移送
その後。新薬によって徳さんや他の新株感染者は命を取り留めた。まだまだ予断を許さないが危機は脱したらしい。
しかし耐性株拡大により、第七施設の医療チームを別の重症者センターへ移送する事になった。澪含む医師全員が対象。患者も順次移送。
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移送前日。いつもの裏口。チビを膝に乗せて撫でる澪の姿があった。膝の上で香箱を作って座り込み、喉を鳴らすチビ。
「岡田さんには感謝しきれない。会う事があったら宜しくね」
胞子の雪が無音で降る。
いつもは澪にしか聞こえない胞子からの旋律。この時はチビにも聞こえていた。歌う澪。
「ふんふん、ふふーん。ふふふふーん」
「にゃんにゃん、にゃにゃーん、にゃにゃにゃにゃーん」
繰り返す猫に目を見開く。
「あなた、メロディ聞こえるんだ? というか猫なのに歌えるの!?」
「にゃにゃにゃにゃーん」
「うそ…… あなた本当に猫?」
「にゃーん」
「そっか。なんだか不思議な猫だとは思ってたけど」
澪は、ポケットから首輪を取り出した。
「そうそう。これ、プレゼント」
澪の細い、でも医師の力強い指が首輪をチビに装着した。
「野良猫に間違われて捕獲されないようにと思って、用意しといたの」
赤いレザーの首輪。鈴は付いてないが、金色のオーナメントがぶら下がっている。
「そこに集めた旋律データのメモリーチップが入ってる。もし岡田さんにまた会えたら、渡しておいてね」
チビを膝から下ろして立ち上がる。
「お別れね。一緒に連れて行けないのは残念だけど。あなたと岡田さんには救われた。ありがとう」
手を振って裏口から中へ入っていった。その場に残されるチビ。
「こちらこそ、百合子の欠片を守ってくれてありがとうにゃ」
つぶやくチビの声は誰にも届いていなかった。




