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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
第七章 地球外文明
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訓練


 サーシャが小型化してから1年ほどが経過した。


 ドビュッシーは今だ同じ宙域に留まっている。リィンも滞在したまま。

 違いと言えば、サーシャが元々住んでいた大きな球形の宇宙木がステーションとランデブーした事くらいだろうか。

 とにかくデカイ。直径600mはあるだろうか。これがサーシャただ一人のために育てられたって言うんだからリィンのスケールには恐れ入る。加減を知らない、とも言う。

 そしてサーシャは時々木に戻って、何かゴソゴソやっている。そのたびに腕や目玉が増えたりしてないか、とても不安になる健二だった。


 そんなこんなで人類とリィンお互いの理解は深まり、サーシャのキャラも一層濃くなり、チビも技術移転に協力していた。それがリィンに益があるとは思えないが、彼らなりに初めての経験で楽しいらしい。共鳴コンバーターの改良も進み、サーシャを介さない会話もだいぶ円滑になってきていた。


 健二は、というと所詮は西暦2015年生まれの浦島太郎。知識面では役に立たない。元のカズトとしての知識はあるがあくまで通訳としてのもので、それにしたって共鳴コンバーターの改良と無駄に饒舌になったサーシャのせいで今や通訳チームのエヴァ先輩と共に失業寸前であった。


 代わりに、ドビュッシーの職員用トレーニングルームの一角でサーシャに自衛隊格闘術の稽古を付けていた。いくら基礎スペックが向上したとは言え体の操作能力は幼児並み。万が一またテロリストとかに襲われた時に備えて、運動能力向上と護身術習得は必須だと思われた。


 最初の稽古の日。トレーニングルームで陸自の迷彩服(レプリケーターにデータがあった)を着て待つ健二の前に、サーシャは白と黒のメイド服で現れた。長い黒ワンピースにひらひらした白のエプロン、これも真っ白なヘッドドレス。


「サーシャさん。無駄を承知で一応聞くけど、その服装は? これから格闘術の稽古すると思ってたんだけど」


 サーシャは首を傾けて、理解できない、というキョトンとした表情になる。


「はて。地球では戦闘する女性は、すべからくこの装いをする、とチビ師匠に伺っております。何か問題がありましたか? もしや英国式ではダメで仏国式が正しかったのでしょうか?」


 あの猫は本当にもう。


「……もうそれでいいです」


 何を言っても無駄だと観念した健二。まずは体操とかランニングとか鉄棒とか、幼稚園児並みのメニューから始めた。やらせてみると、とにかくダメダメ。走る時に手足が同期しない、すぐ転ぶ、その場のジャンプだけでコケる、片足立ちができない、と散々。

 しかし、そんな期間は一瞬で過ぎた。あっという間に体の使い方を習得していき、人並みに動けるようになっていた。普通なら年を取ったら運動能力なんて習得不可能だが、彼女は脳の出来が常人のものではない。スポンジが水を吸うように、というのはこういう事なのか、と変な感慨に浸る健二。


 ある程度動けるようになって格闘の訓練を始めて見ると、意外にメイド服とは戦いにくい事も分かった。ヒラヒラ・バサバサ翻る布地のせいで手足の動きを把握しにくい。拳を打ち込む場所や投げるために掴む場所も分かりにくい。本来ならサーシャ自身も動きづらいはずだが、肉体スペックに物を言わせて強引に動いていた。

 ……まあチビがそこまで考えてたとは思えないけども。


 しばらくの期間、そんな感じで訓練を続けた。訓練時には、見物人ができるほどのドビュッシー名物となっていた。そりゃまあメイド服と迷彩服が組み手をしているのだ。色々な意味で見応えはあるだろう。


 しかし、最初の頃こそサーシャの動きはぎこちなかったが、何ヶ月か稽古して、その上達ぶりに健二は舌を巻いた。もともと筋力も持久力も成人男性を凌駕しているし、反応速度も反則級。技の飲み込みも異様に早い。さすがバイオな改造人間。そろそろ徒手技術では勝てなくなってきていた。


 ある日の組み手を終わらせ、健二はサーシャと向き合って互いに礼。そしてお決まりのセリフを口にした。


「サーシャ。もう君に教える事は何もない。自衛隊格闘術・免許皆伝を言い渡す」


「押忍。師匠、拝命いたします。ありがとうございました」


 もう一度、互いに礼。それを横目で見ているチビが感想を述べる。


「いやいや、健二お前、格闘術師範の資格とか持ってないだろ」


「そこはほら、雰囲気で」


「あと徒手格闘しかやってないけど、武器技術は?」


「いやあ、さすがにそれは使う機会ないんじゃないかなー。千年ほど時代遅れだし、銃剣なんてもう無いだろうし」


 サーシャは、目をきらーん!と輝かせる。


「ししょー。そっちも是非」


 と言われても、健二としてはそれは避けたい。なぜなら、銃剣や短剣による格闘なんてそれこそ反射神経とスピードで優劣が決まってしまうからだ。


「無理。サーシャと違って、俺の神経系は人並みなの。勝負にならないよ」


「ふーむ」、と腕を組むサーシャ。


「では師匠、一緒に木に行きましょう。師匠も神経系増速と循環器系の強化を……」


 健二はサーシャの言葉を途中で遮る。


「嫌。俺、体溶かされたくない」


「別に痛くないですよ?」


 こてん、と首を傾けて言うサーシャ。そうかもしれないけど。


「両親から貰った体は大切にしなさい、って死んだばっちゃんに言われてるんだ」


「なるほど。それは残念ですにゃ」


 チビは、


「嘘くせえ」


 などとつぶやいてるが。いや、普通に嫌だろ。


 しかし。この体組織どろどろ技術とチビのナノマシン、合わせたら人間ってほぼ不死の存在になっちゃうよな。いいのかなー。当分人類社会は大混乱に陥る気がする。誰もが争ってドビュッシーに来ようとするだろう。武力で奪い取ろうとする国も出てくるかもしれない。そう考えると、マルクスの主張もあながち間違いじゃなかったのかもなあ、と思う健二であった。



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