協力
会議室を出て、ローダーで通路を走る健二。途中の隔壁も力業で解放していく。変なAIのアシストなどがなく動きやすい。
途中、作業員の一人が銃を発砲してきた。これまた博物館級の火薬式、リボルバーだ。レプリケーターでは危険物は作成できないので銃は手作りのはずだ。オートマチックは複雑なので、作成できなかったのだろう。それを言えばリボルバーだって大した物ではあるが。
不意打ちだったら危なかったかもしれないが、相手は銃に関してシロウトだった。通路の真ん中で片手で構えて銃撃。肘も曲がっていて銃身も斜め。そんなの、そうそう当たらない。
ローダーを左右にスキップさせて前進。リナ先輩の制御ROMは900年経ってもナノマシン製作業機械に見劣りしない。敵がもう一発発砲するも当たらない。そのまま接近して相手が次弾を発射する前に作業腕を腹にたたき込む。敵はあっけなく意識を手放した。重機の力で腹を殴られたのだ、良くて重傷、ヘタすれば死ぬだろう。しかし健二には何の感慨も無かった。毎度毎度死線を超えて来ている彼には今更だったし、そもそもサーシャを害する敵だ。
倒れて口から血を流すテロリストから拳銃を回収する。弾倉にはまだ4発残弾があった。そのまま尻ポケットに差し込み、先を急いだ。
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一方、シェルの中のサーシャ。チビに細かい情報を提供し続けている。
『1.2m先のダクト分岐を右。30cm先に下向きの通風口。そこから部屋に侵入にゃ』
『船員の居室と思われる部屋に降下したにゃ』
『その睡眠用プレートの下』
ベッドの下に爆弾があった。チビはそれをシールドで封印する。
シールドは電波も遮断する。ナノマシンが停止しているなら、起爆は電波経由だろう。それならシールドが遮断しているから爆発しない。
仮に時限式だったとしても、通常の爆薬ならシールドシェルはびくともしないはずだ。核爆薬あたりだと怪しいところだが。
『……サーシャ嬢ちゃん、なんでステーション内をそこまで的確に把握してるのにゃ?』
『? 質問の意味が不明。構造は全て聞こえている、にゃ。対象物の所在は自明ではないかにゃ?』
……全然自明じゃねえよ、リィンってどうなってんだ、チビは頭をかきむしりたくなる。
そんな会話をしながら、チビは再度ダクトに潜り込む。次の目的地はステーションの反対側だ。少し遠い。
チビは走りながら情報を引き出そうとする。
『嬢ちゃん、リィンって発生したのどのくらい昔なのにゃ?』
『回答。意識が発生したのは、あなた方の星が主星を一周回する時間をおよそ130億倍した過去』
130億才。なんてこった、もう宇宙そのものみたいなもんじゃんか。そりゃあ五百万才のオリジナル健二じゃあ敵う訳がない。
くっそ、もっと良く調べとけよオリ健め。おかげで大ピンチだよ。五百万年生きても、所詮健二は健二ってか。
『もっとも、大半は無為に浮いてただけにゃ。人類の言葉だと、ニート?』
おおう、ニートも極めれば超知性、ってか。ダメだ情報が役に立たない。質問を変えよう。
『ロイデ星系に何があるのか、知ってるのか?』
『肯定。会談では敢えて明示していないが、千恒星周期ほど前からユニット・健二と同じ音がする。しかし移動する気配がない』
『なるほど、そこまで判ってるのか』
『〈静かな波〉は、あなたたちについて一つの仮説を立てている』
サーシャの平板な念話が、チビの意識を脊椎に貼り付ける。
