空襲 - 11月24日
空襲当日の朝。
健二は家を出ると環の家の勝手口を叩いた。環が顔を出す。
「どうしたの? まだ出勤には早くない?」
「今日、チビの態度がおかしい。何かあるかもしれないから、防空壕へ避難する準備をしておいてくれ」
環はきょとんとして問い返す。
「態度がおかしい、っていったい何があったのよ。それがなんで避難するなんて話に」
環の言葉を遮って続ける。
「たのむ、信じてくれ。チビが正しいなら本当に危ない事になるんだ」
環は疑うような目で真一を見るが、あきらめたようで頷いた。
「そこまで真剣に言うのなら。分かったわ。必要な手荷物をまとめておくわ」
家に戻ると、同じ事を母親にも頼む。チビの勘の良さは彼女も良く知るところなので、信じて荷物作りを始めてくれた。それを確認すると、健二は工場へ向かう。
今日の空襲はほぼ死傷者は出ないはずだ。防空壕だけで問題ないだろう。
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工場で作業中、昼過ぎ。
『う~、う~、う~』という断続音の警戒警報の直後、大した間隔も置かずに
『う~~~』
という連続音の空襲警報になった。ラジオが緊急放送を流し始める。
『東部軍管区情報、東部軍管区情報。敵機約90が後零時四十分、富士山上空より東進中。帝都およびその周辺地域に空襲警報を発令す。空襲警報を発令す。市民は直ちに防空陣地に退避せよ。』
来た。工場の操業は停止、工員は一旦帰宅となる。
今日は大丈夫だろうと思ってはいても、念のために家に向かって走る。そのまま隣組の防空壕に入った。チビは家で留守番。あいつはきっと爆撃されてもケロっとしてるんだろう。
壕には、環と母親、真一の母親もいた。よかった、これで今日は大丈夫。
ついでに嵐谷もいた。
「きさま、お国の仕事を投げ出して来たんじゃあるまいな?」
「いえ、帰宅命令を受けましたよ」
出入り口からわずかに漏れる光が、嵐谷の目つきを光らせている。
「こいつ、生意気な物言いしおって、西欧かぶれだな? 覚悟しとけよ! 絶対に暴いてやる」
何をだよ、と思ったが無駄なので黙っている。環からも呆れた雰囲気が伝わってくる。
そうしてしばらく経ち、午後3時ごろに警報は解除された。壕の周りにも被害はない。ほっと一息つく。
母親は寄り合いに出席。一人で家に戻るとチビがネコマンマを食べていた。
「ただいま」
「おう、おかえり。大丈夫だったろ?」
「ああ。問題は3日だよな」
「そうだな。まあ考えろ」




