テロ対策
方針が決まったところで、そのまま部屋で具体的な作戦を話し合う。
お茶とミルクは入れ替えた。茶菓子として草加煎餅と、猫用の煮干も追加する。レプリケーターって神。洗い物が無いって素晴らしい。
「困った事に、毎回テッラ・プリマのテロの方法が違うにゃ」
「テッラ・プリマ?」
「ああ、毎回毎回潜入してくる独立派の名前」
「へー。過去のテロ方法は?」
「外部からのミサイル1回、会議中の爆弾2回、直接刺し殺したのが2回」
「あれ? ここには7人到達してるんだよな? 残り2回は?」
「テロの前に交渉が決裂してサーシャがバイバイ」
あ~。そういう可能性もあるのか。草加煎餅をおかわりしながら頷く健二。
「今回は俺様とお前が塔として認識されてる限り、交渉決裂はたぶん無い。何せ『小さな和音』だからな俺様」
確かに。サーシャは人間離れした表情なりに、チビに興味津々だ。自分から離脱する事は無さそうだ。
「ところで、その和音、って何?」
「たぶん、同じ時間を何度も繰り返してるから、存在が重複してるんだと思う。それが重なった音に聞こえてるんじゃないかにゃ」
「なるほどね。ああごめん、話の腰折って。テロに戻ろう」
チビ、新しい煮干をレプリケーターから取り出して囓る。ばりばり良い音がする。食い過ぎな気がしてきた。
「ミサイルは、俺様が自重しないなら対処できるにゃ。爆弾も事前に場所が分かれば封印対処できるし、分からなくても爆発を即封じ込められるにゃ。五百万年先の技術だからな俺様。んで刺殺も銃撃も前もって分かってれば、お前なら防げるだろ?」
「たぶん」
まあ確かに。最近はサーシャ、ほぼ俺の隣に陣取ってるからな。でも、会議室以外、医務室を襲撃されたら?
「そこは、俺様が付く。同じ部屋にいるのはサーシャなら許してくれるだろう。今や、にゃーにゃー仲間だし」
「サーシャはともかく、団長は許可してくれるかな」
チビは、両前足を顔の前で左右に広げる。猫はそんなポーズしません。
「はっ。頭使うにゃ。『チビ様と一緒にいたい』ってサーシャに言わせればいいにゃ」
「どうやって……あ、念話でネゴればいいのか」
「そゆこと」
そうだ。
「もういっそのこと、サーシャに事情を話して協力してもらう、ってのは?」
「ニワトリ頭。前に言ったろ、お前がお前として相互作用しないと欠片出てこないの。百合子の話しちゃったら失敗するの」
「あ、もしかして実験済み?」
「そ。思いっきり失敗済み」
「そっかー。ままならないねえ」
「ままならんのよ」
一人と一匹で沈黙。お茶をずずーっと啜る。チビは煮干をカリカリし続ける。
「そのテロリストって、前もってメンバー分からないの? 分かれば事前に拘束するなり警戒するなりできるでしょ」
煮干の尻尾を口の横に張り付かせながら顔をあげるチビ。テーブルの上が煮干のカスだらけだ。
「それがねー、なんか毎回メンツが違うの。どうも2000年代からの誤差が蓄積してるみたいで、不確定性が大きいんだよね。だから殺害方法も様々」
「そっか、ぶっつけ本番か」
「にゃ」
残りの煮干と煎餅を黙々と食べる一人と一匹。焼きたてをすぐにデータ化した煎餅の旨いこと。
「そうそう、もう一つ聞きたい事があった。ロイデで船が沢山遭難してるじゃん?」
「ああ、百瀬の音がまだ聞こえる、って奴ね」
「あれって結局どういうことなん?」
「うん、遭難した連中はみんな生きてるよ」
ケロッとした顔でチビは言った。
「え! マジ? 百瀬さんもヨルゲンさんもノアも? ついでにサラも?」
「ついでって、お前酷いにゃ。まあ時間が停止してるから、厳密には生きてる訳じゃないけど。ロイデから出せれば再起動するにゃ」
「元の俺、なんで出してやらないの?」
「できないのにゃ」
できない?
「あそこからは情報以外の何者も出られないにゃ。五百万年研究したオリジナル健二でさえも。時間の特異点は伊達じゃ無いにゃ」
「おおう……」
口の周りを煮干のカスだらけにした猫がすっくと立ち上がる。
「テロの件を片付けたら、そっちを検討するにゃ。幸い連中は停止してるから、考える時間はいくらでもあるにゃ」
「口拭こうぜ」




