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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
プロローグ
3/33

十年


 健二が触れたあの『空間のブレ』。あれはオカルトなんかじゃない。極めて高度な、未知のエネルギー現象だ。


「あの日何が起きたのか。それを解き明かさない限り、俺の時間は進まない」


 そう決めてからの十年間、健二の人生は一点に特化した。

 取り憑かれたように学問に没頭した。高校、大学、そして大学院。専攻したのは理論物理学。

 量子力学から重力理論から超弦理論から、この宇宙の「裏側」を説明できる理屈を貪り食った。


 同時に、電気・電子工学のスキルも叩き込んだ。元々電気工作は好きだった。

 理論だけでは足りない。彼女を消し去ったシステムが何かある。それに干渉するための道具が必要だった。勿論あんな超常現象に現代の電気工学が役に立つとは思ってはいない。しかしそれでもあると無いとでは大違いだろう。高校在学中に電工二種と一種試験を、大学在学中に電験二種まで取得したのも、時空に干渉しうる国家級の電力を制御するための、最低限のライセンスに過ぎない。


 だが、大学の研究室でいじれる程度の機材では限界があった。もっと巨大な、国家レベルの『異常』に触れられる場所。


「健二、お前ほどの学識と技術があれば自衛隊でも重宝される。特に施設科なら、インフラの維持から特殊な設備の構築まで思いのままだぞ」


 という親戚の勧めもあって、健二は陸上自衛隊への入隊を決めた。幹部候補生として受検・合格、陸自に進み幹部候補生学校を修了、三等陸尉として任官。東部方面を希望して朝霞駐屯地の施設科に配属された。通常なら配属はもっと地方から始まるものらしいのだが、自衛官への進路希望者が年々減るなか練馬も朝霞も深刻な人手不足で背に腹は代えられないという事らしかった。

 周囲からは「なぜそのスペックで自衛隊に?」と不思議がられたが、答えは簡単だ。日本で最も『説明のつかない事態』に、最前線で、物理的に介入できる組織はそこしかなかったからだ。


 今はベテランの曹に師事しながら実務経験の蓄積と電験一種の勉強中の毎日。泥臭い仕事ではあるが、現場によって作業はさまざまで飽きる事がない。自衛隊の現場作業には確実性と安全性が他の業種よりも高度に要求されるので、AI・フィジカルAIに代替されにくい。もちろん自分の時間で理論物理学の研究も続けていた。


 忙しく暮らしていたが、ときおり官舎の窓から外をぼーっと見ている事がある。同期からは天然扱いされたりするが、健二の脳裏にあるのは消えた百合子の事だ。高校・大学・社会人、と通じて女性と交際したことは一度も無かった。もちろん仲の良い異性の知人はそこそこいるが、そういう関係になったためしがない。百合子が忘れられないのは確かだが、しかし別に恋していた訳でもないし自分でも何故なのか良く分からないのだった。別れ方が別れ方だったから、一種のトラウマになっているのかもしれない、と自己分析してみる。しかしそれで何が変わるわけでもなく、日々は平穏に過ぎていった。


——その日までは。



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