『ロイデでは、今後五百万恒星周期ほど未来までユニット・健二の音が鳴り続けるのを確認している。あなた方が現在使用している技術が、現人類と隔たりが大きすぎる点を見るに、ユニット・健二とユニット・チビは、未来から来訪した、もしくは未来のユニット・健二からアバターとして送り込まれたのではないか?』
チビは沈黙する。おおよそ正解に近い。そこに健二が割り込んだ。
『チビ、もう隠す意味無いんじゃないか? 正直に話して協力してもらうしか無いと思うなあ』
『……しかし、今までの失敗例が』
チビの脳裏に、過去失敗して消去するしか無かった別の健二との記憶がフラッシュバックする。俺様だって、好きでやってる訳じゃ……
『でも、リィンに理解して貰えそうなのは今回が初めてなんだろ? 後戻りなんて出来ないじゃんか。なんなら130億才パワーでオリジナルにも勝てると思わないか?』
『いや、勝ち負けじゃあ……』
サーシャが割り込む
『会話中断。そのダクト出口の直下、机の下』
ダクトから飛び出したチビが、事務机の下にある箱から爆弾を発見、シールド処理。
『要請。ユニット・サーシャの目的とあなたがたの目的が合致する可能性が高いと予測している。協力させて欲しい』
『チビ』 健二も呼びかける。
『ああもう! 二人で攻めやがって。分かったにゃ! テロ終結させたら改めて話すにゃ!』
『受諾感謝。次は200m先の廊下、非常用消化器の後方にゃ』
『ったく、ほいにゃ!』
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格納庫に到着した健二。メインの搬入ドアは他より大きい扉ではあるが、実は隣に小さめの人間用扉もある。大荷物を出し入れする訳でも無いのに、でっかい扉を開閉するのは無駄だし時間ももったいないからだ。
特に問題なく扉を押し開く。静まりかえった格納庫内。ステーションの低い動作音も途絶え、照明も落ちて真っ暗だ。
幸いな事に格納庫内には誰もいない。暗い庫内だが視界はチビによってアシストされている。スーパーインポーズされた爆弾マークのあるコンテナはすぐに見つかったが、他の積まれたコンテナの下にあった。各コンテナのサイズは大きく、パワーローダーが力持ちとは言えそこそこ時間がかかりそうだった。
小型の爆弾を処理し終わったチビは、会議室のサーシャの元に戻っている。格納庫の健二から念話。
『これ、チビさまの高級シールドで囲うのじゃダメなん?』
『否定。内在しているのは核反応弾。ユニット・チビのシールドでは強度が不足すると想定される、にゃ』
サーシャが答える。会話をしながらも、健二は爆弾の上に積まれているコンテナを一つずつ除けていく。
『じゃあ、どうする?』
『推奨。船外投棄』 とサーシャ。
サーシャの提案は分かる。だがパワーローダーは宇宙服ではない。どうやって船外に運ぶのか。
『ローダーの、お前の周囲にだけシールドを張ってやる。それでエアロック開けて、爆弾を投げ捨てるにゃ』
『なるほど?』
『ただ、ローダーの手足が動くのを邪魔しないようにシールド張るから、中は相当狭くなるにゃ。酸素すぐ無くなるから作業スピードがお前の命に直結するにゃ』
またそんなのかよ。慣れたとは言え健二は理不尽さに嘆息してしまう。
『空気どのくらい保つ?』
『うーん、まあ10分くらい?』
『きっつ』
ようやく爆弾入りのコンテナが顕わになった。船内は、サーシャのいる会議室と医療区画以外は1.0Gだ。コンテナはサーシャによれば約500Kg。ローダーの出力で十分持てる重量ではあるが、サイズが縦横約2.5m、長さが3.7mほどと大きいから引きずって運ぶ事になる。速度は出ない。
しかし、1000年経ってもコンテナのサイズって変わらないのな。陸自でも12フィートコンテナ使ったっけ。と変な感慨に浸る健二。
