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はじめましてを何度でも  作者: ぽんた7
第三章 疫病都市
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防護マスクの向こう


 数日後。大輝とリナの担当ルートが変更になった。

 第七隔離施設。重症者と慢性患者が比較的多い病棟だ。そのためか物資が細かく別れていて配送量が多く、感染のリスクも上がるため社員の間では人気のないルートである。配送は歩合制なので、大輝にとっては稼げて助かることは助かるが。


 施設入り初日。荷物を置いた大輝がゲートに戻ろうとすると、施設建物の裏手にチビがいた。何してるんだ?

 チビは一瞬だけ目を合わせると、すぐに建物の隙間に消えた。


「今の猫、隔離施設に出入りしてませんでした?」


 端末で伝票を整理しているリナに聞く。彼女はチラっと建物を一瞥して、


「ああ、あの子ね。施設の人たちがエサあげてるみたいだからいいんじゃね?」


「猫って感染しないんですか?」


「うん、大丈夫みたい。まあ毛皮に胞子付いちゃってるだろうから、区域外には絶対に出せないけどねえ」


「そりゃそうですよね」


 作業の終わったリナとゲートに向けて移動する。リナは伝票をパラパラとフリックし続ける。


「げえ、次は大物だ」


とぼやく。


「大物?」


「そう、重量物。区域の外ならトラックとリフトでいいんだけど、ここ車両禁止だからローダー使うんだ」


「ああ、そういう」


「起動認証とかめんどくさいんだよ」


 パワーローダー、通称ローダー。いわゆる強化外骨格だな。お、大輝君操縦免許持ってるな。あー、それでここに配属されたのか。


「ははは、もう少しです頑張りましょう」


「他のコトで頑張りたいよ、ワタクシは」


 リナ先輩、平常運転。


「そういや、なんで車両ダメなんです?」


「突貫工事で隔離したからね。ほら、あちこちにパイプやらダクトやらドームやらあるでしょ。車通れないとこ多いんだよ」


「ああ、確かに」


「あとは、ローダーの方が構造がオープンだから消毒しやすいみたいだね。トラックって狭い隙間多いでしょ」


 なるほど、そういえばローダーのほうが分解整備も簡単そうだ。


「なら、飛行ドローンは?」


「いやいや。胞子盛大に巻き上げてどうするよ。飛ぶ奴は全て禁止」


「ありがとうございます、良くわかりました」


「うんうん。たっぷり尊敬したまえよ。お姉さんローダーにはちょーっと詳しいぜ?」


 ゲートには大きな荷物が待っていた。リナ先輩も当然のようにローダー免許は持っていたが、結局作業したのは大輝だった。そんなもんだよね。



---


 翌日の配送。第七隔離施設受付の人に


「ああ、悪いんだけどそれ裏口に運んどいて」


と言われて、建物の裏に回った。


「そういうのは自分たちでやってほしいなあ...」


 と小声で文句を言いつつ施設の裏手を通りかかった時、その人がいた。


 裏口の段差に女性が座っている。防護服のマスクを顎まで下げてしまっている。感染防止的にはどうなのか。首から提げたネームプレートは医師を示す白。ちなみに大輝のような配送員は緑だ。


 その膝の上にはチビがいて、背中を撫でられている。健二は荷物を運びながらつい見てしまう。

 チビは喉をゴロゴロ鳴らしている。その医師は首を右に傾けながら小さく笑っている。


 健二の足が止まる。笑いながら傾く首、百合子の変な癖。その膝の猫に話しかけている。高くも低くもなく、ちょっと息漏れ気味の柔らかい声。


『いた』


 大きくなる鼓動とともに健二は目を見張る。するとチビがこちらに気づいて顔を上げた。


『やっと来たにゃ』


 女性のところまで荷物を運ぶ。「お届け物でーす」


「あら、ここに?」


「受付の人にここに運んでくれ、って言われまして」


 女性は立ち上がり、荷物の伝票を見る。


「ああ、これね。別に正面でも良かったのになあ。ごめんね?」


「いえいえ、この位なら」


「私のサインでもいい?」


「あ、はい大丈夫です」


 女性はタブレット伝票に指でサインした。『東山』。


「はい」


「ありがとうございます、まいどあり」


『まいどあり、って。昭和かよ』


 猫を無視してその場を立ち去る。背後から鼻歌が聞こえてきた。百合子がいつも口ずさんでいた、あの変なメロディ。不意打ちに涙が出そうになる。


『本当に百合子なんだな』


『一部だけどな』


---


 勤務が終わって独身寮に戻った。個室だ。もっとも自衛隊官舎でも尉官は個室だったが、それよりも設備が上等だ。まあ半世紀ちょい経過して色々進歩してるせいかもしれないが。


 シャワーを浴びて出ると、ベッドの上にチビがいた。


「あれ、お前第七施設にいたんじゃ?」


「ああ、今もいるよ? でも俺様端末だから、どこに出るのも自由自在。ちなみに毛皮に胞子とか付いてないからな」


「便利なことで。端末って何の端末なのさ」


「もう分かってるだろ。塔のだよ」


 そこは疑問に思ってない。


「そうじゃなくて。塔が生きてる訳じゃないだろ? 裏にいるのは誰よ」


「禁則事項」


「うそつけ」


「あながち嘘でも無いんだけどにゃ。とりあえず今のお前には邪魔な情報だから。気にすんにゃ」


 うーん、気になるがどうせ問い詰めても無駄なんだろう。話を変える。


「今日、百合子、じゃなかった東山先生、なんでマスク外してたんだ? 危ないだろうに」


「それなー。なんか音楽が聞こえるんだそうだ。マスクしてると良く聞こえないんだと」


「音楽?」


「なんでも胞子の雪の中に音が聞こえるんだと。医療用のごっついマスクだとフィルターが音を遮りすぎるから、わざと外して聴いてる。バカな話だが、まあ……お前にも聞き覚えがあるんじゃないか?」


 さっきの鼻歌。百合子の鼻歌の一部。


「そうか、不完全だったもんなあの歌。でも何でそんなの知りたいんだろう」


「理屈じゃないんだと思うにゃ。バグだからな」



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