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星を聴く者


 わたし・わたしたち、は宇宙の音から生まれた。


 遠い遠い昔、自分の存在に気づいてから、ずっと周りの音を聞きながら漂っている。他にすることもない。


 宇宙は単純な音で満ちている。星はさらさらした単音で生まれ、安定した長い音を伸ばし、短い高い音で消える。


 それらの星の回りには、別の小さな音が巡っている事も多かった。星とそれらが奏でる和音は美しい。宇宙のあらゆるところで、わたし・わたしたちはそれに聞き入った。長い長いあいだ。大小あまたの星が生まれては消え、消えては生まれた。


 ごく稀に小さな星が、更に小さな沢山の音を奏で始めることがあった。

 小さな小さな音。それらは集まって複雑な旋律を奏でる。あまり美しくない事も多かった。そして星の音が終わるより遙かに短い期間で、儚く消えていく。わたし・わたしたちはそれを記憶に留める。


 わたし・わたしたちは、自分でも音を出せる事に気づいた。星に語りかける。空間に語りかける。彼らはそれに答えてくれる。その答えを使って、わたし・わたしたちは自身を少しずつ変容させていく。もっと多くの音を、もっと遠くの音を、もっと綺麗に聞き取れるように。


---


 長い長い時が過ぎたが、わたし・わたしたちのする事は変わらない。


 ある時、その音に気づいた。それは、とある銀河の、とある星を回る小さな星から発生していた。いつもと同じ小さな音が少しずつ増えて重なり、大きな音となった。そこまではいつもの事だった。


 しかしある時、その音たちの中に、ほんの小さな、しかし特殊な音が鳴っている事に気づいた。漏れてくる雑多の音の中で、それだけが複数あった。いくつもの時間の中に一定の期間だけ現れる同じ音。今までに聞いたことのない音。

 更に、その音は他の星にも存在していた。初めて出会う現象。今まで、一つの音は常に一つ。移動する事はあっても複数あることは無かった。


 何故同じ音が色々な時間と場所にあるのか。理解できなかった。解決しない音。わたし・わたしたちはそれを関心の高いものとして記憶に留める。


---


 その解決しない音とは別に、同じ星から不思議な音の列が届いていた。数を並べ、形を並べ、規則を作る。それは、初めて聞くわたし・わたしたちへの問いかけのようだった。答えてくれ、と急かす音列。

 わたし・わたしたちはそれに返答した。こちらのやり方で。でもかみ合わなかった。わたし・わたしたちは数を数えない。規則も作らない。数や量の概念はある。でも、それはわたし・わたしたちの音ではない。そのまま、その小さな星が大きな星の周りを百回以上巡る間すれ違い続けた。


 そんな終わりの見えないやりとりが続いたある日、星から別の音が届いた。

 それは、わたし・わたしたちにとっての意味が内包された旋律。数えない音階。暖かい音の連なり。

 わたし・わたしたちは、それに自分の旋律を重ねた。和声を作った。はじめて二つの音の意味は出会った。会話が始まった。彼らとの歌は少しずつ近づいている。


---


 この宇宙には、いくつか時間の音が濃い場所がある。わたし・わたしたちは、その和音に近づかない。その周りにいると気分が悪い。体が色々な方向に引っ張られてちぎれそうになる。

 しかし、その場所は見た目だけは普通の星の集まりだ。だからなのか、まれにそこに近づいてしまう小さな音たちがある。それらは全て時間の和音に飲み込まれて凍ってしまう。


 例外は、とてもとても小さな、しかし特殊な音、解決しない音の一つ。それ以前にも、解決しない音が和音に飲み込まれる事はあった。ただ、その一回だけは小さな音が一つだけ和音に飲み込まれる直前に外に吐き出された。

 わたし・わたしたちは、初めて自己のあり方を曲げた。小さな音を拾い上げ、音を構成する要素を学び、音が消滅しないよう保護した。

 その小さな音は、解決しない音ではあったが、それでも会話を始めた彼らの音にとても似ていた。その小さな音は少しずつ大きくなった。すぐに、わたし・わたしたちの音を宿すようになった。わたし・わたしたちでもあり、彼らでもある小さな音。


---


 近ごろ、別の歌のなかにこれまでになかったものが動いている。星でもない、空間の天気でもない。意思を持った音。


 どこかで、誰かが、和音を組み上げている。時の幾重もの層を貫いて、手を伸ばしている——あの、解決しない音へと。ばらばらに鳴り続けるその音たちを、ひとつところへ集めようとするかのように。


 わたし・わたしたちは、そちらへ向いて動きはじめている。


 そして、会話を始めた温かい小さな音たちが、わたしたちとより深く旋律を交わすために、ひとつの静かな場所へ集まりつつある。その中に、喉の奥に解決しない音を宿したひとりの子がいる。そのかたわらには、組み上げられた和音をわずかに帯びた、小さな温かいものもいる。


 わたし・わたしたちと、保護した小さな音はその場所に出向いた、わたし・わたしたちと彼らの和声を解決するために。




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