独立派
独立派、の中でも最も過激な一派に、テッラ・プリマという集団がいた。「人類ファースト」を極端に信奉するグループで、「人類は、自らの道を見つける能力を異星に明け渡してはいけない」としてリィンの排斥を声高に訴え続けている。
そんな彼らにとって、サーシャは最優先殺害目標だ。人類の裏切り者、と主張している。別にサーシャは好きで遭難した訳ではないので何とも理不尽な事だが、いつの世も極右というのはそういうものなのかもしれない。
サーシャは、リィンとの交渉の要である。彼女が排除されてしまえば、交渉は何十年も後退してしまう。独立派は彼女を排除せねばならず、推進派は絶対に彼女を守護しなければならない。衝突は必然だった。
人類協同機構は、ドビュッシーに戦力を配置して独立派からの襲撃に備えている。もちろん内部テロにも備えてステーション人員の思想チェックも万全。
……のはずだった。
独立派自体は、サーシャの存在が判明する以前から人類協同機構の内には存在していた。そもそも人類協同機構は対異星人組織ではなく人類圏の統治機構、単なるお役所だ。色々な思想の人間がいる。それ自体は問題にならない。その中に、テッラ・プリマの指導者・マルクスがいた。
マルクス・トーレン。元軍人で、極右のカリスマ的排外主義者。テッラ・プリマを裏で率いる黒幕だ。勿論、人類協同機構内では秘匿していたが。
しかしサーシャの存在が明らかになって、彼らはサーシャを暗殺する必要に迫られた。交渉団が組まれる事が決定するが、そのままでは思想判別のための脳チェックを通過できない。
ここでマルクスたちは、違法なナノマシンに手を出した。ナノマシンの脳への投与は、外科的な医療目的以外では厳重に禁止されている。犯罪者の性格矯正など実験された事もあったが、高い確率で彼らは廃人になった。3000年代の技術でも、脳の処理にはナノマシンも追いついていないのだった。
しかしマルクスはこれを自分に投与した。一時的に穏健派を偽装し、時限で元の自我を取り戻す。大変危険な賭けだったが、これに成功。交渉団に紛れ込む事に成功する。
結果、マルクス自身は交渉団のメンバーとして、他数人が技術者としてドビュッシーに潜入してしまった。
彼らは、ステーション内でサーシャ殺害のための事前工作を始めた。誰もそれに気づいていなかった。
もしかしたら、リィンは感知していたかもしれない。だが、基本的に彼らは常に傍観者だ。情報を積極的に交渉団に伝えたりはしなかった。たとえサーシャの命に危険があったとしても。




