ、そうそう細かい事だけどもう一つ、連絡用にサーシャさんの木と突入艇のコールサインを決めておきたいんだが」


「コールサイン?」


 確かに。「木」とか「突入艇」とか一般名詞過ぎて不便だったよな。「あの木って名前あるの?」とサーシャに聞く健二。


「別に無いにゃ。私一人だったから名前なんて考えた事も無かった」


 そりゃそうか。そもそもサーシャでさえ名前を付けたのは人類だし。


「何か希望はあるかい?」


 アキラが聞く。サーシャは「うーん」と腕を組んで少し頭を捻る。


「では木繋がりという事で、『ユグドラシル・ネクロシス・九界を統べる絶望の骸』というのはどうだろうかにゃ」


 一同、目が点。


「これは、ユグドラシルの語源である、愛馬スレイプニルに騎乗したオーディンがラグナロクでフェンリルによって殺された事を、ネクロシスという語感に絡めて北欧神話の九界を……」


 誰もサーシャの言ってる事を理解できない。たかだか一年で何故こんな残念な子になってしまったんだろう。いや年齢的にはアラサーだけど。健二は哀れみの表情でサーシャの演説に割り込んで意見する。


「サーシャさん。自分の家を『骸』とか言っちゃうのってどうなの?」


「ダメでありますか」


「そもそも長すぎるよ。コールサインだっての。通信の呼びかけに使うの。単純明快、はっきりくっきりと」


「うーん」 サーシャ、再び沈黙。


「では、『ゼノ・ユグドラシル・イクリプス・禁忌の終焉樹』というのは……」


「だから、長いって言ってんの。何故おっかない二つ名付けようとするかなー」


「もう『ユグドラシル』で良いんじゃね?」 チビが発言。


「うん、それいいね」


「えー。拙者不満でござる」


 サーシャさん、キャラぶれ酷いです。試行錯誤は分かるんだけど。


 放っておくと収拾付かなさそうと感じたアキラが割り込んだ。「よし、じゃあ木はユグドラシルだね。突入艇は?」


「はいはーい」


 サーシャが挙手。


「『ユグドラシル・ブランチ・世界樹の落涙』というのが良いですにゃ。これはユグドラシルから落ちた神木片が圧倒的な力を秘めたアーティファクトとなり……」


「はーい、んじゃ『ブランチ』ね」 と、発言を遮って健二。


「ぶー」 サーシャ、ぶーたれて沈黙。


「了解、では『ブランチ』で登録しておく」


「誰も意見を聞いてくれない……くっ、世界の理から疎外されたこの身はどこを目指せば良いのか」


 生暖かい目でサーシャを見つめる交渉団一同。彼女の未来が色々心配になる面々であった。アキラもその一人で、健二を見ながら


「健二君、頑張りたまえ」


 などと宣った。チビも「頑張るんにゃ」とか言ってる。


「団長……あんまりです」


 健二の抗議は誰も聞いてはくれなかった。




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