物資搬入用エアロックの船内側隔壁を開いて、えっちらおっちらコンテナを運び込む。
『これ外側の隔壁開いたら、格納庫の空気抜けちゃうよね?』
『……そのくらい、俺様が内側隔壁にシールド張れば済むにゃ。本当に残念なおつむにゃ』
『質問。残念なおつむ、とは?』 とサーシャ。
『頭が悪い、って事にゃ』
『脳に疾病が存在。提案。治療』
『サーシャさん、とりあえずその辺は後ほど』
健二は頭を抱えたくなる。リィンには、冗談という概念は無いらしい。
『いや俺様、冗談言ってるつもりは無いにゃ。本気にゃ』
とか言ってるうちに、コンテナを外側隔壁の手前まで運び終わった。
『よし、シールド張るぞ。張ったらすぐに隔壁開けろ』
フォン。健二の周りから空気の流れが消える。半透明のシールドが体の周りを取り囲んでいる。
「ほんとに小さいな!」 思わず声に出してしまう。ビニール袋を被って遊ぶ子供みたいだ。事故って病院送りになるやつ。
健二は、すぐさま外側の隔壁の溝にアームを差し込み、右側にずらし始めた。隙間が出来て勢いよく空気が抜けていく。さすがに多層構造の壁だけあって分厚くて重い。隔壁はじりじりとゆっくり開いて行く。遅くてもどかしい。
と、隔壁の移動が止まった。
「え!?」
何かが引っかかって動きを阻害している。それどころか扉が閉じようとする力が働き始めた。
『報告。ナノマシンを麻痺させていたウィルスが、一部駆除されましたにゃ』 サーシャが告げる。なんてタイミングの悪い、健二は心の中で毒づく。
閉じようとする力は、ごく低速ではあるがローダーより強かった。どうする!?
『提案。ユニット・健二の保持する切断用具で隔壁を破壊可能と推測』
切断用具? って忍者刀のこと?
『確かにあれなら行けるにゃ。後で塞ぐから空気は気にするな! やれ!』
健二は、インベントリから忍者刀を取り出し、ローダーのマニピュレーターで保持した。閉じかけの外部隔壁の端、下から3mほどの高さに開口部側から差し込む。多少の抵抗は感じられたが、刀身は隔壁に埋まった。
『おお、行けるかも』
そのまま刀を横に、やはり3mほど薙ぐ。一旦抜いて縦に差し直し、今度は下に床まで。最後に床のすぐ上を反対側の扉の端まで切断した。切断した板を蹴り飛ばす。
隔壁に四角い穴が空いた。健二は刀をインベントリに格納すると、コンテナを掴み、そのまま助走を付けて穴から外に最大出力で押し出した。
手動の割にはそこそこの速度で、確実にコンテナはステーションから離れて行く。
船外に出たところで、コンテナが半透明の膜で覆われた。チビのシールド? 爆発は抑えられないんじゃなかったっけ?
『多少は威力減衰できるにゃ』
刀で開けた穴もシールドで塞がれる。同時に内側隔壁のシールドが解除され、空気がなだれ込んだ。健二を覆ったシールドも解除される。
切り裂いた壁の切断面から、壁と同じ色の粘体がにじみ出てきた。ナノマシンによる修復が始まっている。21世紀の人間には不気味な見た目だった。
『うーん』 健二はローダーをパージ・収納して格納庫に降り立つ。腕を組んで唸った。
『どうしたにゃ』
『いや、こんなバリア張れるんなら、京都で新選組と戦った時とかもっと楽勝だったんでは?』
念話でため息が聞こえる。
『だ・か・ら。それじゃ欠片は反応しない、って何度も言ってるだろ。今回はリィンにバレちゃってるから、最初で最後の例外にゃ』
『いやまあ、分かるけどさあ』
そこにサーシャが割り込む。
『質問。しんせんぐみ、とは?』
『あーあー、もう、お前らどうしてそう緊張感無いんにゃ!』
とか会話しつつ、健二は会議室へ走る。爆弾を始末しただけで、まだテロが終わった訳じゃ無い。




