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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
第七章 地球外文明
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あかつき船団


 初回の会合が終了後、リィンはロイデ星系で遭難した人類の船について集めたデータを送信してきた。

 莫大なデータ量であった。関係する全ての船の針路詳細と通信記録はもとより、船内での会話記録や個人のログまで含まれていた。リィンに対しては人類のセキュリティなど無いようなもの、という驚愕の事実が交渉団を打ちのめすのだが、それはまた別の話。


 それらのデータの中で、リィンが特に注目していると通知してきたのが、あかつき船団だった。

 注目する理由としてリィンが挙げたのが、サーシャとは別の「解決できない音」が搭乗していたが助けられなかった事実。そしてロイデ星系で遭難が頻発していたにも関わらず、あかつき船団がロイデを目指していたから、であった。


 提供された音響データをステーションのAIが要約した結果。何百年も前の古いデータでもあり機密性も無いと思われたので、健二たち通訳連にも閲覧が許可された。大会議室に専用のサーバーが設置され、そこへ手元の端末からの閲覧のみアクセス可能にされた。



 健二はサーバーのデータから、あかつき関連をひもとく。そこには遭難の真相が記されていた。


 あかつき船団がロイデに向かうのに先だって、無人の探査機がロイデを訪れていた。軌道上からの探索結果は非常に有望で、資源量・生存環境ともに飛び抜けて優秀。テラフォーミングのコストをほとんど掛けずに移植可能であった。


 その結果を受けて次に有人の探査船が送り込まれたが、この船が失踪してしまう。


 この失踪した探査船のデータは、人類側には残っていなかった。これは不自然である。この船の前後の探査船のつながりに空白がある事を見るに、この事故が隠蔽された、と考えるのが自然だった。


 どうあってもロイデ開発を強行したい勢力が存在していて、それが本来別の星系に入植する予定だったあかつき船団を送り出した。その勢力が見逃していたのが、あかつき船団に情報長として乗務していたエルザ・ハルトマンである。


 ハルトマンには娘がいた。リーゼ・ハルトマン。彼女は失踪した探査船の乗員だったが、失踪の詳細はエルザ・ハルトマンには一切知らされなかった。知らされたのは、探査船がロイデを目指す「途中」で事故を起こした、という記録のみ。


 娘がいなくなった記録の不備に納得の行かないハルトマン。当時、軌道防衛軍の将校だった彼女は、あらゆる表と裏の伝手を使って事件について調査した。そして、事故の記録が改ざんされたもので、実際は探査船はロイデに到着していて、そこで原因不明の遭難をしていた事を突き止める。


 その勢力は政治的な手段であかつき船団の目的地を変更させる。それを知ったハルトマンは、それを阻止して真実を知るべく軍を辞してあかつき船団に合流した。


 ハルトマンは、勢力のメンバーが船団に潜んでいると踏んでいたが、それが誰だか分からない。バレないように進路をアクア系に変更するのは困難だったが、権限を活用してなんとか内密にやりとげた。


 そんな中、原因不明のノイズが船内から発生する。ハルトマンは、サラより先に発生源が百瀬である事を突き止めた。更に百瀬には出生の記録が無い事にも気づく。ここで彼女は、百瀬が勢力の工作員だと確信する。彼女はヘンリー団長とチェン副団長に働きかけて、百瀬の排除に動いたが、これは勘違いであった。


 しかし団長と副団長の動きは鈍い。進路をアクア系に変更したのも露見してしまった。このままではロイデに最終アプローチするジャンプを許してしまう。


 そこで彼女が選択したのが、海賊船団「鉄鯨」への襲撃依頼。鉄鯨の首領イワンは元軍人で、ハルトマンの元部下だった。彼に連絡し、船団を襲撃させる。ただしあくまで航行を困難にするだけで人命は奪わない、という条件で高額な代金を支払った。


 ただ、イワンは元軍人とは言っても所詮は海賊に身を落とした人間。不十分な襲撃の結果はヒノデが航行不能となっただけで、船団の残りはロイデへ向けて跳躍可能なまま残ってしまった。


 そして、そんなハルトマンの行動の最中に、彼女は自室で死亡してしまう。


 ログの死因は不明死、だった。正確には記しようも無かったのだ。外傷も毒物も病変も無い。ヘンリーが見つけた時には、ただ眠るように事切れていて、争った跡も苦しんだ跡も無かった。あらゆる検査が「異常なし」を返し、しかし彼女は確かに死んでいた。原因を特定不能、とだけ残された。最後に『ロイデに行ってはならない』と書き残すのが、彼女に出来た精一杯だった。


