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第19話_日曜日は俺から

「これも、これも食べ物」


 久瀬が俺のスマホを指で送った。

 昼飯、映画館のチュロス、家で作った焦げた卵。


「犬、探してるんだよね」

「前に撮ったはずなんだけど」

「朝倉、毎日何食べたか全部ある」


 金曜の放課後。

 拡張した稿の、犬の写真を見せる所を読んでいた。


 十七枚見せて、最後の失敗した一枚が好きだと言う。

 その写真が二人には見えて、客には見えない。だったら実際に何枚も見る感じを試したかった。


「ここ。これだ」


 やっと見つけた。

 近所の犬だ。飼い主に聞いて撮らせてもらったが、動き続けて鼻ばかり大きくなった。


 久瀬が画面を戻す。


「これは?」

「夜食」

「うん。犬じゃないのは分かる」


 もう一枚戻される。

 犬は、通り過ぎたらしい。


「これ、焦げてない?」

「食える所はあった」

「全部食べた?」

「食べた」


 久瀬が自分のスマホを出した。

 同じように菓子の写真はある。でも、それ以外は店の看板、変な形の雲、放送室の読みにくい連絡票だった。


「自分、あんまり写さないんだな」

「撮る方は私だもん」

「今度、撮るよ」


 彼女の指が止まった。

 顔が上がる前に、俺も何を言ったかに気づく。


「……また」

「うん」


 久瀬は自分の画面を閉じ、原稿を開いた。

 先週より返事が増えた『傘の返し方』。日々の話を増やして、十分の枠に出す形へ整えている。


 数学の間違いを自信満々で教えたこと。

 最後の犬の写真。翌日分ける約束の卵焼き。

 交換するおかずを決めても、女の子にはまだ言いたいことが残っていた。


 読むと、久瀬が卵焼きを多めにすると言う所で、俺を見た。

 返事をしたあとも、その目が少し残った。


 先週の土曜から、好きだと自分で分かっている。

 分かっただけでは、本人へ届かない。


「この後は、明日直して送る」

「うん。私は家で読む。月曜、合わせよう」


 久瀬が鞄を持った。

 俺も原稿を入れる。先に言わないと、練習の約束だけで今日が終わる。


「日曜、会わない?」


 戸口で、彼女が振り返った。


「明後日?」

「うん」

「何か、買う?」

「いや。遊びに行きたい。久瀬と」


 自分の声が、廊下へ出た。

 劇の男には何度も会いに行かせた。俺が言うと、たった一言のあとが長い。


「行く」


 久瀬の返事は早かった。


「……午後でいい? 午前、家の用事あるから」

「もちろん」

「でも、一時には出られる」


 予定が、すぐ具体的になっていく。

 彼女も鞄からスマホを出した。


「この前の三回目も、まだやってないし」

「うん。それもいい。でも、先に少し、歩きたい」

「どこ?」

「本屋に寄ってから、川の方。今度は、俺が道決めていい?」


 久瀬が俺の顔を見た。

 スマホを開きかけ、指を止める。


「……いいけど。集合だけ、先に教えて」

「一時半、前と同じ時計で」

「じゃ、その後は?」

「当日まで待って」

「朝倉、そういうの用意する人だったんだ」


 前は必要な物を買う道だった。

 今回は、この人に会いたい俺が、一緒に過ごす道を考える。


「会いたくて誘ってるから。それくらいは」

「……そっか」


 久瀬がスマホへ、時刻を入れた。

 画面をしまい、また出す。


「服で歩けない所、ないよね」

「登山には行かない」

「そうじゃなくて。靴、何にしようと思って」

「いつもので大丈夫」


 頷いてから、彼女はようやく鞄へ戻した。

 何も調べなくていいと言われる方も、落ち着かないらしい。


「私も日曜、午後は空いてた。誘おうかと思ってた」

「じゃ、今回は俺で」

「うん。楽しみにしてく」


 帰りの電車では、久瀬が降りる駅まで日曜の話をした。

 何時に帰るかを確認してから、彼女は最後に台本を鞄へ押し込んだ。


「明日は読むけど、明後日は持ってかない」

「俺も」


 扉が開く。

 降りた彼女が、ホームから一度手を振った。


 俺も手を振った。

 扉が閉まってから、スマホの予定を開いた。


 日曜、久瀬と。

 文化祭の予定より先に、もう一つ増えた。


 その日に何を言うかは、まだどこにも書かなかった。

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