「……なんだ、これ」


 ハルトマンは、ロイデ開発を強行する勢力の工作員が船団に潜んでいると信じ、その影に怯えていた。実際にそんな人間がいたのかどうか、ログは何も語らない。リィンの網にかかっていないからには、本当にいなかったのかもしれない。


 元情報将校の執念で、彼女は誰よりもあの旋律に肉薄していた。ノイズを暗号と疑い、記録し解析し発生源が機械ではなく船内の一個人——百瀬である事まで突き止めていた。しかし観測され、捕らえられ、標本として棚に並べられる事を、百瀬の『何か』は拒んだのだろう。意志とも呼べない、ただの自己保存の反射として。


 救おうとしているもの。五つ、今を入れれば六つの時代をかけて拾い集めてきた、あの温かい欠片。その一つが、無自覚のうちに一人の有能な女性を世界から消していた。健二は喉の奥が苦くなる。


 皮肉な話だった。娘の遭難が人間のせいだと思っていたハルトマンは、しかしこの宇宙を静かに蝕む現象の核心に誰よりも近づいた人間だったのだ。そして近づきすぎて、消えた。その功績も無念も誰にも知られないまま。



「あなたたちがそこで聞いていた声は、わたし・わたしたちにも届いていた」


 会議卓の反対側に座るサーシャが誰にともなく話す。と言っても対象は明らかに健二だったが。他の団員も既にカズトを特別扱いし始めていた。


「それは、解決しない旋律の一部。ユニット・サーシャの音でもある」


「百瀬主任航海士が『解決しない音』だった、と?」


「肯定。そして追加情報がある」


「?」


「『解決しない音』は、まだ途切れていない」


 は? 健二は理解が追いつかない。


「……百瀬さんが、まだ、生きてる?」


「不明。音はまだ重なった時間の和音の中で鳴っている」


 そう、もう700年も経っているのだ、百瀬たちが生きている訳がない。では何故まだ痕跡が?


「理由は不明。わたし・わたしたちはそこを調べる事ができない」


「気持ち悪いんだっけ」


「肯定」


 いったいロイデとは、なんなんだろう。


「疑問。小さな和音がここにいないのは何故か?」


 小さな和音? ああ、チビの事か。


「あいつなら、夕べから部屋に引きこもってるよ」『リィンの能力を見誤ってたのがショックだったんだろう』


「了解」『ふむ、その経緯には興味があるにゃ』


 表に出す声と、裏で念話で内緒話。俺も人間離れしてきたなあ、と健二は心の片隅で嘆息した。しかし語尾。サーシャ、律儀だな。


 チビが黙り込んでいる理由はなんとなく分かる。各階層は塔による時間平面のコピーだと言っていた。それなら、コピーであるはずのリィンが階層の外側にあるはずの塔の事を知っているのはおかしい。しかし実際は『巨大な和音』として認識されてしまっている。チビが関係している事もバレている。各階層に百合子が散らばっている事も。


 つまり、塔もチビも実はこの作り物宇宙を掌握していなかった、という事だ。自信満々だった連中には想定外なんだろう。今頃は塔の誰かと前後策を検討してるのかもしれない。


「そのうち、また顔を出すと思うよ」


「理解」


 そこでサーシャは僅かに首を右に傾けた。


『疑問。何故ユニット・健二は星音の語尾を【にゃ】にしないのかにゃ?』


 ありゃ、本名までバレてら。今更だがリィン怖え。


『地球では、にゃーにゃー言うのは猫とメイドだけだ。俺はただの人間なのでにゃー言わない』


『理解。それではユニット・サーシャも語尾を修正すべきか?』


『いいや、どちらでも構わないと思うぞ。ユニット・健二の個人的感想としては、可愛いからそのままでもOKだ』


『可愛い、理解不能。しかし否定的な意味合いも感じられないにゃ。当面は維持する事にするにゃ』


 言ってしまってから改めて、なんだか異星人との交渉の場に俺とチビがいたら色々マズいんじゃなかろうか、と健二は思った。とりあえず実音声でもにゃーにゃー言い出さない事を祈ろう。異文化を萌え汚染した下手人とか言われそうだ。




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